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2016年に分離された腸管出血性大腸菌O157, O26およびO111株のMLVA法による解析

(IASR Vol. 38 p.100-101: 2017年5月号)

国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では2014年シーズンから腸管出血性大腸菌O157, O26およびO111についてmultilocus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA)法による分子疫学サーベイランスを行っている。本稿では2016年に発生した主要な集団事例関連株, 広域株等を中心にMLVA法による解析結果をまとめた。2017年3月31日までに感染研に送付された2016年分離株は2,573(同時期前年比0.7%減)であり, このうちO157は1,535(同2.1%増), O26は616(同4.2%減), O111は70(同4.1%減)であった。これらの株をMLVA法によって解析した結果同定された型の数は, O157が560(前年比2.8%増), O26が201(3.8%減), O111が38(15%減)であり, それぞれのSimpson’s Diversity Index*(SDI)は0.990, 0.985, 0.969であった。表1に検出された菌株数が多かったMLVA型およびその各遺伝子座のリピート数を示す。

 MLVAでは, リピート数が1遺伝子座において異なるsingle locus variant(SLV)など, 関連性が推測される型をコンプレックスとしてまとめる様式をとっている。2016年は103のコンプレックスが同定されている。

2016年に発生した広域集団事例として, 7月に発生した沖縄県でサトウキビジュースを喫食したことに関連する事例(本号89ページ), および10月に神奈川県を中心に発生した冷凍メンチカツを原因食品とする事例(本号45ページ)があり, それぞれコンプレックス16c027および16c059を形成した。これまでに当該コンプレックスに含まれる型数と菌株数は, 16c027で5型34株, 16c059で4型64株となっている。各コンプレックスに含まれる菌株の分離地域およびMLVAに基づくminimum spanning treeをに示す。当該コンプレックスを構成する株の症例のほとんどがそれぞれの原因食品の喫食歴が認められた。一方で一部については, 当該原因食品の喫食が認められないものもあった。

MLVA法によって試験した菌株に関し, 送付地方衛生研究所(地衛研)等に基づいて広域株の検索を行った。5以上の地衛研等で検出された広域コンプレックスは22種類, コンプレックスに含まれない広域型は3種類であり, 該当するコンプレックス/型および分離地域(ブロック)は表2に示す通りである。このうち16c010株は25都府県33地衛研から15型92株, 16c008株は19都道府県26地衛研から10型98株検出された。16c010は全国的に分布していた。一方, 16c008は関東甲信静を中心にみられた。これまでのところ, それぞれのコンプレックスについて共通の感染源は見出されていない。

MLVA法により迅速な菌株解析が可能となったことで, 集団事例および家族内事例における菌株の同一性, 散発例も含めた事例間の関連性および広域性の有無などの情報がよりリアルタイムに還元できるようになってきている。MLVA法の結果に基づいて実施された自治体からの疫学情報の共有などから事例間のつながりが明らかにされるなど, 事例対応に有益であったことも少なからずあった。

今後, 上記3血清群に加え, MLVA法の適用O群を拡大していく予定であり, 引き続き関係機関のご理解とご協力をお願いしたい。

*: 多様性を表す指数の一つ。0-1の範囲で1に近いほど多様性が高く, 0に近いほど多様性が低いことを示す。

 

国立感染症研究所細菌第一部
 泉谷秀昌 石原朋子 李 謙一 伊豫田 淳 大西 真

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