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2022年度風疹予防接種状況および抗体保有状況―2022年度感染症流行予測調査(暫定結果)

(IASR Vol. 45 p57-59: 2024年4月号)
 
はじめに

感染症流行予測調査事業における風疹抗体調査(感受性調査)は1971年度に開始されて以降, ほぼ毎年実施されてきた。本調査は風疹に対する感受性者を把握し, 効果的な予防接種施策を図るための資料にするとともに, 将来の流行を予測することを目的として, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況の調査を行っている。

感染症発生動向調査における風疹の届出患者数は, 2013年(14,344人)の流行以降, 2014~2017年までは減少傾向であったが, 2018年は2,941人, 2019年は2,298人が届出され, 2020年には101人, 2021年は12人, 2022年は15人(暫定値)に減少した1)。2018年, 2019年の流行では, 患者の多くは過去に風しん含有ワクチンの定期接種機会がなく, 風疹に対する抗体保有割合が低い成人男性であった。そのため, この年齢群の男性に対する対策として1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日に生まれた男性(2022年度43~60歳)を対象として, 2019~2021年度末までの期限付きで風しんの第5期定期接種に追加した2)。加えて, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにともなう受診控え等の影響による接種低迷を受けて, 第5期ワクチン定期接種を2024年度末(2025年3月末)まで延長することを2021年12月に決定した。

今回は, 2022年度調査における風しん含有ワクチン接種状況および抗体保有状況について報告する。

調査概要

2022年度調査は, 北海道, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 千葉県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 石川県, 長野県, 愛知県, 三重県, 滋賀県, 山口県, 高知県, 福岡県の16都道県で実施され, 対象者は4,144人(男性2,458人, 女性1,686人)であった。抗体価の測定は各都道県衛生研究所において, 各地域で主に7~9月に採取された血清を用いて, 赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition: HI)法により行われた。予防接種歴は採血時点における接種状況が報告された。

風しん含有ワクチン接種状況
図1

2022年度調査において, 1回以上接種者(1回・2回・回数不明を含む)の割合は, 1歳の男児で69%, 女児で64%, 2歳の男児で79%, 女児で78%であった。20歳以上群における接種割合は男性が21%(各年齢群の接種率: 0-30%), 女性が37%(0-59%)であり, 男性で低かった。風しん含有ワクチンの接種歴が不明であった者の割合は, 0~19歳では男性が6-35%, 女性が3-60%, 20歳以上群では男性が65-91%, 女性が40-90%であり, 20歳以上群では20歳未満群に比べ接種歴不明者が多い傾向にあった。第5期接種対象者を含む40~64歳の年齢群男性の1回以上接種者の割合は, 19.6%であった。本年度の調査では, 調査対象者数が10名未満となった年齢・年齢群が, 男性では0~5か月, 17歳, 女性では16歳, 17歳で認められている。調査数の少ない年齢では結果の解釈に注意が必要である。

風疹HI抗体保有状況

HI法で陽性と判定される抗体価1:8以上を有する者の割合は, 通常移行抗体の消失にともない乳児期前半~後半にかけて低下し, 定期接種対象年齢の1歳で上昇し, 2歳で95%を超える。本年度はCOVID-19の影響で調査自治体が減少した2020年度と比較すると調査数は以前に戻りつつあるが, 20歳未満では調査数の少ない年齢が多くみられ, 単年齢の抗体保有割合にバラツキが認められた。

2022年度調査における抗体価1:8以上の抗体保有割合は, 生後0~5か月で50%, 生後6~11か月で7%, 1歳で77%であった。2歳以上の年齢・年齢群では, おおむね90%以上であった。男女別に比較をすると, 女性では2~69歳の年齢・年齢群において, おおむね90%以上(80-100%)であった。男性では40~69歳の年齢群で90%を下回り, 40~44歳群で89%, 45~49歳群で87%, 50~54歳群で85%, 55~59歳群で87%と, 女性に比べて低かった(図2男性・女性)。

1962年4月2日~1979年4月1日生まれ(2022年度43~60歳)の者は, 女性のみが風疹の定期接種対象者となっていたことから, この年齢群の男性の風疹抗体保有割合が低い傾向がみられる(図2)。2013~2020年度調査では継続して80%前後で推移しており, 定期接種の機会があった1979~1989年度生まれの男性と比較して低かった。2021年度調査では抗体保有率の増加がみられたが, 女性と比較して低かった。2022年度調査においては抗体保有率が86%と前年度から2ポイント減少したが, 追加対策開始前の2018年度(81%)からは5ポイント増加し, 1979~1989年生まれの男性や同年代の女性との差は減少していることが確認された(図3)。近年, 本事業で献血血液を用いる自治体の割合が増加する傾向にあり, サンプリングバイアスの影響は不明である。

まとめ

2022年度調査では, 風疹の追加対策(第5期)対象者(2022年度43~60歳)の抗体保有割合は, 開始前と比較し増加が認められたが, 女性と比較して男性が低い傾向は残されたままであった。1962~1978年度生まれの男性を対象とした風疹の第5期定期接種が2024年度末まで延長されており, 本調査を継続して実施することでこの対策に対する効果を評価していくことが重要と考えられた。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 風疹に関する疫学情報: 2024年1月31日現在
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/2024/rubella240131.pdf
  2. 厚生労働省, 風疹追加対策について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index_00001.html
2022年度風疹感受性調査実施都道県  
北海道立衛生研究所 駒込理佳    
茨城県衛生研究所          
 絹川恵里奈 石川莉々子 阿部櫻子 
栃木県保健環境センター       
 渡邉裕子 青木 均 永木英徳   
群馬県衛生環境研究所 中澤景子   
千葉県衛生研究所 竹内美夏 吉住秀隆
東京都健康安全研究センター     
 糟谷 文 長谷川道弥 長島真美  
神奈川県衛生研究所         
 鈴木理恵子 櫻木淳一       
新潟県保健環境科学研究所      
 田澤 崇 加藤美和子 昆 美也子 
石川県保健環境センター       
 小橋奈緒 倉本早苗        
長野県環境保全研究所        
 加茂奈緒子 和田由美       
愛知県衛生研究所          
 齋藤典子 諏訪優希        
三重県保健環境研究所 矢野拓弥   
滋賀県衛生科学センター       
 河原 晶 青木佳代        
山口県環境保健センター 川﨑加奈子 
高知県衛生環境研究所        
 河村有香 松本一繁        
福岡県保健環境研究所        
 濱崎光宏 金藤有里        
国立感染症研究所          
 ウイルス第三部          
  森 嘉生 坂田真史 竹田 誠 長谷川秀樹 梁 明秀      
 感染症疫学センター        
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