国立感染症研究所

 

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マルチプレックスPCRによるLegionella pneumophila血清型別法について

(IASR Vol. 45 p123-124: 2024年7月号)
 

レジオネラ症の感染症発生動向調査への届出の9割以上は尿中抗原検査陽性による。この場合, 菌株は分離されないが, 感染源の解明には環境, 臨床からの菌株の分離, 比較が不可欠である。2019年に血清群(SG)1以外のLegionella pneumophilaの抗原も検出できる尿中抗原検出キットの販売が開始された。レジオネラ・レファレンスセンターで収集している臨床分離株は, 以前は9割以上がL. pneumophila SG1であったが, 2022年以降は, SG1以外のL. pneumophilaがおよそ2割を占めるようになったことからも, 血清型別の重要性が増していると考えられる。

L. pneumophilaは15血清群に分けられるが, 血清群特異的配列プライマーを用いたマルチプレックスPCR(M-PCR)により, 血清群をグループ分けする方法を開発した。このM-PCRは2段階からなり, 1段階目のM-PCRで, SG1, SG2, SG3/15, SG5, SG6/12, SG7, SG8, SG9, SG11, SG13, SG14を増幅産物のアガロースゲル電気泳動のバンドサイズで判定ができる(SG3と15, SG6と12はゲノム配列上は区別できない)。いずれの血清群のバンドも得られなかった場合は, SG4/10プライマーを用いた2段階目のPCRを行い, バンドを確認する(バンドが得られた場合, SG4か10と判定される。SG4と10はゲノム配列上は区別できない)。供試菌株がL. pneumophilaである場合には, 1段階目か2段階目のいずれかで血清群特異的なバンドが確認できる。以上の血清群特異的プライマーに加えて, Legionella属特異的プライマーを併用することで, 供試菌株がLegionella属菌であることを確認するとともに, PCR反応が正しく行われているかが確認できる。スライド凝集反応でいずれのレジオネラ免疫血清にも凝集せず, 型別不能と判定されるL. pneumophila菌株もM-PCRではいずれかに分類される。免疫血清による群別と区別するため, PCRによる血清型別は, SGの後にgを加えて, SGg1のように記載する()。

日本と中国の臨床分離株, 環境分離株計238株(各血清群の菌株数は, 3-48株)について, M-PCRによる血清型別を行ったところ, デンカのレジオネラ免疫血清で群別できなかった5株を除いて, すべて免疫血清による結果と一致した。免疫血清で群別できなかった5株は, SGg4/10が3株, SGg6/12が1株, SGg8が1株であった1)。小松らの報告によると, レジオネラ免疫血清において判定不能とされた41株に対して, M-PCRを適用したところ, 24株(58.5%)がSGg4/10/14, 7株(17.1%)がSGg1, 3株(7.3%)がSGg5, 3株(7.3%)がSGg6/12, 3株(7.3%)がSGg8, 1株(2.4%)がSGg7に血清群別され, 全株がいずれかのSGgに定まった2)

M-PCRで増幅されるバンドサイズは, 100-1,000bpで, かつ互いに40bp以上異なるように設計されており, サイズマーカーと隣り合わせになるように泳動して, 大きさを確認する必要がある。プライマー, およびポジティブコントロールかつサイズマーカーとなる人工遺伝子が販売されており, それらを用いると簡便である。

 

参考文献
  1. Nakaue R, et al., J Clin Microbiol 59: e00157-21, 2021
  2. Komatsu S, et al., Jpn J Infect Dis 76: 77-79, 2023
国立感染症研究所細菌第一部  
 前川純子 佐伯 歩 森田昌知 明田幸宏          
東京大学医学部附属病院検査部 
 中植竜大          
埼玉県立大学         
 村井美代          
株式会社ファスマック     
 森中りえか

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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