国立感染症研究所

 

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環境水における遺伝子検査の活用について

(IASR Vol. 45 p122-123: 2024年7月号)
 

浴槽水などの環境水を対象としたレジオネラ属菌検査は, 検水をフィルターろ過または遠心濃縮後に, 一定量を選択分離培地に塗布する平板培養法が広く普及している。この培養の方法では, レジオネラ属菌の発育が遅いため, 結果が判明するまでに約1~2週間を要する。一方, 遺伝子検査法は, 検査試料中のレジオネラの遺伝子(DNA)を定性的あるいは定量的に直接検出するもので, 早ければ2~3時間, 遅くても翌日には結果が判明する。実際, 入浴設備の洗浄の効果確認などに活用されている。近年は, 採水現場で直ちにDNAを測定するモバイルPCRも開発されつつあり, さらに短時間で結果が得られることが期待される。

現在, 複数のレジオネラ属菌に特異的な遺伝子の検出試薬キットが市販されており, 検査しやすい環境が整っている。通常の遺伝子検査法では, 生菌由来DNAのみならず死菌由来DNAも検出するが, 死菌由来DNAからの増幅を阻害するethidium monoazide試薬(EMA)を組み合わせた「生菌特異的な遺伝子検査法」の試薬も市販されている。本稿では, こうした市販の遺伝子検査法と, 平板培養法との相関を, 環境中の実試料で検討した結果1)について紹介する。

qPCR法(quantitative PCR)

市販の検出試薬キット(タカラバイオ株式会社)を用いた場合, 検査開始から結果判定まで2~3時間程度, 平板培養法陽性検体の97%以上を検出できたが, 平板培養法に対する特異度は46.6%と低く(表a), 死菌DNAを検出している可能性が考えられた。死菌の存在はレジオネラ汚染があることを意味しており, 大事な結果といえるが, 生菌の培養結果と異なるので好まれないことがある。陰性的中率は98%以上と高く, レジオネラ陰性の判定に有用であり, 前述の入浴設備の洗浄効果の確認などの応用がある。

LC EMA-qPCR法(liquid culture ethidium monoazide-qPCR)

濃縮検体を液体培地(liquid culture)に添加して18時間の培養後, 死菌DNAからの増幅を阻害するEMA処理を実施することで, 続くqPCR反応では生菌由来のDNAを選択的に増幅させる, 一連の試薬が販売されている(タカラバイオ株式会社)。この試薬を用いた結果として, 平板培養法に対する感度は約90%, 特異度および一致率は約80%となった(表b)。本法は, 得られた菌数相当値と平板培養法の菌数の相関係数がqPCR法よりも高く(LC EMA-qPCR法: r=0.81, qPCR法: r=0.50), つまり平板培養法の菌数に近い結果が得られる。

LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)

qPCRは専用の高額な機器を必要とするが, そのような機器がなくても検査を可能とする, 等温遺伝子増幅法(LAMP法, 栄研化学株式会社)も整備されている。平板培養法に対する感度は83.1%と, qPCR法およびLC EMA-qPCR法よりやや低くても, 特異度および一致率は80%近くであった(表c)。LAMP法はqPCR法と同様に, 検査開始から2~3時間程度で結果が判明する。平板培養法に近い結果が得られる, 迅速・簡便な遺伝子検査法として有用と考えられた。

遺伝子検査法を導入する際は, それぞれの方法の特性を理解したうえで, どのように利用するかを検討することが望ましい。具体的には, 「清掃・消毒管理された検水におけるレジオネラ属菌の陰性を確認する場合」, 「平板培養法と併用したスクリーニング検査として利用する場合」, 「公衆浴場の水質基準に係る検査として, 平板培養法に置き換えて実施する場合」, 「レジオネラ症患者発生時における感染源追究のための検査の場合」など, 様々な用途で利用できると考えられる。研究班の報告書2)やwebページ(https://sites.google.com/view/legionella-resgr/test_main)にこうした活用例が記載されており, それらを参考にして, 公衆浴場等の衛生管理に活かしていただければと期待する。本報告は, 厚生労働科学研究の一環として実施した。

 

参考文献
  1. 金谷潤一ら, 日本防菌防黴学会誌 48: 515-522, 2020
  2. 金谷潤一ら, 厚生労働科学研究費補助金「公衆浴場におけるレジオネラ症対策に資する検査・消毒方法等の衛生管理手法の開発のための研究」令和2(2020)年度総括・分担研究報告書: 66-75, 2021
    https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202027009A-buntan7.pdf
富山県衛生研究所         
 金谷潤一            
宮城県仙南・仙塩広域水道事務所  
 山口友美            
東京都健康安全研究センター    
 武藤千恵子           
川崎市健康安全研究所       
 淀谷雄亮            
宮前区役所地域みまもり支援センター
 飯髙順子            
大分県衛生環境研究センター    
 佐々木麻里           
長崎県環境保健研究センター    
 田栗利紹 蔡 国喜 川野みどり 
国立感染症研究所         
 前川純子 泉山信司 倉 文明

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