注目すべき感染症 ◆ インフルエンザ インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。典型的な発症例では1~4日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴である。近年、抗インフルエンザウイルス薬が広く臨床現場で用いられるようになり、発症後早期から投与されることによって従来よりも有熱期間が短縮している例も少なくない。 インフルエンザの主な感染経路はくしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染であり、他に接触感染もあるといわれている(CDCホームページ:http://www.cdc.gov/flu/about/disease/spread.htm)。感染対策としては、飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生の徹底が重要であると考えられるが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在する。従って、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設においてインフルエンザの集団発生をコントロールすることは困難であると思われる。 2009年4月に発生した新型インフルエンザは、2011年4月以降はインフルエンザ(H1N1)2009と呼ばれるようになり、他のA/H3N2(A香港)亜型やB型のインフルエンザと同様にヒト-ヒト間で流行する季節性インフルエンザ対策の中に組み込まれることとなった(「新型インフルエンザ(A/H1N1)に係る季節性インフルエンザ対策への移行について」厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部事務局:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/jichitai1100401-01.pdf)。 感染症発生動向調査では、全国約5,000カ所(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)のインフルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析している。インフルエンザの定点当たり報告数は、2011年第42週以降増加が続いており、2012年第1週の定点当たり報告数は3.76(報告数18,341)となった(図1)。都道府県別では岐阜県(16.60)、愛知県(16.22)、三重県(15.17)、香川県(9.35)、滋賀県(8.85)、沖縄県(8.40)、宮城県(7.98)、岡山県(7.79)の順となっている。25都府県で前週の定点当たり報告数よりも増加がみられた(図2)。 定点医療機関からの報告数をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を1週間に受診したインフルエンザ患者数を推計すると、2012年第1週は23万人(95%信頼区間:21~25万人)(暫定値)となり、前週(17万人)よりも更に増加した(図3)。年齢群別では30~39歳約4万人(17.4%)、0~4歳、20~29歳、40~49歳がそれぞれ約3万人(13.0%)の順であり、20歳以上の成人層が65.2%と多くを占めている(図4)。これは学校、幼稚園等の大半の小児の集団生活施設が冬季休暇期間中であったことも影響していると思われる。2011年第36週以降これまでの累積の推計受診患者数は74万人(95%信頼区間:71~77万人)(暫定値)であった。
2011年第36週~2012年第1週に国内では538検体のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、AH1pdm09が2件(0.4%)、AH3亜型(A香港型)487件(90.5%)、B型49件(9.1%)とAH3亜型が大半を占めている状態が続いている。 冬季休暇中であったにもかかわらず、2011年第52週、2012年第1週とインフルエンザの患者報告数、推計受診患者数は増加が続いた。冬季休暇が終了した1月中旬以降に、AH3亜型を中心としたインフルエンザの流行は本格化してくる可能性が高い。今後ともインフルエンザの発生動向には注意が必要である。 |