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ワクチン安全性に関する報告

(IASR Vol. 34 p. 315: 2013年10月号)

 

ワクチンの安全性に関する専門家会合であるGACVSの第28回会合が2013年6月に開かれた。その内容を報告する。

アジアでのHibを含む5価ワクチン: Hibを含む5価ワクチンがDPTに代わって導入されてきたが、各国の副反応の状況は以下の通り。

スリランカ:Crucell製を2008年1月に導入後4例の死亡、24例の副反応が認められ一時中止。DTwPとB型肝炎に戻した。

ブターン:Panacea製を2009年9月に導入。5例の脳炎/髄膜炎の発症あり中断。中断前の重症副反応がさらに4例みつかり調査中。

インド:インド血清研究所製を2011年12月から導入、83例の副反応が報告された。

ベトナム:Crucell製を2010年1月から導入。重篤な副反応43例と死亡27例が報告され、2013年5月に中断。

帯状疱疹ワクチンの安全性:2006年のZostavax®(Merck)承認後7年間の安全性調査をVaccine Adverse Event Reporting System (VAERS)で評価(CDCの報告)。12,000の有害事象が報告され、1,057例は重篤だった(帯状疱疹、疼痛、発疹)。データマイニングの結果、ワクチン無効例も有害事象として報告されていた。

水痘ワクチンの免疫不全者での安全性:野生水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の疾患が細胞性免疫に障害のある症例ではより重症化することから、免疫不全者でもワクチンの意義が考えられている。がん、HIV、移植後の免疫不全小児に対するワクチンの有効性と安全性の研究3件を検証した。HIVでCD4が15%以上の小児では水痘ワクチン2回接種は安全で有効と考えられている。水痘ワクチンが定期接種されている場合、免疫不全に気づかずに接種されてしまう危険に注意を要する。

周産期の予防接種:妊娠中のワクチン接種は、母体の感染予防や、抗体が胎児に移行することで生まれる前から免疫を賦与するという有用性が考えられるが、妊娠中および授乳中の母親へのワクチン接種はメーカーの保守的な態度で推奨されない場合もあるため、安全性の根拠が必要。また、ワクチンキャンペーンで使われることで、意図せずに妊婦に接種してしまう可能性のあるワクチンについての安全性評価も必要である。

不活化ウイルス、細菌およびトキソイドワクチンは妊娠への悪影響がみられず、妊娠を理由に接種を避ける必要はない。生ワクチンは理論的には胎児にリスクがあるが、弱毒生ワクチン(風疹、MMR、経口ポリオ)について安全性を示す文献が多い。これらのワクチン接種後でも胎児への悪影響は報告されておらず、ワクチンキャンペーンで過ってMMRを接種された妊婦がその妊娠を中断する必要はない。妊娠中のワクチン接種は母体を守るだけでなく新生児を守るためにも、有用性が勝るといえる。

サハラ以南アフリカでの黄熱ワクチンの安全性:1930年代に17D由来黄熱ワクチンの導入により疾病は大幅に減少したものの、社会環境の変化などから近年再発している。2006年にはWHOはUNICEFとGAVIと協力して黄熱イニシアティブが始められた。西部および中央アフリカの9カ国で安全性の評価を行った。3,800万ドースが接種され、3,116例の副反応(重症164例)が報告された。重症のうち22例は黄熱ワクチンと関連し、うち6例は急性神経障害(YEL-AND)、5例は内臓障害(YEL-AVD)を起こしたとされ、これらの頻度は過小評価されている。

日本脳炎ワクチンの安全性:細胞培養による日本脳炎の弱毒生ワクチン(Chengdu研究所作製)は25年前に承認され、8カ月および2歳時に接種されており、4億ドース以上が接種されてきている。中国CDCの市販後調査では、2009~2012年に6,024例の副反応を認め、重症は熱性けいれん、血小板減少性紫斑、脳炎・髄膜炎を含む70例だった。7,000万以上が接種された環境で、この数字は低い副反応と考えられた。

ヒトパピローマウイルスワクチン:GACVSは2009年6月にHPVワクチンの評価を行っており、今回はそれ以来のものである。これまで1億7,500万ドースが出荷され、概ね副反応状況に変化はないが、失神や静脈血栓が新たに報告されるようになった。ギラン・バレー症候群や脳梗塞との関連については、接種を受ける年齢や関連する行動(経口ピルの服用など)といった交絡因子を考慮すれば積極的に考えるものではなく、またアナフィラキシーは認められなかった。

日本では800万以上が頒布されているが、複合性局所疼痛症候群 (CRPS) が報告され、広く報道されている。24件の報告があったが、通常の市販後調査では7件の報告だけだった。診断の不確実さおよび症例情報の不十分さのため専門家会合はワクチンとの因果関係を確認することはできなかった。日本政府はHPVを提供し続けているが、積極的な勧奨は中断している状況であり、GACVSはHPVの安全性評価を変更しないこととした。

           (WHO, WER, 88, No.29, 301-312, 2013)

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