国立感染症研究所


1)ワクチンの種類


 組換え沈降B型肝炎ワクチンは20年以上前に認可され、世界中で使用されている(7)。効果も安全性も高いワクチンである1)。現在、日本では酵母由来の組換え沈降B型肝炎ワクチン2種類(化学及血清療法研究所「ビームゲン」、万有製薬(製造元;米国メルク社)「ヘプタバックスⅡ」)が販売されている9, 33)。母子感染予防、医療従事者、高頻度国への渡航者などハイリスク群対策が主な使用目的の日本では混合ワクチンの開発は行われていない。海外では小児期の接種回数を減らすために、単味ワクチンに加えて各種の混合ワクチンが使用されている。

 

                       

 

1)製剤としての特性、安全性、副作用、有効性、抗体持続時間、接種スケジュール(国外のケース)、キャッチアップの必要性等

 

(1)特性

 遺伝子組み換え技術を応用して酵母で産生したHBs抗原をアジュバント(アルミニウム塩)に吸着させた沈降不活化ワクチンである。海外では酵母由来製剤に加えて細胞由来製剤や他の製剤と組み合わせた混合ワクチンも認可されている。

 

(2)安全性

 長く世界中で使われているが、安全性の問題が起こったことはない。ワクチン接種によるHBVエスケープミュータント(中和抵抗性変異ウイルス株)の発生が危惧されているが、エスケープミュータントはHBV自然感染下でも発生する。これについては現在も研究が進められている1)。現在の標準的な見解では、「ユニバーサルワクチネーション実施下では、HBVエスケープミュータントが一定の割合で検出されるが、そのような変異株が広がる兆候はみられない。」とされている34)

 

(3)副反応

 5%以下の確率で、発熱、発疹、局所の疼痛、かゆみ、腫脹、硬結、発赤、吐き気、下痢、食欲不振、頭痛、倦怠感、関節痛、筋肉痛、手の脱力感などが見られる9)。いずれも数日で回復する。ワクチン成分(酵母)に対するアレルギー反応がある人はHBIGを選択するが、予防効果は短期間である。多発性硬化症などいくつかの副作用の疑いが報告されてきたがいずれも科学的な根拠は否定されている1, 35)

 

(4)有効性

 若いほど抗体獲得率が高い傾向にある。40歳までの抗体獲得率は95%4060歳で90%60歳以上になると6570%に落ちる1)

 HBV曝露後には早期(714日後まで)にHBIGの筋肉内接種に加えてB型肝炎ワクチンを接種すれば感染予防効果が期待される1, 35)

 また、HBVキャリア化予防効果については、台湾で1,200人の児童を対象にして、ワクチン接種時の7歳から7年後の14歳まで経過観察を行ったデータがある。これによると、対象者のうち、経過観察期間中に11人がHBV感染していたことが判明した(HBc抗体陽転)が、HBVキャリア化した児童はいなかった36)

 B型肝炎ワクチンは全接種者の10%前後のnon responder low responderが見られる37, 38)。この場合は追加接種、高用量接種、接種方法変更(皮内接種)などで対応する。

 遺伝子型が異なるウイルスに対するワクチンの有効性は今のところ不明である。遺伝子型が異なっていても血清型が重複し、血清型間の交差反応が認められていることからある程度の有効性は期待できる。また、自然感染において異なる遺伝子型ウイルスの重複感染が大きな社会問題となったことはない。しかしながら、遺伝子型が異なるウイルスの抗原エピトープの立体構造がワクチン株と異なる場合、ワクチンによる感染防御能が弱くなる可能性があるという研究結果もある33)。前述のエスケープミュータントの問題も含めて、今後の検討が必要である。

 

(5)抗体持続時間

 ワクチン3回接種後の防御効果は20年以上続くと考えられている。抗体持続期間は個人差が大きい。3回接種完了後の抗体価が高い方が持続期間も長い傾向がある39)

 

(6)接種スケジュール

 B型肝炎ワクチンは3回接種で完了する(HepB3)。一般的な接種スケジュールは016ヶ月に筋肉内又は皮下接種する。免疫不全、血液透析患者等は4回接種スケジュールや高用量ワクチンを検討する。

 日本のワクチンの場合、目的によって以下の投与法が推奨されている9)。いずれも3回接種後にHBs抗体が獲得されていない場合には追加注射する。

 

B型肝炎の予防:通常、0.5mlずつを4週間隔で2回、更に2024週を経過した後に1回0.5mlを皮下又は筋肉内に注射する。ただし、10歳未満の者には、0.25mlずつを同様の投与間隔で皮下に注射する。

 

B型肝炎ウイルス母子感染の予防(HBIGとの併用):通常0.25ml1回、生後23ヶ月に皮下に注射する。更に0.25mlずつを初回注射の1ヶ月後及び3ヶ月後の2回、同様の用法で注射する(図9)。

 

HBs抗原陽性でかつHBe抗原陽性の血液による汚染事故後のB型肝炎発症予防(HBIGとの併用):通常、0.5ml1回、事故発生後7日以内に皮下又は筋肉内に注射する。更に0.5mlずつを初回注射の1ヶ月後及び36ヶ月後の2回、同様の方法で注射する。なお、10歳未満の者には、0.25mlずつを同様の投与間隔で皮下に注射する。

 

 特に小児の投与について、WHO推奨スケジュール1) 、米国スケジュール36)と日本の母子感染防止処置9)を図9に示した。

 

 

(7)キャッチアップの必要性

 ハイリスク群や、ユニバーサルワクチネーションを導入している場合は導入前に生まれたワクチン未接種の児童へのワクチネーション(キャッチアップ)はB型肝炎コントロールの手段として効果的である。米国では1112歳児のワクチン接種履歴の確認とワクチン接種の完了、身近な医療機関でB型肝炎ワクチン接種を受けられる環境の整備、州による就学時のワクチン接種完了要請などを推奨している36)。フランスでは19952004年の間に20歳以下の接種率を上げる目的で、02歳のユニバーサルワクチネーションと11歳のキャッチアップを導入した。しかしながら、19982002年の間、副作用の疑いからキャッチアップをやめて任意接種にしたところ、この期間中に11歳の接種を受けるはずだった児童のワクチン接種率(HepB3)がそれまでキャッチアップ対象だった児童の46.2%から半分の23.3%に低下した40)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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