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我が国におけるすべての死因を含む超過死亡数および過少死亡数 (2020年11月までのデータ分析)

掲載日:2021年3月5日

※結果をご覧いただく際の注意事項

本報告(2020年11月までのデータ分析)から、すべての死因を含む超過死亡数に加えて、過少死亡数を提供いたします。前回報告時点で(2020年10月までのデータ分析)、日本の2020年の超過死亡数は例年と同等であり、一方で死亡数の減少も見込まれています[1]。過少死亡数を算出することで、新型コロナウイルス対策等による正の影響の評価に役立ちます。詳細の死因を考慮した分析は、別途公表いたします。

本報告は、日本国内での新型コロナウイルスの影響に関しての「データに基づく開かれた議論」に貢献することを主眼としています。開かれた議論の担保のため、データおよび解析用のプログラムコードは全て公開されています(補足資料)。本報告において超過および過少死亡数は、「過去のデータをもとに統計モデルから予測された死亡数」と「実際に観測された死亡数」の差として定義されています。統計モデルとデータ解析の説明については、これまでのすべての死因を含む超過死亡数の報告における解説 およびQ&A もご参照ください。加えて、超過および過少死亡は新型コロナウイルス問題が顕在化した 2020 年1月下旬以降だけではなく、過去の時点でも確認されています。過去との比較目的で、本分析では最近2017年以降の毎年毎月の超過および過少死亡数も報告いたします。

要約

2012年–2020年の人口動態統計データを用いて、日本における新型コロナウイルス感染症流行期における2020年1月から11月29日における超過および過少死亡数を、週別、都道府県別に算出しました。米国疾病予防管理センター(CDC)の用いるFarringtonアルゴリズムを用いて推定を行なっています。前回報告まで超過死亡数の算出には欧州死亡率モニター(EuroMOMO)の用いるEuroMOMOアルゴリズムでも同様の評価を行って参りましたが、こちらは過少死亡数の算出にそのまま適用することが想定されていないため、本報告からはFarringtonアルゴリズムのみを使用します(超過死亡数においてこれまで両アルゴリズムからの算出結果に特筆すべき差異は生じておりません)。11月中、予測死亡数の95%片側予測区間(上限)を超える観測死亡数、または95%片側予測区間(下限)を下回る観測死亡数が認められた県は次になります。カッコ内は11月中の超過および過少死亡数の積算値です(算出は週単位で行われており、ある週で超過死亡と過少死亡が同時に発生することはありませんが、週の積算を月の値とする都合、月単位で見ると超過死亡と過少死亡どちらも発生するケースがあります)。

  • 超過死亡:山梨県(10–53);大阪府(14–198);埼玉県(48–179);長野県(5–84)
  • 過少死亡:奈良県(12–45);長野県(21–63);愛媛県(23–97);千葉県(26–154);神奈川県(30–136);広島県(35–157);茨城県(3–105);鳥取県(4–38);沖縄県(5–34);山口県(5–83);静岡県(63–134);徳島県(6–49);秋田県(6–78);三重県(6–83);香川県(7–50);埼玉県(8–133);群馬県(8–88);東京都(99–248)

11月中の47都道府県(全国)の超過および過少死亡数の積算は、それぞれ 77–1954人、367–3035人でした。

前回報告の繰り返しになりますが、2020年11月時点でも日本のすべての死因を含む超過死亡数は、おおよそ同時期の米国およびヨーロッパにおけるそれよりも相対的に小さい可能性があります。一方で、同時点の過少死亡数は例年より大きく、新型コロナウイルス対策等で例年以上の感染症対策や健康管理が行われている状況の中、それらの正の影響が考えられますが、季節性インフルエンザの流行状況の影響等、2020年の過少死亡数が偶然起こりうる範囲のものかどうかも含め、今後死因別の詳細なデータ解析が必要になります。

出典
  1. Karlinsky A, Kobak D. The World Mortality Dataset: Tracking excess mortality across countries during the COVID-19 pandemic. medRxiv [Preprint]. 2021 Jan 29:2021.01.27.21250604. doi: 10.1101/2021.01.27.21250604

1. 超過・過少死亡数の算出法

本稿における超過および過少死亡数 は、例年の死亡数をもとに推定される死亡数(予測死亡数)と実際の死亡数(観測死亡数)の差として定義されます。本報告では、特定の集団における2020年1月以降(感染研疫学週における2020年第1週[2019年12月30日–2020年1月5日]から第48週[2020年11月23日–29日]まで)に、例年の死亡数をもとに推定される死亡数(予測死亡数の点推定)[閾値1]およびその95%片側予測区間(上限・下限)[閾値2]と実際の死亡数(観測死亡数)との差のレンジを提示しています。

例えば、例年の死亡数をもとにした死亡数の推定結果が「点推定値100人、95%片側予測区間(上限)125人」であったとき、実際の死亡数が「130人」であれば、超過死亡数のレンジは「5-30人」と提示されます(尚、実際の死亡数が点推定値を下回る場合には超過死亡数は0人とされます)。また、推定結果が「点推定値155人、95%片側予測区間(下限)140人」であったとき、実際の死亡数が「130人」であれば、過少死亡数のレンジは「10-25人」と提示されます(実際の死亡数が点推定値を上回る場合には過少死亡数は0人とされます)。

推定方法は米国疾病予防管理センター(CDC)の用いるFarringtonアルゴリズムを用いました(詳しくは7月報告分を参照)。分析には2012年から2018年の人口動態統計の数値を利用しました。今回の報告では2020年11月分までのデータを利用しています。詳細の方法論及び、速報データの補正に関しては、前回報告を参照下さい。Rコードを補足資料1として掲載します。本分析に使用された都道府県別の週別の死亡者数、および速報の補正済みデータは、補足資料2を参照下さい。

2. 結果

Farringtonアルゴリズム

11月中、予測死亡数の95%片側予測区間(上限)を超える観測死亡数、または95%片側予測区間(下限)を下回る観測死亡数が認められた県は次になります。カッコ内は11月中の超過および過少死亡数の積算値です。

  • 超過死亡:山梨県(10–53);大阪府(14–198);埼玉県(48–179);長野県(5–84)
  • 過少死亡:奈良県(12–45);長野県(21–63);愛媛県(23–97);千葉県(26–154);神奈川県(30–136);広島県(35–157);茨城県(3–105);鳥取県(4–38);沖縄県(5–34);山口県(5–83);静岡県(63–134);徳島県(6–49);秋田県(6–78);三重県(6–83);香川県(7–50);埼玉県(8–133);群馬県(8–88);東京都(99–248)

11月中の47都道府県(全国)の超過および過少死亡数の積算は、それぞれ 77–1954人、367–3035人でした。

過去を含む11月中の都道府県別の超過および過少死亡数は表を参照下さい。週別の超過死亡数は別添図1を参照下さい。また、11月以前の過去の毎月の都道府県別の超過および過少死亡数は補足資料3を参照下さい

図の週別の予測死亡数の点推定値およびその95%片側予測区間(上限・下限)は、補足資料4を参照下さい。表の11月中の全国の積算超過・過少死亡数と、図の全国の11月中の超過・過少死亡数の積算値は一致しません:前者は47都道府県別の超過・過少死亡数の積算を全国の超過・過少死亡数としているのに対し、後者は47都道府県別の観測死亡数、予測死亡数の点推定、その95%片側予測区間を毎週ごとに積算した上で、超過および過少死亡数の算出をしているためです。

表:2020年11月(2020年11月23日–29日)の超過および過少死亡数。過去についてはそれぞれ2019年11月4日から12月1日(2019年)、2018年11月5日から2018年12月2日(2018年)、2017年11月6日から12月3日(2017年)。
都道府県超過2020過少2020超過2019過少2019超過2018過少2018超過2017過少2017
北海道 0-139 0-11 0-69 0-9 0-62 0-43 0-21 26-129
青森県 0-21 0-31 2-42 0-14 0-17 0-56 0-17 26-62
岩手県 0-25 0-38 14-113 0-0 0-52 6-69 0-0 20-101
宮城県 0-0 0-58 0-43 0-30 0-0 0-86 0-52 27-69
秋田県 0-10 6-78 0-55 0-8 0-0 0-31 16-51 0-55
山形県 0-31 0-0 0-38 1-31 0-0 4-82 0-37 0-49
福島県 0-78 0-38 0-12 0-38 0-0 0-86 4-70 0-16
茨城県 0-37 3-105 0-0 0-124 0-10 0-78 11-99 0-27
栃木県 0-0 0-90 0-33 0-90 0-0 0-65 0-41 0-6
群馬県 0-0 8-88 0-3 25-151 0-22 0-74 0-83 0-0
埼玉県 48-179 8-133 0-43 0-94 0-0 6-150 0-14 0-37
千葉県 0-15 26-154 0-92 0-46 0-0 0-155 0-69 0-0
東京都 0-280 99-248 0-0 10-348 0-0 45-372 0-50 0-210
神奈川県 0-132 30-136 0-2 0-156 0-0 15-244 0-89 0-71
新潟県 0-17 0-45 0-74 0-25 5-52 12-94 0-48 5-48
富山県 0-0 0-59 0-19 20-77 0-2 5-50 1-85 0-0
石川県 0-27 0-32 2-50 0-24 0-5 0-38 19-65 0-14
福井県 0-49 0-7 2-32 0-10 0-0 6-71 0-30 0-0
山梨県 10-53 0-30 0-50 0-0 21-45 0-24 0-18 0-6
長野県 5-84 21-63 7-103 0-28 0-12 0-55 0-11 0-33
岐阜県 0-33 0-35 0-50 0-0 0-7 0-24 0-38 0-6
静岡県 0-90 63-134 0-2 0-60 0-33 0-84 0-40 0-11
愛知県 0-95 0-69 0-41 0-25 0-0 0-182 0-138 0-0
三重県 0-36 6-83 0-20 0-24 0-0 0-53 0-25 0-0
滋賀県 0-5 0-45 0-53 0-17 0-10 16-75 8-60 0-0
京都府 0-2 0-84 20-118 0-34 0-11 0-54 0-10 0-9
大阪府 14-198 0-12 0-94 0-22 0-10 45-239 0-114 0-32
兵庫県 0-45 0-58 0-65 0-0 0-15 0-154 0-124 0-12
奈良県 0-7 12-45 0-2 0-6 0-34 0-12 0-43 0-19
和歌山県 0-19 0-19 4-52 0-0 0-18 7-50 0-18 0-43
鳥取県 0-10 4-38 1-21 0-17 0-31 0-10 0-16 0-30
島根県 0-6 0-29 0-21 0-9 0-13 7-49 3-32 0-19
岡山県 0-12 0-71 7-66 15-58 0-45 0-24 0-9 0-28
広島県 0-7 35-157 0-17 0-84 0-0 0-92 29-122 0-2
山口県 0-0 5-83 11-83 0-2 0-17 4-82 9-96 0-22
徳島県 0-24 6-49 0-32 0-0 0-4 0-14 0-35 0-12
香川県 0-14 7-50 0-44 0-6 0-0 0-40 0-14 0-28
愛媛県 0-45 23-97 0-55 0-13 0-0 8-125 0-85 0-9
高知県 0-24 0-28 3-32 5-50 0-0 0-28 0-24 0-16
福岡県 0-0 0-156 0-80 0-50 0-74 0-104 0-75 0-26
佐賀県 0-1 0-23 0-0 11-67 0-4 0-17 0-26 0-10
長崎県 0-10 0-37 0-12 0-26 0-3 0-44 4-91 0-9
熊本県 0-0 0-50 0-65 0-16 0-21 0-65 0-67 0-13
大分県 0-23 0-40 6-97 0-0 0-0 1-87 0-16 0-7
宮崎県 0-22 0-11 0-69 0-13 0-1 12-47 0-0 0-33
鹿児島県 0-35 0-54 0-45 0-0 0-20 0-15 0-29 0-27
沖縄県 0-14 5-34 0-28 0-6 0-7 0-68 0-3 0-21
全国 77-1954 367-3035 79-2137 87-1908 26-657 199-3761 104-2300 104-1377

※表のレンジは、「95%片側予測区間(上限・下限)と観測死亡数の差分」〜「予測死亡数の点推定と観測死亡数の差分」を指します。後者の数については、毎週の死亡者数の偶然の変動(ばらつき)によるものも多く含まれてしまっていることには注意が必要です。実際、図1を見ると、点推定値と観測死亡数の差分がゼロを超える週(またはゼロを下回る週)は、期間中のみならず過去の多くの時点に存在しています。

3. 超過・過少死亡数の解釈

本報告は、すべての死因を含む超過および過少死亡数を提供します。すべての死因を含むため、観察された超過死亡数は新型コロナウイルス感染症を直接の原因とする死亡数の総和ではありません。一般的にすべての死因を含む超過死亡数は主に以下の内訳等の死亡数の総和と解釈できます。

  • 新型コロナウイルス感染症を直接の死因と診断され、実際に新型コロナウイルス感染症を原因とする死亡。
  • 新型コロナウイルス感染症を直接の死因と診断されたが、実際には新型コロナウイルス感染症を原因としない死亡(例えば、実際の死因はインフルエンザだが、新型コロナウイルス感染症が死因と診断された死亡。ただ新型コロナウイルス感染症の診断がPCR検査に基づく現状では、ほぼ該当例はないと考えられる)。
  • 新型コロナウイルス感染症が直接の死因と診断されなかったが(他の病因を直接の死因と診断された)、実際には新型コロナウイルス感染症を原因とする死亡。
  • 新型コロナウイルス感染症が直接の死因ではないが、感染症流行による間接的な影響を受け、他の疾患を原因とした死亡(例えば、病院不受診や生活習慣の変化に伴う持病の悪化による死亡)。
  • 新型コロナウイルス感染症が直接の死因でなく、また新型コロナウイルス感染症流行による間接的な影響を受けたものでもない死亡(2017-2019年の超過死亡数はこれらの死亡を反映したものである)。

観測された過少死亡数は、主に以下の内訳等の死亡数の減少分の総和と解釈できます。

  • 新型コロナウイルス感染症流行に伴う例年以上の感染症対策や健康管理の実施に起因する死亡数減少。
  • 新型コロナウイルス感染症流行に伴う例年以上の感染症対策や健康管理の実施に起因しない死亡数減少(季節性インフルエンザの流行状況の影響や気候要因等の偶然的要因による死亡数減少など)。

4.  補足資料

  • 補足資料1:FarringtonアルゴリズムのRコード
  • 補足資料2a–b:2010年からの都道府県別の週別の死亡者数(速報値については補正あり(a)・なし(b)両方)
  • 補足資料3:月別の超過死亡数(補正あり):毎月の始まりと終わりの日付は感染研疫学週を参照
  • 補足資料4:図1の実数値。2017年からの都道府県別と全国の週別の予測死亡数の点推定値およびその95%片側予測区間(上限・下限)

5. 研究班構成員

「新型コロナウイルス感染症等の感染症サーベイランス体制の抜本的拡充に向けた人材育成と感染症疫学的手法の開発研究」(厚生労働科学研究令和2年度)

国立感染症研究所 感染症疫学センター 鈴木 基
国立感染症研究所 感染症疫学センター 砂川 富正
国立感染症研究所 感染症疫学センター 高橋 琢理
国立感染症研究所 感染症疫学センター 土橋 酉紀
国立感染症研究所 感染症疫学センター 小林 祐介
国立感染症研究所 感染症疫学センター 有馬 雄三
国立感染症研究所 感染症疫学センター 加納 和彦
東京大学大学院 医学系研究科国際保健政策学 橋爪 真弘
慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 野村 周平
聖路加国際大学大学院 公衆衛生学研究科 米岡 大輔
早稲田大学 ビジネスファイナンス研究センター 田上 悠太
東京工業大学 情報理工学院 川島 孝行
長崎大学 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 Chris Fook Sheng Ng
千葉大学 予防医学センター 江口 哲史
国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 瓜生 真也
東京大学大学院 医学系研究科機能生物学専攻 史  蕭逸
理化学研究所 環境資源科学研究センター 河村 優美
株式会社ホクソエム 牧山 幸史
株式会社ホクソエム 松浦 健太郎
慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 宮田 裕章
国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部 小野塚大介
東京大学大学院 医学系研究科国際環境保健学 Yoonhee Kim
国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター 林  岳彦

6. すべての死因を含む超過・過少死亡数の算出に関するQ&A

すべての死因を含む超過・過少死亡数の算出に関するQ&A(2020年3月5日時点版)


過去の報告

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan