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MRSAの多様性と侵襲性クローンについて

(IASR Vol. 45 p36-37: 2024年3月号)
 
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA)の遺伝学的分類

MRSAの遺伝学的分類法で主に用いられるのは, multi-locus sequence typing(MLST), staphylococcal cassette chromosome mec(SCCmec)typingおよびspa typingである。これらに病原因子や薬剤耐性因子を加えて菌株の遺伝学的特徴を表現する。SCCmecは現時点で15種類が国際ワーキンググループ(IWG-SCC)により認められている1)。日本の臨床検体から検出されるMRSAはSCCmecⅠ-Ⅴまでがほとんどである。

日本におけるMRSAクローンの変化

1990~2000年代にかけて医療関連感染の主因となったST5かつSCCmecⅡでtoxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)陽性のクローンは, 多様なクローンの一部として1980年代から存在していたことが明らかになっている2)。1990年代以後, MRSAの多くは院内にありST5かつSCCmecⅡで, 市中のMRSAは少ないがSCCmecⅣ等, と存在場所とクローンに関連がみられたが, 2010年代に入ると院内・市中ともに類似したクローンがみられるようになってきた。

日本国内のST8-MRSA

2000年代に米国の市中MRSAとして広く拡散したクローンのUSA300は, ST8, SCCmecⅣa, Panton-Valentine leukocidin(PVL)およびarginine catabolic mobile element(ACME)陽性という特徴を持ち, 重篤な皮膚軟部組織感染症や壊死性肺炎を起こすことで知られる。日本でも2010年代以後, USA300による感染症の報告が増え, 日本特有の変異クローンψUSA300も報告されている3,4)ψUSA300はccrB2の一部に脱失があり, 2000年代の文献に記載されたPCR法では検出できない場合がある。その他, 日本特有のUSA300クローンとしては, SCCmecⅣcとPVLを持ち, ACMEを持たないがcopper and mercury resistance mobile element(COMER)を持つという南米のUSA300の特徴を有するUSA300-LV/J, SCCmecⅣaでPVLを持つがACMEを持たないST6562クローンなどがある5,6)。すでに皮膚科外来で検出されるPVL陽性MRSAの9割以上がUSA300関連クローンであると報告されており, 今後外来での皮膚軟部組織感染症の診療に影響を与える可能性がある7)

日本のST8クローンには, USA300系統とは異なるCA-MRSA/Jクローンがあり, ST8-SCCmecⅣlでTSST-1陽性の特徴を持つ。CA-MRSA/Jによる皮膚軟部組織感染症の他, 血流感染症や骨盤膿瘍などの深部感染症が報告されている8,9)

その他の注目すべきMRSAクローン

2010年代に入り, 院内でST1かつSCCmecⅣでTSST-1陽性のMRSAが増加し, すでにST5かつSCCmecⅡのMRSAよりも多いことが報告されている10,11)。ST1かつSCCmecⅣであるがPVL陽性の米国のUSA400クローンとは異なる。

ST834, SCCmecⅣcでTSST-1を持つMRSAも報告されている12)。小児や若年者において皮膚軟部組織感染症やリンパ節炎をきたし, 深部感染症に進展する例がある。

ST22-PTと称される, ST22かつSCCmecⅣaでPVLとTSST-1の両方を持つMRSAも報告されている13,14)。PVLとTSST-1の両方を持つことが感染症の臨床像に与える影響については今後検証が必要である。

ST30, SCCmecⅣcでPVLを持つMRSAは1980年代にすでに国内に存在しており, 2000年代以後に増加が懸念された15)。しかし昨今はUSA300関連クローンの増加が優勢である。

おわりに

全ゲノム解析により様々な遺伝学的情報が得られるようになったが, 近年増加しているクローンの多くが皮膚軟部組織感染症, 菌血症や深部感染症の原因となるものの, 現段階ではクローン自体の病原性, 拡散能や定着能力との関連については不明なことも多い。臨床と基礎の両面から解明していく必要がある。

 

参考文献
  1. International Working Group on the Staphylococcal Cassette Chromosome elements, SCCmec
    https://www.sccmec.org/index.php/en/
  2. Zuo H, et al., Scientific Reports 11: 5447, 2011
  3. Takadama S, et al., Clin Microbiol Infect 24: 1211.e1-1211.e7, 2018
  4. Shinohara K, et al., Scientific Reports 13: 8322, 2023
  5. Takadama S, et al., J Antimicrob Chemother 75: 3131-3134, 2020
  6. Harada N, et al., IJID 8: 16-18, 2023
  7. Nakaminami H, et al., J Dermatol 47: 1280-1286, 2020
  8. Iwao Y, et al., J Infect Chemother 18: 228-240, 2012
  9. Kaku N, et al., J Antimicrob Chemother 77: 2130-2141, 2022
  10. Nakaminami H, et al., J Med Microbiol 67: 769-774, 2018
  11. Harada D, et al., J Infect Chemother 24: 563-569, 2018
  12. Uehara Y, et al., BMC Infect Dis 19: 35, 2019
  13. Yamaguchi T, et al., Microb Drug Resist 21: 441-447, 2015
  14. Uda K, et al., Jap J Infect Dis 73: 259-262, 2020
  15. Isobe H, et al., Biomed Res 33: 97-109, 2012
藤田医科大学医学部感染症科
 上原由紀

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