国立感染症研究所

 

IASR-logo

国立感染症研究所Emergency Operations Center(EOC)での麻疹発生時における活動, 2024年3~4月

(IASR Vol. 45 p156-158: 2024年9月号)
 
EOCアクティベーション

2023年以降, 世界的に麻疹の報告が相次いでいたところ, 国内において2024年2月末に麻疹の輸入例が報告され, 感染可能期間に国際線に搭乗していたことが判明した1)。この輸入例に関連した症例に加え, 新たな輸入例の懸念もあり, さらなる感染者増加の可能性も見込まれた。そのため, 国立感染症研究所(感染研)EOCオペレーショナルリスクアセスメント(NEORAT: NIID EOC Operational Risk Assessment)を実施し(表1), 麻疹の国内流行のリスクに加え, 状況説明や適時のリスク評価, 注意喚起の発信に関するコミュニケーションの検討が必要であること, 広域に拡大した場合や長期の対応になった場合の対応規模の拡大に備える必要があることから, 2024年3月8日に感染研EOCの運用を開始(アクティベーション)した。

EOC体制

技術的対応については, 1)自治体への技術的支援〔実地疫学研究センター, 実地疫学専門家養成コース(FETP)〕, 2)状況把握・リスクアセスメント(実地疫学研究センター, FETP, 感染症疫学センター, 次世代生物学的製剤研究センター), 3)検査体制(ウイルス第三部), 4)ワクチン情報収集(感染症疫学センター)を想定し, 組織図を作成し(), 業務の役割分担を共有した。企画・ロジスティクス部門(感染症危機管理研究センター)では, メディア・SNSモニタリングを行い, 社会における麻疹への関心の動向の把握や対応時系列の記録(表2), 情報共有会議の事務局, 技術文書の取りまとめや所内で使用する情報システム(Microsoft Teams)での情報集約支援を行った。

対応オペレーションの概要

感染研としてのミッションを, ①状況把握と早期警戒, ②国内発生時の技術的支援, ③国の積極的疫学調査, ④麻疹の公衆衛生対応に関する未知の事象を明らかにする研究, と定めた。毎朝定例で実地疫学研究センターが開催する所内ミーティングでの麻疹発生状況の共有のほか, 毎週, 所内関係部署(感染症危機管理研究センター, 実地疫学研究センター, FETP, 感染症疫学センター, ウイルス第三部, 次世代生物学的製剤研究センター)によるEOC情報共有会議を開催し(計6回), 上記ミッションに関連する対応の進捗を確認した。このことにより, 各グループの現在の対応状況だけでなく, その先に実施すべきことも確認しながら整理し, 共通の状況認識を形成することができた。また, リスクアセスメント(英語版含む)の作成と公開, 厚生労働省における記者勉強会への同席, 医療機関向け注意喚起文書を関係者内で作成し, 公開等を実施した。また病原体検査部門では, 地方衛生研究所における麻疹ウイルスのゲノム解析に関する技術的助言を行うとともに, 検体分与の協力依頼を行い, 分子疫学的解析に繋げていった。具体的には, 国内の症例について, 検体分与や解析結果登録について協力依頼し, ウイルス第三部で分子疫学的解析を実施して, 実地疫学研究センターで把握した疫学情報とあわせて感染経路等の解析・評価を行うことができた。

国内において, 2024年3月1日以降, 分子疫学的検討も含め疫学的に関連のある2例以上の麻疹の集積がみられた事例が複数あったが, それらはいずれも4月中旬に接触者の健康観察期間は終了し, 終息したものと考えられた。4月17日に開催した所内情報共有会議で, 今後は, ワクチン接種率低下による国内での麻疹の発生リスクに留意しつつ所内における基本的な麻疹対策は継続することとして, 同日EOCの運用を終了(ディアクティベーション)することを決定した。

総 括

感染研EOCのアクティベーションは, 2021年7月の初運用2)以来, 今回で8回目, 突発的事例の対応としては5回目となった。表1に示したNEORATの活用を含め, アクティベーションの検討フローも明確化され, 運用方法に関する所内の理解も進み, 迅速に運用を開始することができた。比較的小規模で短期間の運用で終えることとなったが, 特に病原体検査部門も含めた所全体の対応状況の把握と情報共有, 調整に重要な役割を果たしたと考えられる。

謝辞: 感染症発生動向調査にご協力いただいている全国の自治体本庁, 地方感染症情報センター, 保健所, 衛生研究所, 医療機関に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. IASR 45: 155-156, 2024
  2. 国立感染症研究所東京2020大会EOC構成メンバー, IASR 43: 161-163, 2022
  3. 国立感染症研究所, 麻疹の発生に関するリスクアセスメント(2024年第一版)2024年2月22日
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/ra/measles_ra_2024_1.pdf
  4. 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, 予防接種課, 麻しんの国内外での増加に伴う注意喚起について(再周知), 令和6(2024)年2月26日付事務連絡
    https://www.mhlw.go.jp/content/001222287.pdf
  5. 大阪府, 麻しんに関する注意情報「2月24日にエティハド航空, 関西空港, 南海電鉄, TRIAL(スーパー)を利用した方へ」, 2024年3月1日
    https://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/fumin/o100050/prs_50650.html
  6. 国立感染症研究所, 【医療機関のみなさまへ】麻しん発生状況に関する注意喚起(2024年4月3日現在)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/12568-measles-alert-iryoukikan-2.html
国立感染症研究所          
 感染症危機管理研究センター    
  佐々木広視 吉見逸郎 内木場紗奈 太田雅之 村上裕子
  小林 望 吉松芙美 加藤美生 山本朋範 北山明子
  東良俊孝 影山 努 齋藤智也            
 実地疫学研究センター       
  塚田敬子 島田智恵 砂川富正  
 実地疫学専門家養成コース(FETP)
 感染症疫学センター        
  高橋琢理 北村則子 柴村美帆 高梨さやか 奥山 舞
  森野紗衣子 駒瀬勝啓 小林祐介 新井 智 神垣太郎
  鈴木 基

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version