浴槽水のモノクロラミン消毒, 2024年時点
(IASR Vol. 45 p120: 2024年7月号)公衆浴場でレジオネラ集団感染が生じて, 水泳プールにならって遊離塩素消毒が導入され, 大規模な集団感染は防がれるようになった。それでもなお, 高pH(8以上)で消毒効果が不足したり, 塩素臭を敬遠して管理が不徹底になるなどがあり, いまだにレジオネラ感染の事故が浴場で生じることがある。この問題を緩和する方法として, 水道法施行規則第17条に記載されている結合塩素(モノクロラミン)に着目・応用したところ, 浴場の消毒不足や塩素臭の回避が可能になった。モノクロラミンは, 次亜塩素酸ナトリウムとアンモニアの反応により現場で生成, 浴槽水に添加されて, およそ3mg/Lの濃度で維持される。ここまでは先の特集関連情報の通りである(IASR 34: 168-169, 2013)。
モノクロラミン消毒は, 高pHに限らず, 人工炭酸泉などの, pH5まで応用が可能であった。それより低いpHでは, 遊離塩素でもそうだが, 塩素ガスが生じる恐れがあり, 注意が必要である(いわゆる, 混ぜるな危険)。遊離塩素に比べてモノクロラミンは酸化力が低く, 鉄やマンガンの析出が抑えられる。有機物, アンモニアを含む浴槽水, 薬湯等は遊離塩素を消費する成分が多く含まれ, また, 浴槽水の外観に影響が出る可能性もある。具体的には, 遊離塩素消毒では塩素が消費されたり, 薬湯の色が消える等の問題が生じる。一方, モノクロラミン消毒では塩素濃度の変動や薬湯の脱色が生じにくい。一連の成果は, 厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「公衆浴場の衛生管理の推進のための研究」他により, 多数の関係者の協力により得られた。
モノクロラミン消毒の効果は繰り返し確認され, 浴槽水からレジオネラが培養で検出されるといった問題は生じていない1-3)。ただし, モノクロラミンは消毒方法の1つであって, 洗浄を省略するための方法ではなく, 定期的な洗浄等の衛生管理が大事であることに変わりはないことを強調しておく。
モノクロラミンの使用は, 厚生労働省の通知「公衆浴場における衛生等管理要領等について〔令和元(2019)年9月19日生食発0919第8号〕」他への追記を通じて, 多くの自治体条例等に反映されつつあり, 普及は順調といえる。
参考文献
- 杉山寛治ら, 日本防菌防黴学会誌 45: 295-300, 2017
- 森 康則ら, 温泉科学(J Hot Spring Sci)69: 90-102, 2019
- 栁本恵太ら, 日本防菌防黴学会誌 49: 261-267, 2021