感染症発生動向調査等で検出されたサポウイルス(2002~2023年)―熊本県
(IASR Vol. 45 p213-214: 2024年12月号)熊本県では, 2002年度から感染症発生動向調査等の下痢症ウイルス検査において, ノロウイルス(NoV)以外にもPCRを導入し, 改良を加えてきた1,2)。本稿では, 2002~2023年までの22年間におけるサポウイルス(SaV)の検出結果について報告する。
SaVの年次検出状況と遺伝子型の推移
表1に, 2002~2023年までのSaV検出数を遺伝子型別に示した。期間中に搬入された急性胃腸炎患者の検体は2,163件であり, そのうち206件(9.5%)からSaVが検出された。また, 全206件中33件(16.0%)が他の下痢症ウイルスとの混合感染であり, 中でもNoV(GⅡ)との混合感染が16件と多くみられた。
検出された遺伝子型は, 多い順にGⅠ.1が59件(28.6%), GⅣ.1が52件(25.2%), GⅡ.3が35件(17.0%), GⅠ.2が16件(7.8%), GⅡ.1が14件(6.8%), GV.1が8件(3.9%), GⅠ.3が7件(3.4%), GⅠ.5が5件(2.4%), GⅡ.2が4件(1.9%), GⅡ.4とGⅡ.7がそれぞれ1件(0.5%)であった。また, 4件(1.9%)は明瞭なシーケンス波形が得られず, 遺伝子型別ができなかった。
SaV検出数が解析期間中最も多かった2007年にはGⅣ.1が集中して検出されており, 熊本県内で地域流行が確認された1)。なお, この年は全国的にGⅣ.1の検出数増加がみられた3)。
SaVの月別検出状況
表2に, 各月のSaV検出数を示した。NoV同様冬期に多く, 206件中47件(22.8%)が11月, 49件(23.8%)が12月に検出された。一方で, 夏期である7~9月でも, 数は少ないものの検出例があり, SaVは年間を通して感染性胃腸炎を引き起こしていた。
期間中に搬入された2,163件から検出されたSaV以外の下痢症ウイルスの内訳は, NoV 692件, A群ロタウイルス(RV)188件, C群RV 3件, アデノウイルス120件, エンテロウイルス110件, アストロウイルス48件, パレコウイルス17件, ボカウイルス7件, アイチウイルス4件であり, SaV検出数はNoVに次いで多かった。さらに, 県内ではSaVによる集団事例あるいは食中毒事例が2014~2023年度の10年間に合計5件発生している(遺伝子型はGⅠ.2が2件, GⅡ.1が1件, GⅡ.3が2件)。これらのことから, SaVは集団事例の起因ウイルスとしても重要である。しかしながら, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が感染拡大して以降, 医療機関からの検体提供が滞り, 2020~2023年度の検査数は平均15.5検体と大幅に減少している。県内の流行状況の把握を行うには, 発生動向調査の継続が重要であるため, 定点医療機関にさらなるご協力を賜るとともに, 検体の輸送方法等を再検討し, 多くの検体を集める工夫が必要である。
参考文献
- 原田誠也ら, IASR 29: 46-48, 2008
- 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル サポウイルス(第1版), 2021年7月
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Sapovirus20210716.pdf - 国立感染症研究所, IASR過去の集計表ウイルス, 胃腸炎ウイルス月別
https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/230-iasr-data/5492-iasr-table-v-p.html