国立感染症研究所

国立感染症研究所
2019年10月1日現在
(掲載日:2019年10月16日)

水痘は水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus; VZV)の初感染の病態である。発熱と全身性の水疱性発疹(様々な段階の発疹が混在)が主症状であるが、多くの合併症が知られており、成人や妊婦、免疫不全患者等は重症化のリスクが高く、時に致命的となる。更に水痘罹患後、脊髄後根神経節等 に潜伏感染したVZVが再活性化することで帯状疱疹を発症する。

水痘はワクチンで予防可能な疾患である。長く任意接種の位置づけであったが、2012年に日本小児科学会からも水痘ワクチンの1-2歳で2回接種の推奨が出され、さらに2014年10月1日から定期接種対象疾患(A類疾病)となった。接種対象者は生後12—36か月に至るまでの児で、2回の接種を行う(2014年度は生後36—60か月に至るまでの児にも1回接種の経過措置がとられた)。

感染症発生動向調査における水痘に関する2つのサーベイランス報告状況に基づき、水痘ワクチン定期接種導入後の国内発生動向を報告する(2019年10月1日暫定値)。

水痘小児科定点報告(2000年第1週~2019年第37週)(図1)

小児科定点報告では、全国約3,000か所の小児科定点医療機関における患者数が毎週報告されている。日本小児科学会の推奨以前の2000-2011年の定点あたり年間報告数は、平均81.4人/年(範囲67.1–92.4)でほぼ横ばいであったが、定期接種化直後の2015年から大きく減少し、2018年は17.9人/年であった(2000-2011年平均比減少率:-78%)。特に、0歳、1-4歳の報告数はそれぞれ、90%、91%減少した(同比)。これに伴い、報告数全体に占める5歳未満の割合は減少した(2000-2011年:平均77%→2018年:34%)。5-9歳も、報告数は減少してきているものの、報告全体に占める割合としては相対的に大きくなり、2017年以降、半数以上を占めるようになっている(2019年第1週~第37週:55%)。

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水痘入院例全数報告(2014年9月19日(第38週)~2019年第37週)

水痘入院例全数報告は定期接種化に先立って、2014年9月19日から開始された比較的新しいサーベイランスである。水痘で24時間以上入院したもの(他疾患で入院中に水痘を発症し、発症後24時間以上経過した例を含む)が年齢を問わず、臨床診断例、検査診断例ともに報告対象となる。

各年の第38週~翌年第37週までの1年間ごとに区切り経年変化をみた。

報告数・年齢分布:2014年第38週~2019年第37週までに計1,909人が報告され、女性767人(40%)、年齢中央値31歳(四分位範囲14-51歳)であった。各年の報告数は、2014/15 362人、2015/16 316人、2016/17 319人、2017/18 419人、2018/19 493人と近年増加傾向にある。年齢分布も経年的に変化しており、5歳未満の割合は減少し(2014/15 23%、2018/19 10%)、一方で、20-59歳の報告数の増加とともに、その割合は2018/19の時点では71.8%となった。

予防接種歴:成人例の水痘ワクチン接種歴は、「なし」27%、「不明」67%が大多数を占めた。 小児においては、1-4歳は「1回」27%、「2回」7%、「あり回数不明」0.6%、「なし」54%、「不明」11%、5-9歳は同順に、30%、12%、0.6%、41%、16%であった。水痘ワクチンの接種対象年齢は1歳以上となっており、0歳は全員が未接種もしくは不明との記載であった 。2回接種者の中には免疫不全例が5人含まれていた。

合併症等:469人(25%)で合併症が報告され、7人の死亡例の報告があった。年齢別の合併症の報告頻度は、0歳26%、1-2歳37%、3-4歳38%、5-9歳35%、10-19歳21%、20-49歳20%、50歳以上36%であった。合併症として、皮膚軟部組織感染症(膿痂疹112件、蜂窩織炎5件)、肺炎・気管支炎76件、肝炎77件、次いで神経合併症として、脳炎・髄膜脳炎52件、熱性痙攣39件、髄膜炎3件、小脳失調3件、急性散在性脳脊髄炎3件、根神経炎4件、難聴1件、顔面神経麻痺3件が報告された。さらに、播種性血管内凝固症候群(DIC)26件、敗血症14件、多臓器不全9件、急性腎不全9件、急性呼吸窮迫症候群4件、内臓播種性水痘11件など、より重篤な全身状態を呈した症例も見られた(複数症状の報告例あり)。また、妊婦の入院例が27人あった。

推定感染源の病型(図2):入院例1,909人のうち、推定感染源の病型について記載のあった522人(27%)のうち、水痘は61%、帯状疱疹は37%であった。推定感染源の病型も年齢群によって異なっており、10歳未満では水痘が多いが、成人では帯状疱疹の割合が増え、20-49歳では47%、50-69歳では73%に上った。

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その他:153人(8%)が他疾患入院中の水痘発症と報告された。

 

定期接種化後、5歳未満の水痘報告数が速やかに減少した。1-4歳は定期接種対象年齢であり、0歳の減少は幼児への水痘ワクチン2回接種の間接効果を示すものと考えられた。一方で、水痘ワクチンの接種歴があるものの水痘に罹患した症例、いわゆるbreakthrough varicellaが主に1回接種者で存在することが示された。 2回接種による確実な予防が望まれる。また、水痘罹患者、あるいは、入院例の中心となる年齢が年長児、成人へシフトしてきている 。成人は重症化のリスクが高い。水痘入院例はサーベイランス開始からの期間が短く、現時点ではサーベイランスの周知も報告数の増加に寄与している可能性があるが、今後定期接種機会のなかった世代について、感受性者対策とともに、年長児、成人における水痘発生動向を、水痘ワクチンの接種歴情報と併せて注視していくことが重要と考えられた。また推定感染源に関して、帯状疱疹患者もとくに成人において、水痘入院例の主要な感染源となっていた。水痘の罹患者が減少してゆく一方で、現状では帯状疱疹の増加が示唆されており1)2)、今後さらにVZV感染症の伝播に重要な役割を果たすことが推察された。今後、個人予防としてだけでなく集団予防の観点からも帯状疱疹ワクチンを広く活用していくことや、帯状疱疹に関する知識の周知など帯状疱疹対策の重要性も示唆された。

感染症発生動向調査にご協力いただいている全国の保健所、感染症情報センター、医療機関の皆様に深謝申し上げます。

 
[参考文献]
  1. 倉本 賢.帯状疱疹の兵庫県内における30年間の動向把握から見えてきたもの.病原微生物検出情報 IASR 39: 138-139; 2018.
  2. 外山 望.帯状疱疹大規模疫学調査「宮崎スタディ(1997-2017)」アップデート.病原微生物検出情報 IASR 39:139-141; 2018.

 


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