レジオネラ外部精度管理の現状
(IASR Vol. 45 p120-122: 2024年7月号)レジオネラの培養検査は, 公衆浴場等を行政指導する根拠や衛生管理を行ううえでの重要なデータであることから, 高い精度が求められる。培養法は「試料水の濃縮」, 「夾雑菌を抑制するための前処理」, 「選択培地への接種」の主に3工程で実施する定量試験である。これらの工程には複数の方法が示されており, 濃縮はろ過濃縮法または遠心濃縮法, 前処理は酸または熱処理, 使用培地はGVPCやWYO他がある。それぞれの工程で選択肢があることは, 試料の水質を考慮して適した検査方法を選択できるという利点がある一方で, 一連の操作が検査精度に反映されるため, 各検査機関の結果にばらつきが生じる要因となっている。そのため, 多くの検査機関は外部精度管理に参加して, 検査技術の評価を受けている。本稿では, レジオネラ外部精度管理の現状や概要について解説する。
外部精度管理の実際は, 外部で用意された模擬試料を各施設の標準作業手順書にしたがって検査して, 自他施設の結果を比較する。現在, 参加可能な外部精度管理は, 「英国健康安全保障庁(UK Health Security Agency: UKHSA)のExternal Quality Assessment(EQA)」および「英国食料環境研究庁(The Food and Environment Research Agency: Fera)のFood Analysis Performance Assessment Scheme(FAPAS®)」の2種がある(表)。国内実施中の島津ダイアグノスティクス(株)のレジオネラ属菌検査精度管理サーベイは, 検査法が指定されており, 工程の一部, 濃縮と培地接種操作などの手技の精度確認に主眼を置いた内容となっている。
英国2種の外部精度管理は, いずれも25年以上の歴史があり, 英国だけではなく全世界を対象としている。全体の手順は, 配付された試料を用いて指示書通りに試料水を作製し, 日常的に行っている方法で検査して結果(菌数・菌種)を報告する。集計された報告値は解析後, レポートとして参加者にフィードバックされる。レポートにはZスコアが示され, ±2以内が良好範囲と判定される。なお, いずれも菌数のみの報告でも参加可能である。
(1)UKHSAのEQA legionella isolation scheme(以下, UKHSA)は, 試料の作製, 配付から結果の解析などのすべてを自前で行っている。欧州を中心に150以上の検査機関が参加しており, 日本国内からは民間検査機関を中心に参加実績がある。2023年度には後述のレジオネラ研究班からUKHSAへ試験的に参加し, 地方衛生研究所(地衛研)での事務手続きなどを含めて確認した1)。2024年度には, 研究班の支援により地衛研55機関が参加予定である。配付試料には, 培地上でレジオネラ様のコロニー形状を示すレジオネラ属菌以外の細菌も含まれており, 環境水試料に非常に近い実践的な内容である。レポートの発行前に, 速報として試料に含まれていた菌種や菌数の通知が届く。また, Zスコアが良好範囲外の場合は, 再試験が用意されており, 希望者は受検できる。年4回の実施があり, 1回当たりの参加機関数は約150である。
(2)FeraのFAPAS® Legionella spp. in Environmental Water Proficiency Test(以下, FAPAS®)は, 試料作製は外部委託だが, 配付から結果の解析などは自前で行っている。Feraが実施する外部精度管理では, 食品分析を中心に世界4,500以上の検査機関が参加しているが, レジオネラについては日本からの参加実績がなかったため, 2022年度に研究班から試験的に参加した2)。内容や事務手続きを含めて問題はなかったことから, 2023年度には研究班の支援により地衛研55機関が参加し, 96%の機関が良好範囲内の結果であった。配付試料にはレジオネラのみが含まれており, レジオネラ以外の細菌は含まれない。年4回の実施があり, 1回当たりの参加機関数は約20である。
UKHSAには, 1998年から民間検査機関を中心に国内参加実績があり, 有用であることが示されてきた3)。しかし, 国内代理店がないため, 英語での手続きや事務的負担が大きいという課題があること, さらには, 行政機関の多くは海外送金不可のため参加ができない状況であった。研究班では, これら課題の解消を関係者に要請して, 2024年度より国内代理店を通じた参加手続きが開始されるに至った。これにより, すでに国内代理店のあるFAPAS®に加えUKHSAについても容易に参加可能になっている(日本語サポートあり)。レジオネラ検査機関は, それぞれに適した内容の外部精度管理を選択・活用していただければ幸甚である。
本研究は, 厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「公衆浴場の衛生管理の推進のための研究」(JPMH22LA1008)により実施した。
参考文献
- 枝川亜希子ら, 厚生労働科学研究費補助金 令和5(2023)年度総括・分担研究報告書: 158-166, 2023
- 枝川亜希子ら, 厚生労働科学研究費補助金 令和4(2022)年度総括・分担研究報告書: 112-120, 2022
- 井上浩章, ビルと環境 161: 43-50, 2018