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ポリオワクチンの最近の話題

(IASR Vol. 44 p122-123: 2023年8月号)
 
新規2型経口生ポリオワクチン(novel oral polio vaccine type 2: nOPV2)について

経口生ポリオワクチン(oral polio vaccine: OPV)は経口投与され, 腸管で増殖した後に糞便中に排出される。排出されたワクチン株は, ワクチン接種率が低い地域や衛生状態が良くない場合に, 糞口感染で広まることがある。このようにして人から人への感染を繰り返す間にワクチン株のウイルスゲノムに変異が生じて病原性が復帰し, 社会に広まったポリオウイルスを伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived poliovirus: cVDPV)と呼ぶ。

2型ポリオウイルスの野生株の根絶は, 2015年に宣言された。そして2016年春には世界中で同時に, 三価のOPV接種から2型(ワクチン株のSabin2)を除いた二価のOPVの接種への切り替えが実施された。しかし, ワクチンの定期接種の接種率が低く集団免疫が低下した地域では, その後2型のcVDPV(cVDPV2)のアウトブレイクが発生し, これに対応するために, Sabin2のみのOPV(monovalent OPV type 2: mOPV2)によるワクチンキャンペーンが実施された1)。しかし一方で, mOPV2由来の新たなcVDPV2が急速に出現するという問題も生じている2)

cVDPV2の流行に対応するために, Sabin2と比べて遺伝的に安定な新規2型経口生ポリオワクチン(novel oral polio vaccine type 2: nOPV2)の開発が, ビル&メリンダ・ゲイツ財団に支援をされた共同事業体により2011年から進められた3)。その結果, Sabin2をベースとした候補14)と候補25)が作出された(図1)。候補1には3種類の遺伝子操作が施されている。

①Internal ribosome entry site(IRES)ドメインVにある弱毒化決定塩基の復帰変異を防止するために, その近辺に多数の塩基置換を導入。

②cre配列を5’非翻訳領域へ移動。組換え①(図2上)が生じても, そのゲノムはcreをもたないため増殖できない。

③3D蛋白質(RNAポリメラーゼ)に, 忠実度を上げる変異とゲノム組換えを減らす変異を導入。

候補2への遺伝子操作は, 上記①と④キャプシド遺伝子のコドンの非最適化である。

nOPV2候補1は, ワクチンとして初めて, 世界保健機関(WHO)の暫定緊急使用リスト(Emergency Use Listing Procedure)に加えられた(2020年11月)。nOPV2の接種は2021年3月よりアフリカなどで開始され, 2023年5月の時点で, 28カ国において計6億ドーズ以上が使用されている(https://polioeradication.org/news-post/two-years-since-rollout-of-novel-oral-polio-vaccine-type-2-nopv2-hows-it-all-working-out/)。この間, nOPV2の遺伝的安定性について, 急性弛緩性麻痺症例および環境由来のウイルス分離株を用いて検証が行われている6)。nOPV2はSabin2と比べて遺伝的に安定であるものの, 伝播による変異と, 野外で流行しているエンテロウイルス属との組換えが生じた分離株が報告されている(https://www.science.org/content/article/first-polio-cases-linked-new-oral-vaccine-detected-africa)(図2下)。この組換えポリオウイルスはnOPV2作製のために施された弱毒化遺伝子領域をすべてを失っており, nOPV2由来のcVDPV2アウトブレイク発生が懸念されている。現在, nOPV2と同様の遺伝的な安定性を付与した新規1型および3型経口生ポリオワクチン(nOPV1およびnOPV3)の開発も進められている7)

国内5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)の承認について

2023年3月27日, 国内で初めて5種混合ワクチンの製造販売が承認された。5種混合ワクチンはこれまで国内で使用されてきた4種混合ワクチン(沈降精製百日せき・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオ)にインフルエンザ菌b型(Hib)が加わったワクチンである。初回免疫は生後2か月から可能で, 1回0.5mLずつ3回, いずれも20日以上の間隔で皮下または筋肉内に接種する。追加免疫は, 初回免疫後6カ月以上の間隔で0.5mLを1回皮下または筋肉内に接種することとなっている。なお, 本ワクチンに使用される不活化ポリオワクチンは弱毒ポリオウイルス(セービン株)由来となっている。

 

参考文献
  1. Blake IM, et al., N Engl J Med 379: 834-845, 2018
  2. acklin GR, et al., Science 68: 401-405, 2020
  3. Bandyopadhyay AS, et al., Lancet Infect Dis 23: e67-e71, 2023
  4. Yeh MT, et al., Cell Host Microbe 27: 736-751, 2020
  5. Konopka-Anstadt JK, et al., NPJ Vaccines 5: 26, 2020
  6. Martin J, et al., MMWR 71: 786-790, 2022
  7. Yeh MT, et al., Nature 619: 135-142, 2023
国立感染症研究所  
 ウイルス第二部  
  西村順裕    
 感染症疫学センター
  神谷 元

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