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ザンビア西部地域におけるウエストナイルウイルスの単離・同定

(IASR Vol. 40 p159-160:2019年9月号)

人獣共通感染症リサーチセンターでは, アフリカ南部に位置するザンビア共和国において, 人獣共通感染症の流行状況の把握, および未知の感染症起因微生物の網羅的探索を目的とした調査を実施している。私達の研究グループは, 2012年から, ザンビア各地域に生息する蚊におけるアルボウイルスの探索を実施し, ザンビア西部のモング地域で採集したネッタイイエカからウエストナイルウイルス(West Nile virus: WNV)を単離・同定したので, その結果について報告する1)

サブサハラに位置するザンビア共和国は, 国土の大部分は温帯気候であるが, 西部のザンベジ川流域はサバナ気候で, ネッタイイエカ, ネッタイシマカ等の生息数が多い。これまでに, ザンビアにおいて, 黄熱, デング, ジカ, ウエストナイル, チクングニヤウイルス等による, 蚊媒介性ウイルス感染症のヒトでの発生報告は無い。しかしながら, 媒介蚊の生息状況や, アンゴラやコンゴ民主共和国など, 周辺国でのアルボウイルス感染症の発生状況を鑑みると, 未診断のアルボウイルス感染症がザンビアにおいても発生している可能性がある。そこで, 私達は, ザンビアに生息する蚊におけるアルボウイルスのスクリーニングを実施し, 蚊のウイルス感染状況を調査した。

2012~2017年にかけて, ザンビア国内の各地域で, 総計13,402匹の雌蚊を採集し, 蚊種を同定後, 1~40匹の同種の蚊を1プールとして, 計758プールからホモジネートを作製しRNAを抽出した。フラビウイルス属に属するウイルス遺伝子を広範囲に検出するpan-Flavivirus RT-PCR法を用いて, 蚊由来RNAを解析した結果, 2016年5月にザンビア西部のMongu地域 (図1) で採集したネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)15プール(278匹)のうち, 1プールからWNVのゲノムを検出した。さらに, 同検体を用いた培養細胞を用いたウイルス分離試験を実施し, 蚊由来C6/36細胞, ハムスター由来BHK-21細胞, サル由来Vero細胞でWNVの増殖を確認し単離した。単離したWNV(zwq16m11株)は, 電子顕微鏡による観察で, 40nmの粒子として確認された。

また, サンガー法および次世代シーケンサーを用いて, ウイルスゲノム全長を解読した。database上の既知のWNVのゲノムと比較し, WNV polyproteinの系統樹解析を実施した。その結果, 蚊から単離したWNV(zwq16m11株)はlineage 2に属し, ヒトや馬の脳炎症例から分離された南アフリカの流行株に近縁であることが判明した(図2)。

結 語

2015年にザンビア西部および北西州の住民3,625人を対象に実施されたフラビウイルスの血清疫学調査では, 約10%にELISAによるWNV抗体が検出されたとの報告があり2), これまでに確定診断に至っていないウエストナイル熱症例があるものと推定されていた。しかしながら, フラビウイルス感染症では, 抗ウイルス抗体に交叉性が認められており, ザンビアにおけるWNV感染症の疫学状況は不明であった。

本研究でザンビアの蚊からWNVを単離・同定したことにより, ザンビアにWNVが存在することが明らかになった。また単離したWNV(zwq16m11株)は, 南アフリカのヒトや馬の脳炎症例から分離された流行株に近縁であることから, ザンビアにおいてもヒトや馬に感染し脳炎を引き起こしている可能性が示唆された。

私達は今回の研究で得られた結果を, 首都LusakaでZambia National Public Health Institute(ザンビア国立公衆衛生研究所)に報告するとともに, 西部地域のGovernor(知事), およびMinistry of Health(保健省), Ministry of Agriculture and Livestock(農業畜産省)の担当者, 医療関係者にもWNVが蚊によって媒介されるウイルス感染症で, ヒト・馬に脳炎を発症させること, WNVがMongu地域で採集した蚊から単離・同定されたこと, 熱性疾患症例の中にはWNV感染者が含まれている可能性が有ることを報告した。また, 現在, WNV感染症に対するワクチン, 抗ウイルス薬は開発されていないので, 防蚊対策が重要であることを伝えた。

今回得られた結果に基づいて, 私達はヒト熱性疾患患者におけるWNVゲノムの検出調査を開始した。今後はさらに, ザンビア国立公衆衛生局, 保健省と連携して, WNVを含めたアルボウイルス感染症の流行状況を把握するとともに, 早期診断系を開発して, アルボウイルス感染症の流行予防に資することを目指す。

 

参考文献
  1. Orba Y, et al., Transbound Emerg Dis 65(4): 933-938, 2018
  2. Mweene-Ndumba I, et al., African Health Sciences 15(3): 803-809, 2015
 
 
北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター
 大場靖子 江下優樹 澤 洋文
ザンビア大学獣医学部
 Bernard. M. Hang’ombe
 Aaron. S. Mweene

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan