冷却塔からの曝露が示唆されたレジオネラ症集積事例を経験して(第2報)
~検査対応および分子疫学的解析について~
(IASR Vol. 45 p116-117: 2024年7月号)
はじめに
管内の一定地域の住民に短期間にレジオネラ症患者が複数発生した(本号8ページ第1報参照)。本稿では, 曝露源探索のために実施したレジオネラ属菌の培養検査・迅速検査および分離菌株の分子疫学的解析〔パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)およびsequence-based typing(SBT)〕の結果を報告する。
対象と方法
レジオネラ属菌の分離培養・同定および迅速検査
患者喀痰20検体および人工環境水17施設35検体(府内公衆浴場から4施設9検体, 遊泳場から1施設1検体, 冷却塔から12施設25検体)を検査に供した。
患者喀痰からのレジオネラ属菌の分離培養は, 病原体検出マニュアル「レジオネラ症」1)に準じて実施し, レジオネラ免疫血清「生研」(デンカ)を用いて同定した。人工環境水からのレジオネラ属菌の分離培養は, 第4版レジオネラ症防止指針および公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法2)に準じ, ろ過濃縮法にて実施した。試料は, 熱処理および酸処理をそれぞれ行い, 冷却塔水については, 非濃縮試料も並行して行った。また, レジオネラ属菌の迅速検査は, 100倍濃縮試料2mLを試料としてLoopampレジオネラ検出試薬キット E(栄研化学: LAMP法)で行った。レジオネラ属菌の血清群の同定には, レジオネララテックスキット(Oxoid)を用いた。
解析対象株のスクリーニングとPFGE
患者由来株および冷却塔由来株のPFGEは, 病原体検出マニュアル1)に準じて実施した。冷却塔由来株については, 分離条件を基に代表株を選び, mompS遺伝子の一部領域の塩基配列を比較することでスクリーニングを行い, 解析対象株を絞り込んだ。具体的には, 分離条件に偏りがないよう選んだ代表株のうち, 患者由来株のmompS遺伝子の一部領域と塩基配列が一致した, あるいは1-2塩基が異なる株を解析対象株として, 1施設につき上限3株を絞り込み, PFGEに供した。泳動像はBioNumerics v6.6(Applied Maths)で解析した。
SBT
分離菌株のSBTは, 病原体検出マニュアル1)に準じて実施した。遺伝子型はレジオネラ・レファレンスセンターより提供のSBT検索ツールを用いて決定した。
結果・考察
患者喀痰20検体中8検体からLegionella pneumophila血清群1(以下, SG1)が分離された。なお, 入院日(治療開始前)の採痰者は11名(陽性7名), 治療開始後は9名(陽性1名)であった。感染源の解明には患者分離株と環境分離株との比較が必要であることから, 治療開始前の採痰は重要である。
公衆浴場および遊泳場からの10検体はすべてLAMP法, 培養法いずれも陰性であった。冷却塔水検体では, LAMP法で陽性は19検体, 陰性は5検体, 判定不可が1検体であった。培養法では, 17検体からレジオネラ属菌が検出され, 8検体は陰性であった。検出菌数は, 1.0×101~1.0×102CFU/100mL未満が3検体, 1.0×102~1.0×104CFU/100mL未満が7検体, 1.0×104CFU/100mL以上が7検体で, 最高検出菌数は1.9×105CFU/100mLであった。また7施設10検体からL. pneumophila SG1が分離された。
分子疫学的解析結果
PFGEの結果, 患者由来株8株とB冷却塔由来株3株の泳動像が, 類似度90%以上を示した(図)。SBTの結果, 患者由来株7株とB冷却塔由来株の遺伝子型(flaA: 2, pilE: 10, asd: 18, mip: 15, mompS: 25, proA: 5, neuA: 6)が一致した。患者由来株1株(患者5)については, 1遺伝子領域(flaA: 1)を除いて一致した。なお, 該当するsequence typeの登録はなかった。
本事例では, 患者喀痰および冷却塔水からレジオネラ属菌を分離・同定し, 分離菌株の分子疫学的解析結果から, 曝露源として推定される施設を絞り込むことができた。
今回, 培養検査とLAMP法を同時に実施したことで, 施設への指導を早く行うことができた。また, 曝露源探索を急ぐ中, 多くの冷却塔水検体から複数株のL. pneumophila SG1が分離され, 菌株間の遺伝的関連性を効率よく調べる必要が生じた。そのためmompS遺伝子の一部領域の配列情報を用いたスクリーニングを行い, 解析対象株を絞り込み, PFGEによる分子疫学的解析を実施した。これらにより, 早期の終息に貢献することができた。
謝辞: 患者調査等に御協力をいただきました医療機関の皆様に感謝申し上げます。また, 本事例の対応にあたり, 専門的助言を賜りました地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 枝川亜希子氏をはじめとする関係各課の皆様に深謝いたします。
参考文献
- 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル レジオネラ症 令和2(2020)年9月1日改訂
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Legionella20200904.pdf - 厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課長通知, 公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法について, 令和元(2019)年9月19日付 薬生衛発0919第1号