国立感染症研究所

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2015年メッカ巡礼(Hajj)目的のサウジアラビアへの渡航者の健康管理

(IASR Vol. 36 p. 198: 2015年10月号)

サウジアラビア保健省は、2015年の巡礼(HajjとUmra)シーズンに向け、入国時の要件と勧告を出した。

黄熱:黄熱のリスクのある国や地域(アフリカ諸国や南アメリカ諸国)からの全渡航者は、渡航10日前までに接種した黄熱ワクチンの接種証明書が必要である。証明書のない場合は、ワクチン接種日もしくは感染推定期間最終日のうち早い方から6日間は厳格なサーベイランス下におかれる。

髄膜炎菌性髄膜炎:巡礼もしくは季節労働の目的での全渡航者は、渡航前3年以内~10日前までの4価多糖体(ACYW)ワクチン接種証明書が必要となる。渡航者の国の保健当局は2歳以上の小児および成人に対して4価多糖体(ACYW)ワクチン1回接種を保障すべきである。さらにアフリカ髄膜炎ベルト諸国からの渡航者(12歳以上の小児および成人)はシプロフロキサシンの予防内服が必要となる。

ポリオ:ポリオウイルスの土着株による国内伝播が継続している国(アフガニスタン、ナイジェリア、パキスタン)や、輸入野生型ポリオウイルスまたはワクチン由来ポリオウイルスの伝播が過去12カ月以内に認められた国(カメルーン、ソマリア)、ポリオウイルス感染のリスクのある国や地域(赤道ギニア、エチオピア、イラク、シリア・アラブ共和国、ヨルダン川西岸地区・ガザ地区、イエメン、2015年5月16日現在)からの渡航者は、入国ビザを取得するために年齢、ポリオワクチン接種歴にかかわらず、過去12カ月以内~渡航4週間前までの生ワクチンもしくは不活化ワクチン接種証明書が必要である。同時に、サウジアラビア入国時に1回の経口生ポリオワクチンの接種を行う。ポリオ根絶国であっても、渡航者からの輸入感染の可能性がある国では(例:インド、インドネシア)、渡航者へのポリオワクチン接種を推奨する。

季節性インフルエンザ:国外からの巡礼者、特に重症化リスクのある5歳未満の小児、妊婦、高齢者、基礎疾患のある者は、サウジアラビア入国前に直近の(2015年南半球の)季節性インフルエンザワクチン接種を行うことが推奨される。

健康教育:各国の保健当局は、巡礼者に対して感染症の症状、感染経路、合併症の知識や予防の重要性について情報提供を行うこと。

食べ物:巡礼者によるサウジアラビアへの生ものの持ち込みは禁止される。缶詰(密閉されたもの)や点検可能な容器に入れられたもので、滞在期間に必要な一人分の量のみ持ち込みが許可される。

国際的アウトブレイクへの対応:65歳以上の高齢者、慢性疾患を持つ者、免疫不全者、悪性疾患患者、終末期患者、妊婦、12歳以下小児は、安全のため巡礼参加の延期を勧告する。また、全巡礼者は、呼吸器感染症の伝播を防ぐため、以下に示す一般的な衛生的対応を行うよう助言している。手指衛生、咳エチケット、眼・鼻・口を手で触らない、人混みでのマスク着用、体調不良者との直接的な接触や持ち物の共有を避ける、個人の身体の清潔を保つ、動物(特にラクダ、病気の動物)との接触を避ける、ラクダの生乳や尿を飲まない、不適切に調理された肉を摂取しない、等である。

ワクチンで予防可能な疾患に対して適切なワクチン接種を行うことが全渡航者に強く求められている。

(WHO, WER, 90(31): 381-392, 2015)     
(抄訳担当:感染研・金井瑞恵、島田智恵)

 

 

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