我が国における超過死亡の推定
(2020年5月までのデータ分析)
掲載日:2020年8月31日
※結果をご覧いただく際の注意事項
8月現在の本分析(2020年5月までのデータ分析)では、超過死亡はすべての死因を含むため、今回観察された超過死亡は新型コロナウイルスを直接の原因とする死亡の総和ではありません。外出自粛等に伴う病院不受診や生活習慣の変化に伴う持病の悪化による死亡(増加分)、さらには例年より減少している可能性があるとされる交通事故死(減少による相殺分)など、新型コロナウイルスの感染拡大による間接的な影響も含まれています。これら死因を考慮し、直接と間接を明確にした分析は、データが入手出来次第行って参ります。
要約
2012年–2020年の人口動態統計データを用いて、日本における新型コロナウイルス感染症流行期における2020年1月から5月31日における超過死亡を週別、都道府県別に推定した。前回報告同様、米国疾病予防管理センター(CDC)の用いるFarringtonアルゴリズム、および欧州死亡率モニター(EuroMOMO)の用いるEuroMOMOアルゴリズムを用いた。期間中、予測死亡数の95%片側予測区間(上限)を超える観測死亡数が認められた週は、両アルゴリズムで12都府県、片方で2県において検出された。各県の期間中の毎週の超過死亡の積算値は次の通り:
- Farringtonアルゴリズム:茨城(1–87人)、栃木(13–137人)、群馬(31–146人)、埼玉(14–334人)、千葉(51–253人)、東京(32–330人)、富山(18–120人)、静岡(2–109人)、愛知(7–214人)、大阪(6–277人)、奈良(21–107人)、徳島(4–71人)、香川(8–135人)
- EuroMOMOアルゴリズム:茨城(12–182人)、栃木(22–186人)、群馬(37–213人)、埼玉(34–537人)、千葉(51–379人)、東京(72–687人)、富山(10–128人)、静岡(18–317人)、愛知(13–333人)、大阪(18–404人)、奈良(20–134人)、徳島(4–85人)、福岡(2–180人)
メインの推定モデルのパラメータ値に変化を与えた感度分析の結果では、その設定によっては、Farringtonアルゴリズムでは滋賀、島根、高知、福岡、熊本、大分、宮崎で、EuroMOMOアルゴリズムでは香川でも、期間中に予測死亡数の95%片側予測区間(上限)を超える観測死亡数が認められた週が検出される場合もあった。
なお、前回報告では、予測死亡数の95%片側予測区間(上限)と観測死亡数の差分を超過死亡として報告したが(上記’XX-YY人’のXX値)、今回報告では、さらに予測死亡数の点推定値と観測死亡数の差分(YY値)も加えて、それぞれの差分のレンジを超過死亡として報告する。実際の超過死亡はこの範囲内に含まれると解釈できる。ただ後者(YY値)については、毎週の死亡者数の偶然の変動(ばらつき)も含まれてしまっていることには注意が必要である(実際、点推定値と観測死亡数の差分がゼロを超える週は、期間中のみならず過去の多くの時点に存在する)。加えて、今回5月分の速報データを加えたことで、速報補正係数が更新、またモデル係数も再推定されたため、ある期間中における超過死亡は、前回報告分の結果と必ずしも一致しません。
1. 超過死亡推定法
本稿における新型コロナウイルス感染症流行期における超過死亡は、特定の集団における2020年1月以降(感染研疫学週における2020年第1週[2019年12月30日–2020年1月5日]から第22週[2020年5月25日–31日]まで)に、例年の死亡数をもとに推定される死亡数(予測死亡数の点推定)[閾値1]およびその95%片側予測区間(上限)[閾値2]と実際の死亡数(観測死亡数)との差のレンジで提示する。ここで、「死亡数」が指すのは全ての死亡であり、新型コロナウイルス感染症を直接の原因とする死亡のみならず、様々な間接的な疾患に起因する死亡の増減分も含まれている。
推定方法は米国疾病予防管理センター(CDC)の用いるFarringtonアルゴリズム、および欧州死亡率モニター(EuroMOMO)の用いるEuroMOMOアルゴリズムを用いた。分析には2012年から2018年の人口動態統計の確定数、2019年は概数、2020年1月分以降は速報を利用した。今回の報告では2020年5月分までのデータを利用する。詳細の方法論及び、速報データの補正に関しては、前回報告を参照。今回報告では、結果図に予測死亡数の点推定値と観測死亡数の差分も加える修正を行なったため、両アルゴリズムの修正Rコードを補足資料1–2として掲載する。本分析に使用された都道府県別の週別の死亡者数、および速報の補正済みデータは、補足資料3を参照。
2. 結果
Farringtonアルゴリズム
期間中(2020年1-5月)、予測死亡数の95%片側予測区間(上限)を超える観測死亡数が認められた週は、13都府県において検出された。各県の期間中の毎週の超過死亡の積算値は次の通り:
- 茨城(1–87人)、栃木(13–137人)、群馬(31–146人)、埼玉(14–334人)、千葉(51–253人)、東京(32–330人)、富山(18–120人)、静岡(2–109人)、愛知(7–214人)、大阪(6–277人)、奈良(21–107人)、徳島(4–71人)、香川(8–135人)
都道府県別の超過死亡数は表1参照。週別の超過死亡は別添図1(補正あり)、図2(補正なし)を参照。
感度分析の結果では、パラメーター値の設定によっては、滋賀、島根、高知、福岡、熊本、大分、宮崎でも、期間中に予測死亡数の95%片側予測区間(上限)を超える観測死亡数が認められた週が検出される場合もあった。
EuroMOMOアルゴリズム
期間中(2020年1-5月)、予測死亡数の95%片側予測区間(上限)を超える観測死亡数が認められた週は、13都府県において検出された。各県の期間中の毎週の超過死亡の積算値は次の通り:
- 茨城(12–182人)、栃木(22–186人)、群馬(37–213人)、埼玉(34–537人)、千葉(51–379人)、東京(72–687人)、富山(10–128人)、静岡(18–317人)、愛知(13–333人)、大阪(18–404人)、奈良(20–134人)、徳島(4–85人)、福岡(2–180人)
都道府県別の超過死亡数は表1参照。週別の超過死亡は別添図3(補正あり)、図4(補正なし)を参照。
感度分析の結果では、パラメーター値の設定によっては、香川でも、期間中に予測死亡数の95%片側予測区間(上限)を超える観測死亡数が認められた週が検出される場合もあった。
表1:2020年1月から5月31日までのFarringtonアルゴリズムおよびEuroMOMOアルゴリズムに基づく推定超過死亡
Farringtonアルゴリズム | EuroMOMOアルゴリズム | |||
都道府県 | 補正あり | 補正なし | 補正あり | 補正なし |
北海道 | 0-115 | 0-80 | 0-173 | 0-132 |
青森 | 0-36 | 0-35 | 0-71 | 0-65 |
岩手 | 0-81 | 0-77 | 0-95 | 0-91 |
宮城 | 0-57 | 0-46 | 0-98 | 0-82 |
秋田 | 0-72 | 0-67 | 0-90 | 0-84 |
山形 | 0-49 | 0-46 | 0-67 | 0-63 |
福島 | 0-34 | 0-24 | 0-40 | 0-28 |
茨城 | 1-87 | 0-78 | 12-182 | 8-167 |
栃木 | 13-137 | 10-131 | 22-186 | 19-178 |
群馬 | 31-146 | 28-130 | 37-213 | 34-196 |
埼玉 | 14-334 | 0-302 | 34-537 | 17-485 |
千葉 | 51-253 | 48-240 | 51-379 | 48-333 |
東京 | 32-330 | 18-237 | 72-687 | 58-495 |
神奈川 | 0-89 | 0-57 | 0-175 | 0-143 |
新潟 | 0-0 | 0-0 | 0-42 | 0-35 |
富山 | 18-120 | 15-112 | 10-128 | 9-120 |
石川 | 0-33 | 0-32 | 0-44 | 0-41 |
福井 | 0-47 | 0-38 | 0-51 | 0-44 |
山梨 | 0-60 | 0-52 | 0-78 | 0-68 |
長野 | 0-29 | 0-22 | 0-45 | 0-35 |
岐阜 | 0-31 | 0-29 | 0-48 | 0-46 |
静岡 | 2-109 | 0-90 | 18-317 | 3-253 |
愛知 | 7-214 | 0-190 | 13-333 | 2-300 |
三重 | 0-57 | 0-51 | 0-71 | 0-64 |
滋賀 | 0-65 | 0-59 | 0-78 | 0-72 |
京都 | 0-84 | 0-77 | 0-113 | 0-104 |
大阪 | 6-277 | 0-242 | 18-404 | 1-369 |
兵庫 | 0-69 | 0-32 | 0-99 | 0-58 |
奈良 | 21-107 | 16-99 | 20-134 | 15-120 |
和歌山 | 0-66 | 0-60 | 0-103 | 0-97 |
鳥取 | 0-44 | 0-39 | 0-39 | 0-34 |
島根 | 0-73 | 0-67 | 0-75 | 0-69 |
岡山 | 0-75 | 0-65 | 0-79 | 0-70 |
広島 | 0-45 | 0-39 | 0-65 | 0-59 |
山口 | 0-50 | 0-48 | 0-73 | 0-68 |
徳島 | 4-71 | 4-67 | 4-85 | 4-81 |
香川 | 8-135 | 6-130 | 0-139 | 0-134 |
愛媛 | 0-50 | 0-46 | 0-57 | 0-53 |
高知 | 0-58 | 0-55 | 0-84 | 0-81 |
福岡 | 0-77 | 0-69 | 2-180 | 0-165 |
佐賀 | 0-53 | 0-48 | 0-85 | 0-80 |
長崎 | 0-85 | 0-78 | 0-135 | 0-127 |
熊本 | 0-43 | 0-38 | 0-54 | 0-49 |
大分 | 0-52 | 0-48 | 0-74 | 0-70 |
宮崎 | 0-120 | 0-102 | 0-117 | 0-100 |
鹿児島 | 0-59 | 0-45 | 0-69 | 0-54 |
沖縄 | 0-44 | 0-42 | 0-56 | 0-53 |
全国 | 208-4322 | 145-3761 | 313-6547 | 218-5715 |
※表のレンジは、「95%片側予測区間(上限)と観測死亡数の差分」〜「予測死亡数の点推定と観測死亡数の差分」を指す。後者については、毎週の死亡者数の偶然の変動(ばらつき)も含まれてしまっていることには注意が必要である。実際、図1–4を見ると、点推定値と観測死亡数の差分がゼロを超える週は、期間中のみならず過去の多くの時点に存在している。表の値は両アルゴリズムで推定された2020年1月から5月31日までの週別の超過死亡の積算であり、観測値が閾値を超えていない場合はゼロとしてカウントしている。同様に、全国の超過死亡推定値は、各都道府県の推定値を積算している。
図1–4の週別の予測死亡数の点推定値およびその95%片側予測区間(上限)は、補足資料4を参照。表1の期間中の全国の積算超過死亡と、図1–4の全国の期間中の超過死亡の積算値は一致しない:前者は47都道府県別の超過死亡の積算を全国の超過死亡としているのに対し、後者は47都道府県別の観測死亡数、予測死亡数の点推定、その95%片側予測区間を毎週ごとに積算した上で、超過死亡の算出をしているためである。また、FarringtonアルゴリズムおよびEuroMOMOアルゴリズムの感度分析の結果はそれぞれ補足資料5、6を参照。
3. 超過死亡の解釈
8月現在の本分析(2020年5月までのデータ分析)では、超過死亡はすべての死因を含むため、今回観察された超過死亡は新型コロナウイルスを直接の原因とする死亡の総和ではない。主に以下の内訳等の死亡の総和と解釈できる。
1)新型コロナウイルス感染症を直接死因と診断され、(実際に)新型コロナウイルス感染症を原因とする死亡
2)新型コロナウイルス感染症を直接死因と診断され、(実際には)新型コロナウイルス感染症を原因としない死亡(例えば、実際の死因はインフルエンザだが、新型コロナウイルス感染症が死因と診断された死亡。新型コロナウイルス感染症の診断がPCR検査に基づく現状では、ほぼ該当例はないと考えられる。)
3)新型コロナウイルス感染症を直接死因と診断されず(他の病因を直接死因と診断された)、(実際には)新型コロナウイルス感染症を原因とする死亡
4)新型コロナウイルス感染症を直接死因と診断されず、(新型コロナ流行による間接的な影響で)他の疾患を原因とする死亡(例えば、病院不受診や生活習慣の変化に伴う持病の悪化による死亡)
一方で、同時期に新型コロナウイルス感染症以外を原因とする死亡(例えば、交通事故死、自殺、インフルエンザ等他の感染症による死亡)が過去の同時期より減少した場合、新型コロナウイルス感染症を直接死因とする超過死亡を相殺することがあり得る。
4. 補足資料
補足資料3:2010年からの都道府県別の週別の死亡者数(速報値については補正あり・なし両方)。
補足資料4a-d:a-dそれぞれ図1–4の実数値。2017年からの都道府県別と全国の週別の予測死亡数の点推定値およびその95%片側予測区間(上限)。
補足資料6:EuroMOMOアルゴリズムの感度分析結果(2020年1月から5月31日までのEuroMOMOアルゴリズムに基づく推定超過)(補正あり):(a) 自由度=2; (b) 自由度=3。
5. 超過死亡の推定に関するQ&A
6. 研究班構成員
「新型コロナウイルス感染症等の感染症サーベイランス体制の抜本的拡充に向けた人材育成と感染症疫学的手法の開発研究」(厚生労働科学研究令和2年度)
国立感染症研究所 感染症疫学センター | 鈴木 基 |
国立感染症研究所 感染症疫学センター | 砂川 富正 |
国立感染症研究所 感染症疫学センター | 高橋 琢理 |
国立感染症研究所 感染症疫学センター | 土橋 酉紀 |
国立感染症研究所 感染症疫学センター | 小林 祐介 |
国立感染症研究所 感染症疫学センター | 有馬 雄三 |
国立感染症研究所 感染症疫学センター | 加納 和彦 |
東京大学大学院 医学系研究科国際保健政策学 | 橋爪 真弘 |
慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 | 野村 周平 |
聖路加国際大学大学院 公衆衛生学研究科 | 米岡 大輔 |
長崎大学 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 | Chris Fook Sheng Ng |
慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 | 宮田 裕章 |
早稲田大学 ビジネスファイナンス研究センター | 田上 悠太 |
東京工業大学 情報理工学院 | 川島 孝行 |
千葉大学 予防医学センター | 江口 哲史 |
国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター | 瓜生 真也 |
東京大学大学院 医学系研究科機能薬理学講座 | 史 蕭逸 |
理化学研究所 環境資源科学研究センター | 河村 優美 |
株式会社ホクソエム | 牧山 幸史 |
株式会社ホクソエム | 松浦 健太郎 |