国立感染症研究所

 

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医療機関における最新のカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)検査方法

(IASR Vol. 46 p25-26: 2025年2月号)
 

カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す腸内細菌目細菌(carbapenem-resistant Enterobacterales: CRE)の増加は, 世界的な公衆衛生上の課題である。CRE感染症は2014年から日本では5類感染症に指定されており, 中でも多剤耐性を示すカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(carbapenemase-producing Enterobacterales: CPE)は抗菌薬治療や院内感染対策における大きな課題となっている。現在, 国内で優勢なCPEの遺伝子型はIMP型であるが, 欧米で主流のKPC型やNDM型も増加傾向にある1)。これらはカルバペネム系抗菌薬を含む多くの薬剤に高度耐性を示す場合が多い。一方, 最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration: MIC)が低い「ステルス型」株(例: IMP-6やOXA-48)も存在するため, 慎重な対応が求められる。メロペネムのMICが≧0.25μg/mLを示す菌株が検出された場合, 各種確認検査でCPEの同定を行うことが望ましい2)。また, 流行地域からの入院患者に対しては, 糞便検体を用いたスクリーニング検査が推奨されている。選択培地を用いることで効率的な検出が可能であり(webのみ掲載図1参照), スクリーニング検査でCPEが疑われた場合には, さらに詳細な検査を実施する必要がある。

CPEの検出および同定方法

医療機関で実施可能なCPEの検出・同定法として, ①発色基質を用いた方法, ②フェノタイプ法, ③イムノクロマト法, ④質量分析法, ⑤分子生物学的方法, などがある。これらの検査法について概要をに示し, 新たに追加した検査法には印(★)を記載した。Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)3)では, カルバペネマーゼの検出法としてCarba NP testおよびmodified carbapenem inactivation method(mCIM)が推奨されており, さらにメタロ-β-ラクタマーゼの確認法としてEDTA-modified carbapenem inactivation method(eCIM)が記載されている。Carba NP testは, カルバペネマーゼによる抗菌薬の加水分解にともなうpH変化を指示薬であるフェノールレッドの色変化(黄変)によって検出する方法であり, 専用の検査キットも市販されている(図2-a)。他にも発色基質も用いた検査キットが存在する(図2-b)。mCIM法は, メロペネムディスクと菌株を接触させ, CPEであればメロペネムが分解され抗菌活性が失われることを利用した方法である(図2-c)。このディスクをEscherichia coli ATCC 25922に作用させ, 阻止円径によって判定する。特別な試薬を必要としないため, 日本国内の検査室の約8割で日常検査として導入されている。eCIM法は, EDTAを用いてメタロ-β-ラクタマーゼの阻害効果を判定する方法(図2-d)であり, eCIMの結果とmCIM法と組み合わせて使用することで精度が向上する。さらに, European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)2)のCPE同定フローにも記載されているβ-ラクタマーゼ阻害剤を使用した簡便な検出法として, 5種類の薬剤ディスクを用いて阻止円径の差から酵素型を判定するCPE鑑別ディスクも実用化されている(図2-e)。

分子生物学的手法とその重要性

表現型検査では検出が困難な耐性機序も存在するため, イムノクロマト法や分子生物学的手法(PCR法など)による薬剤耐性遺伝子の確認が必要な場合がある。腸内細菌目細菌においては, 各種カルバペネマーゼ(例: IMP型, VIM型, KPC型, NDM型, OXA型, GES型)を対象としたmultiplex PCRにより検出が可能である。日本ではこれら遺伝子検査の試薬が市販されており, 迅速かつ効率的な検出が可能である(図2-f)。また, イムノクロマト法では菌液を調製するだけで簡便に酵素型を判別することが可能であり, 実用性も高い(図2-g)。さらに, 血液培養陽性検体や呼吸器検体からの網羅的な迅速遺伝子検査を可能とする試薬・機器も開発され, カルバペネマーゼ産生遺伝子の直接検出・同定が可能となっている。

医療機関における今後の展望

腸内細菌目細菌の薬剤耐性機序は多様であり, カルバペネム耐性はカルバペネマーゼ産生に限らず, ESBL産生やAmpC産生, 外膜タンパク変化が複合的に関与する場合がある。複数の検査手法を組み合わせて耐性菌を正確に検出し, 検査データを慎重に解釈することが重要である。そのため, 各施設において標準化したフローチャートを基にしてさらに独自のフローチャートを策定し, 培地や検査法の特性を把握したうえで, 薬剤感受性試験の結果を総合的に活用することが求められる。

 

参考文献
  1. IASR 45: 129-130, 2024
  2. EUCAST, EUCAST guidelines for detection of resistance mechanisms and specific resistances of clinical and/or epidemiological importance, Version 2.0, 2023
  3. CLSI, Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing, CLSI M100 34th ed, 2024
京都橘大学健康科学部臨床検査学科
 中村竜也

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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