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MRSA薬剤耐性プロファイルの経年変化の特徴と全ゲノムシーケンス解析結果との関連について

(IASR Vol. 45 p40-42: 2024年3月号)
 

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の中でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant S. aureus: MRSA)は治療上有効な抗菌薬が限られるため, 2016年の世界保健機関(WHO)報告でも最重要薬剤耐性菌の1つとされている。以前は医療関連型MRSAが大部分であったが年々減少し, 1990年代より出現した市中獲得型MRSAが増加している。MRSAの動向を監視するうえで, 筆者は, 何種類かの抗菌薬に対する薬剤感受性結果を組み合わせた薬剤耐性プロファイル(多剤耐性表現型)に着目した。

厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)検査部門の包括的な全国薬剤耐性サーベイランスデータの分析を通じて, 黄色ブドウ球菌の薬剤耐性プロファイルの中で2011~2019年の9年間に統計学的に有意な変化を示したプロファイルを探索し, その遺伝的背景を黄色ブドウ球菌菌株コレクションの全ゲノムシーケンス解析結果を用いて分析した。

本研究において, 黄色ブドウ球菌におけるメチシリン耐性率は9年間に40.2%から35.1%に低下し, 6つの抗菌薬〔ゲンタマイシン(GEN), エリスロマイシン(ERY), クリンダマイシン(CLI), ミノサイクリン(MNO), レボフロキサシン(LVX), オキサシリン(OXA)〕を用いた薬剤耐性プロファイルの組み合わせの中で9年間に10%以上の増減を示したのは, 2種類〔6剤耐性株, および3剤(OXA, ERY, LVX)耐性株〕であった。そのうち, 6剤耐性株は減少した一方, 3剤耐性株は増加していた(図1)。

さらに, 3剤耐性株について都道府県別に2011年と2019年で比べたところ, 病院で分離される黄色ブドウ球菌に占める3剤耐性プロファイルの平均割合が1.7%から14.6%に増加した。地域別にみると, 2011年では静岡県の15.2%が1番高かったが, 2019年には上位3県(栃木県, 鳥取県, 山梨県)で30%を超えていた(図2)。

さらに2つの黄色ブドウ球菌菌株コレクション(1.広島大学病院での菌血症患者からの分離菌株67株, 2.日本の19都道府県から分離された代表的なクローンを網羅した183菌株)を用いて2種類の薬剤耐性プロファイルの遺伝的背景を分析した。その結果, ほとんどの3剤耐性株がCC8に属し, 市中獲得型MRSAに典型的な種類のstaphylococcal cassette chromosome(SCC)mecⅣをすべての株がゲノム上に保有していた(図3)。一方, 6剤耐性株はすべて医療関連型MRSAに典型的なSCCmecⅡを保有していた。

本研究において, 6剤耐性株の減少は医療関連型MRSAの減少を反映し, 3剤耐性株の増加は市中獲得型MRSAの増加を示していると考えられ, 薬剤耐性プロファイルの分析がMRSAの耐性動向の監視に役立つことが示された。

 
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター 
 保阪由美子 矢原耕史 久恒順三 菅井基行              
広島大学病院感染症科併任
広島大学大学院医系科学研究科外科学講座
 北川浩樹              
名古屋大学大学院医学系研究科分子病原細菌学講座    
 柴山恵吾              
WHO Collaborating Centre for    
Surveillance of Antimicrobial Resistance,
Brigham and Women’s Hospital    
 Adam Clark            
WHO Collaborating Centre for     
Surveillance of Antimicrobial Resistance,
Brigham and Women’s Hospital USA併任
Harvard Medical School       
 John Stelling

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