国立感染症研究所

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アデノウイルス感染症 2008~2020年

(IASR Vol. 42 p67-69: 2021年4月号)

 

 アデノウイルス科マストアデノウイルス属に属するヒトアデノウイルス(human adenovirus: Ad)は, エンベロープを持たない2本鎖DNAウイルスであり, 物理化学的に比較的安定である。現在A-Gの7種に分類され, 80を超える型が存在している(以下, 型の記載について3型であればAd3と表記)。Ad51までは血清型として報告されたが, Ad52以降は全塩基配列の決定による遺伝型として報告されている。

 Adは, ARI(acute respiratory infections)などの呼吸器疾患, EKC(epidemic keratoconjunctivitis)などの眼疾患, 感染性胃腸炎などの消化器疾患を起こす。また, 出血性膀胱炎, 尿道炎などの泌尿器疾患, さらに肝炎なども起こす(表1, 表2&本号4ページ)。Adの種によって流行状況や炎症反応が異なる(Nakamuraら:JMV2018)。

 感染症発生動向調査(NESID)ではAd関連疾患として, 全国約3,000の小児科定点において“咽頭結膜熱(pharyngo-conjunctival fever: PCF)”と“感染性胃腸炎”, 全国約700の眼科定点において“流行性角結膜炎(EKC)”の患者発生情報が把握されている(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-30.html)。届出基準のうちEKCについては2020年4月に改訂され, EKCがAdによる感染症であり, より詳細に病原ウイルスが定義された(本号5ページ)。また, 病原体に関するサーベイランスも行われている(本号6ページ)。

 PCFとEKC患者発生状況:NESID小児科定点からのPCF患者報告数は, 集計を開始した1987年以降, 2006年が最多であった。AdによるPCFは, 夏に流行のピークが認められ, 2003年以降は冬にも明らかなピークがみられるようになった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1645-02pcf.html, https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data27j.pdf)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した2020年にも低いながらも夏および冬のピークがみられた(図1上)。PCF患者は1歳を中心とする小児からの報告数が多い(図2上)。

 一方, NESID眼科定点からのEKC患者報告数は, 例年5~8月に多いが, 2015年以降は秋にも報告数の増加がみられた(図1下およびhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1656-15ekc.html)。EKC患者は0~4歳を中心とする小児と, 成人では30代を中心とした幅広い年齢層にみられる(図2下)。

 レセプトデータを用いた解析によると, 2012~2016年に日本のPCFとEKC患者数は, それぞれ年間に約10万人および約50-75万人と推定された(本号7ページ)。

 Ad分離/検出状況:2008~2020年に地方衛生研究所(地衛研)等で検出されたAdの報告総数は20,499である(表2)。Ad2が最も多く(26%), 次いでAd3(19%), Ad1(14%)であった。

 PCF患者からのAd分離・検出報告数は3,597で, Ad3, Ad2, Ad1, Ad4, Ad5の報告が多かった(表2)。

 EKC患者からのAd分離・検出報告数は2,244で, 報告数が多いのはD種のAd54, Ad37, Ad8, Ad53, Ad64(19a)である(表2)。日本で発見されたAd85もEKCを引き起こしている(金子:JJID2020)。B種のAd3およびE種のAd4によるEKC報告もみられた(図3および表2)。2020年にNESIDにおけるEKCの届出基準が変更され, EKCはD種によると定義された。EKCの主要病原体は, 諸外国ではAd8であるが, 日本において近年Ad54検出頻度が増加し, Ad8は減少した(表2)。

 感染性胃腸炎患者からのAd報告数は3,751で, 主要な病原体はF種(Ad40または41)であった(表2)。A種のAd31も143件検出された(本号9ページ)。

 B種のAd7は, 重症の肺炎等を起こす。1995~1998年のAd7流行時には863件の検出が報告され(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/table/virus/adv91-00.pdf), 死亡例もみられた(IASR 17: 99-100, 1996および18: 79-80, 1997)。2008~2020年に46件のAd7の検出報告があり(表2), 引き続きその検出状況に注意が必要である(本号10ページ)。

 実験室診断法:抗原検出免疫クロマトキットは型別ができないが, 臨床現場で迅速に結果が得られる利点があり, 日本では年間に約270万回使用されており, キットが改良され, その検出感度向上が進んでいる。

 現在, 血清型から遺伝型に型別の判定方法が移行した。地衛研の通常の検査では, penton base, hexon, fiber領域の部分配列による型別が実施されている(「咽頭結膜熱・流行性角結膜炎検査, 診断マニュアル(第3版)」, https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/adeno_v3.pdf)。アデノウイルスは種内での異なった型間の組換えが多くみられるので複数領域の配列決定が必要である(本号12ページ)。

 治療および予防:現在のところ, 国内においてAd感染症の治療に使用できる特異的な抗ウイルス薬はない。臓器移植後の免疫不全状態においてAdは致死的な感染症を引き起こすことがあるため, 治療薬の実用化などの対策の強化が重要である(本号4ページ)。

 Adは, 接触感染および飛沫感染するので, 頻回の手指衛生対策等による感染対策が重要であるが, 通常の消毒用アルコールが無効であり, 消毒剤の選択が重要である(本号9ページ)。特に眼科診療においては, Ad感染時の眼脂や涙液等に大量のウイルスが含まれるため, 眼科ガイドライン等に従って問診や診断キットなどで罹患者の早期発見に努め, 二次感染の機会を減らすよう工夫する(https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?ItemId=283&dispmid=909)。小児は学校保健安全法および「保育所における感染症対策ガイドライン」等により感染源, 感染経路, 感受性(感染症成立の三大要因)への対策のための衛生管理を実施する(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123472.html)。

Adは軽症の小児感染症としてとらえられることが多いが, 種および型によって異なる多彩な疾患を起こし, ときに重症化するので, その感染対策は重要である。 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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