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妊娠中に風疹IgM抗体陽性であったが風疹HI抗体, 風疹IgG抗体陰性であった症例について

(IASR Vol. 43 p7-9: 2022年1月号)

 
はじめに

 風疹に対して免疫の不十分な女性が妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると, その児が先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)を発症することがある。CRSは古典的には白内障, 難聴, 心疾患を3徴とする先天性感染症であり, 胎児死亡も起こり得る極めて重篤な病態である。妊娠中に母体の風疹ウイルス感染や, 胎児がCRSの可能性があると告げられることは, 妊婦やその家族にとって大きな精神的負担となることは想像に難くなく, 心理的ケアも含めた適切なマネージメントをするためにも正確な診断は極めて重要である。わが国においては, 風疹ウイルスの血清学的診断には赤血球凝集抑制(HI)法, 酵素抗体(EIA)法が用いられている。今回我々は, 妊娠初期に風疹IgM抗体が陽性であったが, 一貫して風疹HI抗体, 風疹IgG抗体が陰性であった妊婦例を経験した。出生した児の咽頭ぬぐい検体での風疹ウイルス遺伝子検出はRT-PCR法で陰性で, 各種検査結果からCRSではないと判断された。母体の風疹IgM抗体陽性の原因は風疹感染ではなかった可能性もあり, 経過を報告する。

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