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複数国で報告されている小児の急性肝炎について
(第6報)

2023年8月21日

国立感染症研究所
感染症危機管理研究センター
実地疫学研究センター
感染症疫学センター

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概要

 

第5報からの更新点

 

目次

 

 

国外の状況について

 

国内の状況について

国内における小児の原因不明の急性肝炎報告例の概要

厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義は以下の通りである。(令和4年4月27日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「欧州及び米国における小児の原因不明の急性肝炎の発生について(協力依頼)」、5月13日一部改訂)

2021年10月1日以降に診断された原因不明の肝炎を呈する入院例のうち、以下の①、②、③のいずれかを満たすもの:

 

①確定例 現時点ではなし
②可能性例  

アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミナ
ーゼ(ALT)が500 IU/Lを超える急性肝炎を呈した16歳以下の小児
のうちA型~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者

③疫学的
  関連例 
②の濃厚接触者である任意の年齢の急性肝炎を呈する者のうち、A型
~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者

 

2022年4月27日の厚生労働省よる小児の原因不明肝炎の調査に関する協力依頼の発出以降、2023年6月15日までに暫定症例定義②を満たす小児の原因不明の急性肝炎の可能性例が186例報告された(表1)。この186例について、2023年7月19日までに、肝移植を要した症例が3例、死亡例が2例報告された。肝移植を要した症例及び死亡例の割合は、欧米諸国からの報告と比較し低かった。また、前報までの報告と同様、症例の発症時期、居住地域、検出された病原体について、特定の傾向は確認されなかった。
アデノウイルス検査結果について情報の得られた179例のうち、20例(11%)からアデノウイルスが検出され、このうち、欧米諸国で多く報告された41型が検出された症例は3例であった。アデノウイルス及びアデノウイルス41型が検出された症例の割合は、欧米諸国からの報告と比較し低かった。

 

表. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の発生状況(2023年6月15日10時時点)

可能性例数

うちSARS-CoV-2

PCR検査陽性数

うちアデノウイルス

PCR検査陽性数

186

11

20

 

 

継続した調査により国内の小児の原因不明肝炎の発生状況及び疫学的所見に、経時的変化と特徴的な所見が確認されなかったことから、国立感染症研究所では「国内における小児の原因不明の急性肝炎」の集計は、本稿以降の更新を予定していない。

 

背景、急性肝不全の診断基準などについては「国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報) 2022年6月23日時点」を参照のこと。

 

 

国内における小児の原因不明の急性肝炎報告例の事例報告集計

厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義を満たす可能性例は、2023年6月15日(第24週)までに、国内で186例報告された。原因となる病原体、発症の時期について特定の傾向は認められなかった。また、症例は全国から報告され、地域的な偏りはみられなかった。

2021年第39週(ただし、10月1日~3日)から2023年第24週(ただし、6月12日~15日)までの、疫学週ごとの発症者数の推移を示す(図1)。
情報が得られた症例において、発症から入院までの期間、入院期間の中央値[四分位範囲]は、それぞれ4日[2-8日]、中央値[四分位範囲]は10日[7-16日]であった(表2)。

86例のうち、102例(55%)は男性、84例(45%)は女性で、年齢中央値[四分位範囲]は4歳9か月[1歳5か月-9歳3か月]であった。情報が得られた症例のうち(以下、分母は各情報が得られた症例数を表す)、基礎疾患を有する者の割合は23%(43例/185例)であった(表2、表3)。
少なくとも1回以上の新型コロナワクチン接種歴がある者の割合は17%(29例/170例)、肝炎発症の前に明らかに新型コロナウイルス感染症の既往歴があった者の割合は16%(29例/176例)であった(表2)。

最もよく見られた症状は発熱、消化器症状であり、前報までの報告と同様であった。肝機能の指標となるAST、ALT、総ビリルビン、PT-INRの中央値についても、前報までの報告と同様の傾向であった(表2)。

全血、血清、便、呼吸器由来検体を主な対象とした病原体検査の結果では、6%(11例/180例)からSARS-CoV-2が検出された(表4)。また、アデノウイルスの検査結果が判明した症例のうち、11%(20例/179例)からアデノウイルスが検出された(表4)。欧米で重症急性肝炎との関連について注目されたアデノウイルス41型は3例から検出された。報告症例から検出された病原体について明らかな偏りを認めなかった。

ICU/HCU入室例は17%(20例/118例)であり、急性肝不全の診断基準を満たす者は、PT-INRに関する情報の得られた121例のうち22例(18%)であり(図1、表2)、これまでの傾向と同様であった。急性肝不全の診断基準を満たす者22例のうち、肝移植を要した症例は3例であり、第3報報告時点からの増加はなかった。急性肝不全の診断を満たす者22例のうち、死亡例が1例報告された。また、肝機能障害以外の死因による死亡例が1例報告された。転帰は2023年7月19日集計時点の情報である。

ただし、直近の発症者については集計時点で報告されていない可能性があること、また、本調査開始となる事務連絡発出以前の発症者は、医療機関が遡って確認する必要があり十分に報告されていない場合があると推定されることから、過小評価である可能性がある。

 

 

hepatitis 6 Figure1

図1.暫定症例定義に該当する国内の症例の発生状況(n=180*1、2023年6月15日10時時点、発症日別、2021年39週~2023年24週)

*1 発症日不明の6名を除いている
*2発症日不明の1名を除いている
*3発症日事務連絡発出以前の遡り調査や、直近数週の報告については解釈に注意(本文参照)

 

表2. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の基本情報(n=186、 2023年6月15日10時時点)

hepatitis 6 table2

*1 重複あり
*2 腹痛、下痢、嘔吐・嘔気のいずれかを呈する者
*3 AST、ALT、総ビリルビン、PT-INRは報告時点までの最大値
*4 AST、ALT、総ビリルビン、PT-INR は、それぞれ情報が得られた183例、183例、140例、121例の情報に基づく
*5 転帰のみ7月19日時点の情報である
*6 肝機能障害以外の死因により死亡例を含む

 

表3. 基礎疾患の分類(n=43、2023年6月15日10時時点)

hepatitis 6 table3

*1 重複あり

 

表4. 検出した微生物の基本情報*1

hepatitis 6 table4

*1 重複あり
*2 20例のうち14例がPCR法での検出、1例がウイルス培養での検出、4例が迅速抗原検査での検出であり、1例は検査方法不明である
*3 12例のうち9例は院内検査でアデノウイルスを検出したが、地方衛生研究所での検査が陰性であったため、型判定が不能であった
*4 地方衛生研究所での検査で検出した微生物

 

 

関連する感染症発生動向調査の状況の概要

 

用語解説

アデノウイルス:
アデノウイルス科マストアデノウイルス属に属するヒトアデノウイルス(Human mastadenovirus)は、エンベロープを持たない2本鎖DNAウイルスであり、 物理化学的に比較的安定している。現在A-Gの7種に分類され、100を超える型が存在している。アデノウイルスは、急性上気道炎などの呼吸器疾患や、流行性角結膜炎 (epidemic keratoconjunctivitis, EKC)などの眼疾患、咽頭炎や結膜炎を併発する咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever, PCF)、感染性胃腸炎などの消化器疾患を起こす。また、出血性膀胱炎、尿道炎などの泌尿器疾患、さらに肝炎なども起こす。アデノウイルスの種によって流行状況や炎症反応が異なる(Nakamura et.al, 2018)。
詳細は特集記事(IASR 42(4), 2021【特集】アデノウイルス感染症2008~2020年)を参照。

 

アデノ随伴ウイルス:
パルボウイルス科ディペンドウイルス属に属するアデノウイルス随伴ウイルス(adenovirus associated virus: AAV)は、エンベロープを持たない1本鎖DNAウイルスであり、物理化学的に比較的安定している。これまでに13の血清型が知られている。アデノウイルス随伴ウイルスは、アデノウイルスの精製過程で混在していたことで発見され、アデノウイルスなど他のウイルスの共感染により増殖されると考えられてきたが、持続感染をして一定のストレス下において増殖能があることが判明している。ヒトにおいてAAVの抗体保有率は高いものの、これまでにヒトへの病原性は知られていない。(Berns & Giraud, 1996)。

 

   参考文献

 

謝辞

当該事例の調査報告、及び日頃より感染症発生動向調査にご参加、ご協力をいただいている全国の医療機関、保健所、自治体本庁、そして地方衛生研究所の関係各位に心より感謝申し上げます。

 

添付資料

 

関連項目

 

更新履歴

第6報 2023/8/21時点

第5報 2023/4/20時点

第4報 2022/7/04時点

第3報 2022/5/27時点

第2報 2022/5/10時点 注)第1報からタイトル変更

「複数国で報告されている小児の急性肝炎について」

第1報 2022/4/25時点

「欧米での小児重症急性肝炎の発生について」  

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