国立感染症研究所

 

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食中毒事例より検出された新たな血清型O10:K4の腸炎ビブリオについて

(IASR Vol. 45 p146: 2024年8月号)
 
はじめに

腸炎ビブリオの血清型O10:K4は, 2020年に中国で初めて分離報告された新しい型で1), 日本国内ではまだ分離報告されていなかった。このたび食中毒事例において血清型O10:K4の腸炎ビブリオを分離し, ビブリオシンポジウムに設けられた血清型別に関する委員会2)(以下, 型別委員会)によりO:Kの新規組み合わせ型であることが承認されたので, 事例とあわせて報告する。

事例概要

2023年8月, 県内施設で夕食を喫食した3グループ8名が腹痛および下痢を発症した。有症者の共通食は当該施設での食事に限られており, 患者4名の便から腸炎ビブリオ(うち3検体の血清型がO10:K4)が検出されたことから, 腸炎ビブリオO10:K4による食中毒と断定した。

方法および結果

当所では食品20検体, ふきとり10検体, 調理従事者便9検体, 有症者便1検体, 計40検体について検査を行った。腸炎ビブリオの検査として, 食品およびふきとり検体は, TCBS寒天培地(TCBS)への直接培養, 食塩ポリミキシンブイヨンによる増菌培養, 倍濃度アルカリペプトン水で前増菌したのち増菌培養を行う前増菌培養を実施した。便検体は直接培養および増菌培養を実施した。その結果, 有症者便の直接培養から耐熱性溶血毒(TDH)陽性, 耐熱性溶血毒類似毒(TRH)陰性, 血清型O10:K4の腸炎ビブリオを分離した。また, 食品1検体〔お造り5種(国産)盛り合わせ〕の前増菌培養から, TDHおよびTRH陰性, 血清型O1:K32の腸炎ビブリオを分離した。その際, colony mix PCR, colony sweep PCR, 前増菌液および増菌液のPCRを実施したが, すべてTDHおよびTRH陰性であった。さらに, 腸炎ビブリオを疑う数十コロニーについて血清型を確認したが, 血清型O10:K4の株は検出されなかった。その他の検体からは, 腸炎ビブリオは検出されなかった。

また, 他検査機関および医療機関において検査された有症者便6検体のうち, 2検体からTDH陽性, TRH陰性, 血清型O10:K4の腸炎ビブリオ, 1検体から腸炎ビブリオ(血清型等不明)が検出された。

考 察

原因食品として腸炎ビブリオが検出された食品〔お造り5種(国産)盛り合わせ〕が疑われたが, O10:K4の株は検出されず, また, 検食として保存されていた各刺身が少量であったため混合し1検体として検査を実施していたこともあり, 特定することはできなかった。

日本において, 病原菌として分離された腸炎ビブリオの血清型は1990年代後半頃からO3:K6が急増し, 近年はほとんどがO3:K6である。しかし国外では, 2020年中国において初めて新規血清型O10:K4が報告されると1), 2021年には北京で分離される最も一般的な血清型の1つとして報告されている3)。そして2023年にはタイで分離され, 東南アジアにこの血清型が広がってきたことが報告された4)。今回の事例において, 原因食品として疑われた刺身はすべて国産魚介類であり, この新規血清型の腸炎ビブリオが日本近海に広がってきている可能性も考えられるため, 今後は腸炎ビブリオの血清型の動向にも十分に注視する必要がある。

結 語

今回, 有症者便から分離したTDH陽性の腸炎ビブリオ菌株の血清型は, これまで腸炎ビブリオのO:K抗原構造表には記載のない, 国内では初報告となるO10:K4であった。OおよびK抗原型が, 従来報告されているものとは一致しない新しい組み合わせを有する菌株を患者から分離した場合, 型別委員会に成績および菌株の送付を行うと, それをもとに型別委員が確認を行い, 型別委員会が承認したのちに, 抗原構造表に掲載されることになっている5)。今回分離された血清型O10:K4菌株についても, 型別委員会によりO:Kの新規組み合わせ型であることが承認されたため, 近々, 腸炎ビブリオのO:K抗原構造表に新しく追加される予定である。

謝辞: 本稿を作成するにあたりご協力をいただきました国立感染症研究所細菌第一部・荒川英二先生に深く感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. Huang Y,et al., Emerging Infect Dis 28: 1261-1264, 2022
  2. 工藤泰雄, 血清型別委員会記録, 腸炎ビブリオ第Ⅲ集, 近代出版株式会社: 346-360, 1990
  3. Huang Y, et al., CCDC Weekly 4: 471-477, 2022
  4. Okada K, et al., Microbiol Immunol 67: 201-203, 2023
  5. 腸炎ビブリオ血清型別に関する委員会, 腸炎ビブリオ第Ⅳ集, 近代出版株式会社: 228-232, 2013
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