国立感染症研究所

 

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麻しんワクチン接種率について

(IASR Vol. 45 p151-152: 2024年9月号)
 
国内接種率について

麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)は, 現在第1期として生後12か月以上24か月未満の者に, 第2期として5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の者に, 各1回ずつ定期接種として接種される。2回目の接種には, 1回目の接種で免疫を獲得できなかった者(一次ワクチン不全)へ追加の接種機会を与えること, また獲得した免疫が経年的に減衰した二次ワクチン不全者に接種することでブースター効果による免疫を強化すること, 等が期待されている。全く免疫を持たない集団の中で, 1人の感染者が平均して何名の二次感染者を発生させるかを推定した値が「基本再生産数」であるが, 麻疹の基本再生産数は高く, 集団免疫を強化するために, 全2回の接種率を95%以上に保つことが求められている1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生前までの日本においては, 高いワクチン接種率を維持しており, 2015年に世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局により麻疹排除状態が認定されたが, 排除状態の維持には, 継続的にワクチン接種率を目標値以上に保つことが求められる。そのため, 国内のワクチン接種率(定期接種による予防接種の実施状況)について, 厚生労働省によって地域別に継続的なモニタリングが実施されてきた。2010年度以降2020年度まで, 第1期麻しん風しんワクチン接種率は, 目標とする95%以上であったが, 2021年度の接種率は第1期が93.5%, 第2期が93.8%と, いずれも前年より低下し, 特に第1期の接種率は前年よりマイナス5ポイントと大きく低下した。2022年度には第1期で95.4%となったものの, 95%に達しない地域が多く認められた。第2期の接種率は, 第1期に比べ低い状況が続いており, 2022年度には46都道府県で95%未満となり, 90%を下回る地域も複数認められた。この接種率集計結果(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles/221-infectious-diseases/disease-based/ma/measles/550-measles-vac.html)を用いて, 全国の接種率が, COVID-19発生前後でどのように変化したのかを算出・可視化した()。

COVID-19発生後に第1期の平均接種率が低下したのは40府県にのぼった。COVID-19発生後に平均接種率95%以上(図中A群)に入った都道府県の97%は, COVID-19発生前からA群であった。また, 第2期はCOVID-19発生前から95%未満(B群)の地域が多いことが分かり, COVID-19発生後も低いグループ(B・C群)に属していた。これらの結果を踏まえると, 第1期および第2期未接種者への接種勧奨の方法を検討することが必要である。また, 定期接種の再通知は接種率の向上に有効であり2), 就学前のワクチン接種に関する呼びかけを強化するべきと考えられた。

世界における接種率低下と症例数・死亡数の増加
3)

世界(WHOの6地域:アフリカ, アメリカ地域, 南東アジア, ヨーロッパ, 東地中海, 西太平洋)では, 接種率の低下により, 深刻な麻疹の発生と死亡者数の増加がもたらされている3)。2000~2019年にかけて, 世界全体での麻しん含有ワクチン1回目の推定接種率は72%から86%に増加していたが, COVID-19パンデミック中の2019~2021年にかけては全6地域で接種率が低下した(2020年83%, 2021年には81%)。2022年には, 世界の接種率は83%となり, アメリカ地域とヨーロッパ地域を除くすべての地域で増加したが, 東地中海地域を除くすべての地域で2019年の水準を下回ったままであった。なお, 2019~2021年にかけて, 低所得国における1回目の接種率は71%から67%へ, 2022年には66%に低下しており, COVID-19発生後の接種率低下から回復していない。このように, 接種率が複数年にわたり低下したため, 世界全体で2022年の麻疹症例数は2021年比で18%増加し, 死亡者数は43%増加した。さらに, 2021年の22カ国と比較して, 2022年では37カ国で大規模な麻疹の流行が発生した。日本国内においても, COVID-19パンデミック後の国境をまたぐ人の往来の増加にともなって, 2023年以降に輸入麻疹症例増加がみられている4,5)。こうした状況によって国内でも麻しん含有ワクチンの需要が高まっており, ワクチン安定供給体制の確保が求められる。

接種歴確認の重要性

接種歴罹患歴不明の者で, 特に麻疹患者との空間共有および接触がある場合, および海外渡航前の場合は, 麻しん含有ワクチンの接種歴を母子健康手帳などで確認し, 1歳以上で2回の接種記録がないか不明の場合は, かかりつけ医と相談のうえ, 麻疹の抗体検査またはワクチン接種を検討されたい。

 

参考文献
  1. WHO, WHO Immunological Basis for Immunization Series, Module 7: Measles update 2020
    https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/331533/9789241516655-eng.pdf?sequence=1
  2. Dai H, et al., Nature 597: 404-409, 2021
  3. Minta AA, et al., MMWR 72: 1262-1268, 2023
  4. 国立感染症研究所, IDWR
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/575-measles-doko.html
  5. 国立感染症研究所, 日本の輸入感染症例の動向について
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/imported/PDF/20240521_WebupImportedIDs.pdf
国立感染症研究所感染症疫学センター     
 柴村美帆 森野紗衣子 木下 諒 米岡大輔 高梨さやか
 神谷 元 鈴木 基         
東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達医科学教室
 早川明伽 Moi Meng Ling

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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