
サトウキビジュースによる腸管出血性大腸菌O157広域散発食中毒事例におけるIS-printing system解析例について―沖縄県
(IASR Vol. 38 p.95-97: 2017年5月号)
2016年7月下旬~8月上旬に沖縄県南部保健所管内にある観光施設Aで提供されたサトウキビジュースを原因食品とした腸管出血性大腸菌O157広域散発食中毒事例が発生した。本事例は, 第1波(8/1~8/4)と第2波(8/15~8/23)の患者発生があり, 食中毒の行政処分後の追加調査を含めると最終的に15都道府県18事例に及ぶ広域散発食中毒事例へと拡大した(表)。各自治体にてIS-printing system(IS法)を用いた解析や国立感染症研究所細菌第一部にて反復配列多型解析法(MLVA法)が実施され, 当県へ解析結果が提供されたことにより, 迅速に広域散発食中毒事例を探知することができた。特に本事例では, IS法におけるエキストラバンドの有無を判定基準の一つとした解析が非常に有用であったため概要を報告する。
沖縄県南部保健所管内では, 7月11日にエキストラバンドを含めISパターンが完全一致する2例の腸管出血性大腸菌O157 VT2の発生届出があったが(図), 当該保健所の調査の結果, 疫学的な関連性や原因食品等は不明であった。その後, 沖縄県内ではO157の発生届はなかったが, 8月1日~23日までの期間に, 他の都道府県自治体から当県生活衛生課あてO157に関する調査依頼が相次ぎ, 13自治体に及んだ。当初, 県内でのdiffuse outbreakを想定し県内関係機関内で情報共有を行っていたが, 他都道府県自治体から調査依頼が続いたため, 当県生活衛生課, 当県健康長寿課, 当県南部保健所, 那覇市保健所および当所による合同調査を実施し, 南部保健所管内観光施設Aを共通して利用し, サトウキビジュースを喫食していることが見出された(本号8ページ参照)。
病原体解析を実施するにあたり, 当県では, ゆうパックを利用したカテゴリーAの病原体輸送は海上輸送に限られ, また台風来襲が続いたことから, 病原体収集に時間を要することが想定された。そこで, パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法およびMLVA法に分離能は及ばないものの1,2), 迅速, 簡便な解析法であり, エクセルデータを用いて解析結果の共有も容易なIS法の解析結果の収集を行った。その結果, すべての株で共通したISパターンを示し(プライマーセット1:000000100001101111, プライマーセット2:011100000011101010), 1本のエキストラバンド(1-02および1-03の間)が共通して観察された(図)。1,000 bp以上のエキストラバンドや1-12および1-13の間にエキストラバンドが観察される株もあった。国立感染症研究所細菌第一部でMLVA法による解析が実施され, 本事例株は5つのMLVA type「16m0110」, 「16m0169」, 「16m0245」, 「16m0310」および「16m0384」に分類されたが, single locus variantの関係にある同一MLVA complex「16c027」であることが明らかとなり, これらは同一由来株とみなした3)。また, 本事例と同時期に, 沖縄県旅行歴ありのO157の発生届出があったが, 当該施設を利用しておらず, サトウキビジュースも喫食していない事例であり, IS法およびMLVA法の結果は異なっていた。
疫学調査により原因食品として見出された観光施設Aのサトウキビジュースは, 生のサトウキビを店舗内において圧搾機で絞り非加熱の生ジュースとして提供されていた。南部保健所の調査により加工段階での汚染が推定されたため, 別ロットの同一製品1検体と圧搾機および原因施設の拭き取り検体11検体および従業員13名の検便を採取し, 通知法に従い検査を実施したが, いずれの検体からもO157は検出されず, 汚染経路の究明には至らなかった。
本事例において, IS法におけるエキストラバンドの有無を判定基準の一つとした解析は事例規模の探知, 病原体情報や疫学情報の精査に非常に有用であった。エキストラバンドに関して本事例と同様に有用であった報告4)もあり, IS法を用いた解析においてエキストラバンドの有無を報告していくことは重要であると考えられる。
本事例において, 疫学調査およびIS法を用いた解析について情報提供いただいた各都道府県自治体の関係者の皆様に深謝いたします。
参考文献
- Izumiya, et al., Microbiol Immunol 54: 569-577, 2010
- Ooka, et al., J Clin Microbiol 47: 2888-2894, 2009
- 石原朋子ら, IASR 35: 129-130, 2014
- 小嶋由香ら, IASR 34: 127-128, 2013