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ヒトパレコウイルス3型が検出された複数の急性脳炎症例, 2023年―北海道

(IASR Vol. 45 p49-50: 2024年3月号)
 
はじめに

ヒトパレコウイルス(パレコウイルスA: PeV-A)はピコルナウイルス科に分類され, エンテロウイルスと近縁のウイルスである。その中でもヒトパレコウイルス3型(パレコウイルスA3: PeV-A3)は新生児や生後4か月未満の乳児において髄膜炎や脳炎, 敗血症を引き起こし, 腹部膨満や網状チアノーゼ, 発疹, 手足の紅潮を呈し, 敗血症においては自発呼吸喪失といった症状をともなうことがある。また生後4か月以降の小児や成人では, 軽症の胃腸炎や呼吸器感染症, 流行性筋痛症や筋炎が特徴的な臨床像である1)

感染症サーベイランスシステム・病原体検出情報システムに登録された地方衛生研究所(地衛研)からの報告によると, 2023年の全国におけるPeV-A3の分離・検出報告数は199件(2024年1月15日時点)であり, 過去に流行がみられた年と同様に7月頃を中心に報告数が増加した2)。都道府県別では北海道, 山形県, 福島県, 千葉県, 神奈川県, 兵庫県で報告数が多く, 千葉県では急性脳炎, 神戸市では無菌性髄膜炎と診断された乳児からの検出が報告された3,4)

今回, 北海道立衛生研究所(以下, 当所)において検査を実施した複数の急性脳炎症例からPeV-A3が検出されたので報告する。

病原体検出状況と患者情報

2023年6~9月に急性脳炎として当所に行政検査依頼があった17症例について(RT-)PCR法とダイレクトシーケンス法により遺伝子の検出および型別を実施した。なお, PeV-AのRT-PCR法とダイレクトシーケンス法についてはVP1領域を標的とした5)。17例のうちPeV-A3が11例(65%)で検出され, うち1例はライノウイルスA型が同時に検出された(図1)。2018~2022年度においては, 急性脳炎の検査依頼42例のうちPeV-A3検出数は0例であり, 2023年のPeV-A3の検出数は有意に多かった(p<0.01)。その他4例はコクサッキーウイルスA2型とB5型が各1例, ヒトヘルペスウイルス7型が1例, コクサッキーウイルスA2型とヒトヘルペスウイルス7型の同時検出が1例, 不明が2例であった。PeV-A3は7月4日発病の症例において初めて検出されて以降, 9月17日発病の症例まで断続的に検出された。また, 全道広域にわたる複数の保健所管内の症例から検出されており, 北海道全域でPeV-A3が流行していた可能性がある。

PeV-A3陽性症例の検査実施検体(髄液, 血清, 咽頭ぬぐい液, 便, 尿)ごとの陽性率および検体採取日を図2に示す。陽性となった検体採取日の多くは発症から第2~3病日であり, その陽性率は髄液で9検体中5検体(56%), 血清で11検体中8検体(73%)となった。また便検体は陽性率が最も高く, 最長で第9病日から検出された。髄液検体だけでは第1~4病日に採取された検体でも陰性の場合があることから, 当所では小児急性脳炎の起因ウイルス同定には可能な限り前記5種類の検体を提出いただくよう保健所を通じて医療機関へ伝えている。

PeV-A3陽性症例の年齢は0歳が10例, 2歳が1例, 性別は男性が5例, 女性が6例であった。0歳の患者はいずれも生後3か月未満であり, PeV-A3により急性脳炎を起こすとされる月齢と合致した。症状は発熱11例(100%), 意識障害4例(36%), 胃腸炎3例(27%)に加えて, 腹部膨満(臍部突出含む)3例(27%), 発疹3例(27%), チアノーゼ1例(9%), 紅斑1例(9%)など, PeV-A3感染症に特徴的な所見を呈する症例があった。発熱について記載があった11例中8例では, 最低37.8℃, 最高40.5℃であった。なお, これらは検体送付時点の情報である。

まとめ

道内の一部医療機関ではFilmArray®髄膜炎・脳炎パネル検査を導入しており, PeV-Aを含む病原体の検出が可能となっている。FilmArray®髄膜炎・脳炎パネル検査は髄液のみが対象であるため, PeV-Aを検出できない可能性があることから, 地衛研での複数の検体種を用いた検査が有用であると考えられた。

当所では, 道内の複数の地域においてPeV-A3検出症例があったことを受けて, 2023年8月3日時点で急性脳炎の発生動向およびPeV-Aの分離・検出状況をまとめた資料を作成し, 保健所へ情報提供した。新生児および乳児では, 同居家族や保育所を介したと考えられる感染例が少なくない。地衛研においては検査受け入れ体制を整え, 急性脳炎の起因病原体や発生状況などの疫学情報を積極的に発信して, 感染予防や患児の早期発見につなげることが重要と考えられた。

謝辞: 感染症発生動向調査にご協力いただいている道内保健所および医療機関の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 相澤悠太ら, 臨床と微生物 46: 697-702, 2019
  2. 国立感染症研究所, IASR Topics グラフ(RSウイルス/ムンプスウイルス/EV68/パレコウイルス/A型肝炎ウイルス)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/510-graphs/4563-iasrgtopics.html(2024年1月15日閲覧)
  3. 千葉県感染症情報センター, 千葉県結核・感染症週報 2023年第26週
    https://www.pref.chiba.lg.jp/eiken/c-idsc/documents/wr2326.pdf
  4. 神戸市感染症情報センター, 神戸市感染症発生動向調査週報 2023年第34週
    https://www.city.kobe.lg.jp/documents/59564/sh_34.pdf
  5. Benschop KSM, et al., Clin Infect Dis 42: 204-210, 2006
北海道立衛生研究所         
 感染症疫学部           
  川代愛梨 田宮和真 高津祐太 山口宏樹 越湖允也 三好正浩 森本 洋            
 感染症部             
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