国立感染症研究所

 

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2023年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ抗体保有状況および予防接種状況(2024年4月現在)

(IASR Vol. 45 p189-190: 2024年11月号)
 
はじめに

感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課が実施主体となり, 毎年度健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施している予防接種法に基づいた事業である。本稿では, インフルエンザ流行前シーズンにおけるワクチン株に対するインフルエンザ抗体保有状況と予防接種状況の2023年度調査結果について報告する。

方 法
年度の感染症流行予測調査のうちインフルエンザ感受性調査は, 16都道県(北海道, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 福井県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 愛媛県, 高知県, 沖縄県)で実施が計画された。対象は主に2023年7~9月(2023/24インフルエンザ流行シーズン前かつワクチン接種前)の期間に採取された血清(計画数: 各都道県当たり198検体, 合計3,168検体)1)を用いて, 各都道県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により測定が行われた。2023年度の調査株は下記に示した2023/24シーズンのインフルエンザワクチン株で, 各インフルエンザウイルスの卵増殖株由来のHA抗原を測定抗原として用いた。

2023/24シーズンのインフルエンザワクチン株2)

・A/ビクトリア(Victoria)/4897/2022(IVR-238)[A(H1N1)pdm09亜型]

・A/ダーウィン(Darwin)/9/2021(SAN-010)[A(H3N2)亜型]

・B/プーケット(Phuket)/3073/2013[B型(山形系統)]

・B/オーストリア(Austria)/1359417/2021(BVR-26)[B型(Victoria系統)]

予防接種歴調査は上記の16都道県に富山県, 大阪府, 福岡県を加えた19都道府県において, 前シーズン(2022/23シーズン)における接種状況を調査した。

結 果

I.インフルエンザ抗体保有状況https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/12719-flu-yosoku-year2023.html

対象者数は計画より多く, 3,958名についてHI抗体価の測定が実施された(暫定結果)。対象者数はそれぞれ0~4歳374名, 5~9歳278名, 10~14歳291名, 15~19歳342名, 20~24歳310名, 25~29歳375名, 30~34歳383名, 35~39歳285名, 40~44歳222名, 45~49歳235名, 50~54歳258名, 55~59歳248名, 60~64歳193名, 65~69歳96名, 70歳以上68名であった。本稿では, 感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1: 40以上の抗体保有割合について, 2023年度の調査結果と過去4年度の合計5年度の状況を示す。2023/24シーズンのワクチン株は, B型(山形系統)は2015年度の調査から同一調査株であり, B型(Victoria)系統とA(H3N2)亜型は2022/23シーズンと同じ株であった。A(H1N1)pdm09亜型は2022/23シーズンから変更された。本調査では, これらワクチン株を用いて抗体保有状況を調査した。

A(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有割合はワクチン株が変更されたこともあり, 全年齢群で20%未満と非常に低い保有割合であった。

A(H3N2)亜型に対する抗体保有割合は, 2022年度と同じワクチン株であったが, 全体として40%未満で, 0~4歳群と70歳以上の群で15%未満と低い割合であった。

B型(山形系統)に対する抗体保有割合は過去4年度と同様の傾向を示し, A型と比べ高い傾向にあり, 30~34歳群がピークであった。年齢群別では30~34歳群(72.9%)と55~59歳群(53.6%)の二峰性のピークを示した。
B型(Victoria系統)に対する抗体保有割合は2022年度よりは高く, 傾向として2022年度と同様であった。保有割合のピークは55~59歳群(44.4%)であった。35~39歳群以下では20%未満の保有割合で推移しており, 若年齢層で低い保有割合であった。

II.2022/23シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/12898-flu-yosoku-vaccine2023.html

予防接種歴調査を実施した16都道県に富山県, 大阪府, 福岡県を加えた19都道府県において, 前シーズン(2022/23シーズン)における接種状況が調査され, 5,080名の予防接種歴が得られた。ほとんどの年齢群で接種歴不明者が10-20%程度の割合で存在した。1回以上接種者の割合は, 接種歴不明を含む全体で34.9%, 1歳未満児で3.2%(95名中3名), 1歳児で22.6%(155名中35名), 2~12歳では47.3%(844名中399名, 各年齢38.0-57.8%), 13~64歳では32.6%(3,821名中1,245名, 各年齢・年齢群7.8-44.5%), 65歳以上は55.2%(165名中91名)であった。2回接種が推奨されている13歳未満の年齢群では, 接種者の73.0%(437名中319名)が2回接種者であった。

まとめと考察

インフルエンザワクチンは, 2001年から65歳以上の高齢者等を対象に定期接種(毎シーズン1回)が実施されている。また, 生後6か月から任意接種として接種が可能で, 13歳未満の小児においては2~4週間の間隔をおいて毎シーズン2回の接種が推奨されている。

2022/23シーズンの接種歴調査の結果では, 2~12歳と60歳以上の年齢群の接種割合が他の年齢群に比べて高く, 二峰性を示した。これは過去の各シーズンと同様の傾向であった。一方, 13~64歳の1回以上接種割合は32.6%, 65歳以上では55.2%であり, 2021/22シーズンとほぼ同等であった3)

インフルエンザ抗体保有割合は, それぞれの亜型・系統でピークの年齢層が異なり, A(H1N1)pdm09亜型では全年齢で非常に低く, A(H3N2)亜型では0~4歳群, 40~44歳群および70歳以上群を除き31%未満で推移し, B型(山形系統)では30~34歳群および55~59歳群, B型(Victoria系統)では55~59歳群でピークを示した。一方で, 0~4歳群における抗体保有割合はすべての亜型に対して10-20%前後で推移し, また, A型では70歳以上でも約20%未満と低い傾向であった。過去4年度の調査結果と比較すると, A型では全年齢に対して低い保有状況であった。また, B型(Victoria系統)においては, 50~59歳群に40%台の保有割合が認められたが, 45~49歳群以下では30%未満の保有割合で, 抗体保有割合が低かった。

インフルエンザ病原体サーベイランスによると, 抗体保有調査を行った直前のシーズン(2022/23シーズン)のインフルエンザウイルスの流行状況は2020/21シーズンおよび2021/22シーズンと異なり, 2023年に入り主にA/H3亜型インフルエンザウイルスの流行が確認された4)

謝辞: 本調査にご協力いただいた都道府県, 保健所, 医療機関等, 関係者皆様に深謝いたします。

*①65歳以上の者, および②60歳以上65歳未満の者であって, 心臓, 腎臓または呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害を有する者およびヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者

 

参考文献
  1. 厚生労働省健康局結核感染症課, 令和5(2023)年度感染症流行予測調査実施要領
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/AnnReport/2023/2023-99_ver11.pdf
  2. 国立感染症研究所, インフルエンザワクチン株
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/vaccine-j/249-vaccine/584-atpcs002.html
  3. 国立感染症研究所感染症疫学センター, 感染症流行予測調査グラフ, 年齢/年齢群別のインフルエンザ予防接種状況, 2021/22シーズン
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/11956-flu-yosoku-vaccine2022.html
  4. 国立感染症研究所, 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, 今冬のインフルエンザについて(2022/23シーズン)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoko2023.pdf
2023年度インフルエンザ感受性調査・予防接種歴調査
実施都道府県                 
 北海道立衛生研究所 
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