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真菌の薬剤感受性試験

(IASR Vol.45 p24-25: 2024年2月号)
 
はじめに

真菌の薬剤感受性試験は, 真菌症治療において抗真菌薬の選択や投与量を決定するうえで重要な検査の1つである。また近年, 多剤耐性のCandida aurisやアゾール耐性のAspergillus fumigatusなど, 各種抗真菌薬に対して耐性を示す真菌の増加にともない, 薬剤感受性試験の必要性が高まっている。現在, 国内では, 微量液体希釈法およびディスク拡散法, E-testが体外診断薬として認可を受けている。これらの試験法のうち, 国際的に推奨されている微量液体希釈法で試験が実施されることが多い。これまでに真菌の薬剤感受性試験の標準試験法は, 米国のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)が主導し, 制定されてきた。CLSIに追随しヨーロッパのThe European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)や日本医真菌学会などが独自の標準試験法を発表している。本稿ではグローバルスタンダードとして, わが国を含めて広く受け入れられているCLSIの標準試験法を中心に解説する。

酵母様真菌の薬剤感受性試験法

国内ではCLSI M27-A31)の微量液体希釈法に準拠した感受性キットとして, 「酵母様真菌FP‘栄研’」(栄研化学)と「酵母様真菌DP‘栄研’」(栄研化学)が市販されている。また, 菌の発育に応じて指示薬の色調が変化することを利用した「酵母真菌薬剤感受性キットASTY」(極東製薬工業)が市販されている。これらのキットではエキノキャンディン系のミカファンギン(MCFG)およびカスポファンギン(CPFG), ポリエン系のアムホテリシンB(AMPH-B), フッ化ピリミジン系のフルシトシン(5-FC), アゾール系のフルコナゾール(FLCZ)およびイトラコナゾール(ITCZ), ボリコナゾール(VRCZ), ミコナゾール(MCZ)の計7種の感受性試験が実施できる。CLSIでは酵母様真菌の微量液体希釈法の試験方法がM27シリーズに, 判定基準がM60シリーズに記載されており, 2024年1月現在では, それぞれの最新版は2017年に発表されたM27-Ed42)と2022年に発表されたM27M44S-Ed33)である。上述した国内で発売されている感受性キットは2008年に発表されたM27-A3に準拠しており, CLSIの最新版ではM27-A3から判定時間やブレイクポイントが大きく変更されており, 感性・耐性の判断基準が大きく異なることに注意が必要である。また, 酵母様真菌の薬剤感受性試験は, カンジダおよびクリプトコックスによる深在性真菌症に限り保険が適応される。

糸状菌の薬剤感受性試験法

国内では糸状菌に対応した微量液体希釈法の感受性キットは発売されていないため, 酵母様真菌用の感受性キットを流用し, 糸状菌の薬剤感受性試験が実施されている。CLSIでは糸状菌の微量液体希釈法の試験方法がM38シリーズに, 判定基準がM61シリーズに記載されている。2024年1月現在, M38シリーズの最新版はM38-Ed34)である。糸状菌のブレイクポイントについては2020年に発表されたM61-Ed25)A. fumigatusのVRCZのみが記載されている。糸状菌の薬剤感受性試験は, 酵母様真菌の薬剤感受性試験と比べて手技が煩雑であることや, 保険収載されていないことから, 試験を実施できる施設は限られる。

 

参考文献
  1. Rex JH, et al., Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts; Approved Standard-Third Edition, CLSI, 2008
  2. Alexander BD, et al., Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts, 4th Edition, CLSI, 2017
  3. Procop GW, et al., Performance Standards for Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts, 3rd Edition, CLSI, 2022
  4. Alexander BD, et al., Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Filamentous Fungi, 3rd Edition, CLSI, 2017
  5. Procop GW, et al., Performance Standards for Antifungal Susceptibility Testing of Filamentous Fungi, 2nd Edition, CLSI, 2020
国立感染症研究所真菌部
 村長保憲

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