国立感染症研究所

 

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Legionella pneumophilaの分子疫学解析

(IASR Vol. 45 p124-125: 2024年7月号)
 

レジオネラ感染症の感染源の特定には, 疫学情報とともに, 臨床分離株および環境分離株の分子疫学解析が不可欠である。Legionella pneumophilaにおいては, sequence-based typing(SBT), pulsed-field gel electrophoresis(PFGE), multilocus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA), whole-genome sequencing(WGS)などの方法で分離株の型別と識別が行われている1-3)

SBT法は, European Working Group of Legionella Infections(EWGLI)により標準化された国際的に普及した遺伝子型別法で, L. pneumophilaの7つの遺伝子flaA, pilE, asd, mip, mompS, proA, neuAの一部領域の塩基配列を解読し, その塩基配列により遺伝子型(sequence type: ST)を決定する4)。2024年3月時点で, 3,251のSTが報告されている。

国立感染症研究所細菌第一部レジオネラ・レファレンスセンターにおいて収集されたレジオネラ臨床分離株712株(分離年が2013~2023年の菌株)のうち, 702株がL. pneumophila〔血清群(SG)1(630株), SG2(19株), SG3(12株), SG4(2株), SG5(8株), SG6(11株), SG7(2株), SG8(3株), SG9(7株), SG10(5株), SG13(2株), SG14(1株)〕であった。L. pneumophila 702株においてSBT法を実施したところ, 243種類のSTに分けられた()。そのうち, 分離株数が3株以下のSTが202種類と多くを占め, SBT法の疫学的有用性が確かめられた。しかし, いくつかの特定のST(例えば, ST23は51株, ST120は49株, ST89は38株, ST42は18株分離されている)においては臨床からの分離頻度が高いため, 本法のみでは識別力に欠け, 他の分子疫学解析と組み合わせて調査する必要がある。

WGSは, SBTやPFGEなどの従来の方法よりも, 高い解像度を持ち, 識別力の高い手法であることが示されている1,2)。しかし, WGS解析には課題も生じている。L. pneumophilaのゲノムは組み換えが頻繁に起こり5,6), 自然宿主である原生動物からの遺伝子水平伝播も報告されている7)。このため, WGS解析においては, 単一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)以外の遺伝情報(例えば, インデル, 組み換え領域, 可動遺伝因子など)をさらに解析することで, 識別力の改善に役立つ可能性が示されている6,8)。現在, 国内レジオネラ臨床分離株のWGSならびに解析手法の検討を進めている。

 

参考文献
  1. David S, et al., J Clin Microbiol 54: 2135-2148, 2016
  2. Raphael BH, et al., Appl Environ Microbiol 82: 3582-3590, 2016
  3. Sobral D, et al., Appl Environ Microbiol 77: 6899-6907, 2011
  4. Gaia V, et al., J Clin Microbiol 43: 2047-2052, 2005
  5. Qin T, et al., Sci Rep 6: 21356, 2016
  6. Haas W, et al., J Clin Microbiol 59: e00967-20, 2021
  7. Gomez-Valero L and Buchrieser C, Genes Immun 20: 394-402, 2019
  8. David S, et al., Clin Infect Dis 64: 1251-1259, 2017
  9. Amemura-Maekawa J, et al., Appl Environ Microbiol 78: 4263-4270, 2012
  10. Amemura-Maekawa J, et al., Appl Environ Microbiol 84: e00721-18, 2018
国立感染症研究所細菌第一部  
 佐伯 歩 前川純子 明田幸宏

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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