レジオネラ対策に関連した通知等について
~近年の動向~
(IASR Vol. 45 p126-127: 2024年7月号)
レジオネラ属菌は, 土壌, 河川, 湖沼などの自然環境に生息する環境細菌であり, 一般にその菌数は少ないと考えられますが, 人工の施設や設備の中で多く増殖することがあり, これを吸い込むことにより感染して, レジオネラ症を発症するリスクがあります。レジオネラ症の予防には, レジオネラ属菌を増やさないよう, 日頃から施設や設備の衛生管理が必要となります。他の特集関連情報にある通り, 浴槽水や冷却塔といった人工的な水環境を汚染源とする, レジオネラ集団感染が報告されています。すなわちレジオネラ症は環境からヒトに感染する感染症であり, ヒトからヒトに感染する他の感染症とは大きく異なり, 身の回りの生活衛生が大事になります。
当課では生活衛生対策の一環として, 公衆浴場や旅館などの施設におけるレジオネラ症の蔓延を防止するための, 衛生管理要領やマニュアル等をお示ししているところです1)。これらは厚生労働科学研究で得られた最新の知見などから適宜改正が行われており, その内容は当課から通知等で情報発信しています。レジオネラ症の事故が発生すれば, 対策徹底の事務連絡も当課から発出しています。本稿では, 平成25(2013)年以降に当課から発出したレジオネラ対策に関する通知等について, その名称や制定年月日をまとめ, その中からいくつか改正内容の概要等を紹介します(表)。
「公衆浴場における衛生等管理要領等について」〔平成12(2000)年12月15日付け生衛発第1811号厚生省生活衛生局長通知〕は, 公衆浴場および旅館業における衛生管理等について技術的助言として示しているもので, 内容として「別添1 公衆浴場における水質基準等に関する指針」, 「別添2 公衆浴場における衛生等管理要領」, 「別添3 旅館業における衛生等管理要領」から構成されます。
令和元(2019)年9月19日には「公衆浴場における衛生等管理要領等の改正について」が発出されており, 厚生労働科学研究で得られた最新の知見に基づく改正が行われています。具体的には, 公衆浴場と旅館業の浴槽水の消毒にあたり, 遊離残留塩素濃度を0.2ないし0.4mg/L程度に保つとされていたところ, 0.4mg/L程度を保つと改正されました。レジオネラ症の感染事例で遊離残留塩素濃度0.2mg/Lの記録が続いていても, 実際にはその濃度が達成できていなかったか, 効果不十分などがあったため, このような改正となっています。また, シャワー, 集毛器, 調整箱, 気泡発生装置の清掃・消毒, 貯湯槽は完全に排水できる構造とすること, 配管の状況を正確に把握し不要な配管を除去すること, 水位計配管は1週間に1回以上の適切な消毒方法で生物膜を除去すること, といった内容の追記もなされています。これらも原因の解析により, 管理不足や設備構造が原因であること等が明らかになったことによるものです。
公衆浴場におけるレジオネラ検査の具体的な手順については, 「公衆浴場における水質基準等に関する指針」において, 「新版レジオネラ症防止指針」の「<付録>1環境水のレジオネラ属菌検査方法」を参照すること, とされていましたが, 環境水中のレジオネラを計測する方法を記載したISO11731の改正と厚生労働科学研究の成果を踏まえ, 検査精度の平準化等を目的として, 「公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法について」が令和元(2019)年9月19日に発出されています。これらの改正通知をうけて, 令和元(2019)年12月17日には「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて」〔平成13(2001)年9月11日付け健衛発第95号厚生労働省健康局生活衛生課長通知〕の改正も行われています。
現在当課から示している衛生管理要領・マニュアルで直近のものは, 令和4(2022)年5月13日の「入浴施設の衛生管理の手引き」です。この手引きも厚生労働科学研究の一環として作成されており, 入浴施設の具体的な衛生管理をわかりやすく解説するとともに, 実践的方法を紹介するものとなっています。
近年もレジオネラ対策が不十分であったために, 基準を上回るレジオネラ属菌が検出された事例や, レジオネラ症による死亡事例がありました。こうした事態を防ぐために, 衛生要領やマニュアル等を参考にし, レジオネラ対策の徹底をお願いいたします。
参考文献
- 厚生労働省, レジオネラ対策のページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124204.html