超過死亡の推定に関するQ&A(2020年8月31日時点版)
- なぜFarringtonアルゴリズムとEuroMOMOアルゴリズムの2つのモデルを使うのですか。
- 新型コロナウイルス感染症による超過死亡の推定について、ゴールドスタンダードと呼べる方法は未だありません。例えばこれまで、米国疾病予防管理センター(CDC)では様々な疾病のアウトブレイク検出法として広く用いられているFarringtonアルゴリズムが、欧州死亡率モニター(EuroMOMO)では季節性インフルエンザに関連する超過死亡の検出と測定を目的としたEuroMOMOアルゴリズムが、それぞれ新型コロナウイルス感染症による超過死亡の推定に用いられてきました。妥当性の点で両アルゴリズムに優劣は存在せず、従って本分析では両者を選択しました。
- なぜFarringtonアルゴリズムとEuroMOMOアルゴリズムの2つのモデルで結果が違うのですか。どちらが正しいのですか。
- それぞれのモデル式をご覧いただけるとわかる通り、過去の観測死亡数から予測死亡数を推定する方法、またその不確かさの尺度評価の方法がそれぞれ異なるため、結果が完全に一致することは基本的にありません。両アルゴリズムとも確立された方法論であり、結果の妥当性に優劣はありませんが、Farringtonアルゴリズムでは比較的に超過死亡が検出されにくく、一方でEuroMOMOアルゴリズムでは超過死亡が検出されやすい傾向が認められました。現在の日本においては、両者の結果の間に真の超過死亡数があるだろうと考えています。
- なぜ死亡票の速報データは補正をするのですか。
- 速報データは死亡の届出遅れ等に伴い、実際の死亡数とは異なる可能性があります(後日に公表される確定数あるいは概数より速報データの死亡数が少ない)。例えば、1月に亡くなった方の死亡票データが、2月や3月の速報データに含まれる場合があります。本分析では、遅延を3ヶ月分まで考慮し、都道府県別に遅延割合を算出した上で、速報データの最新3ヶ月分に対しては補正を行っています。
- 新型コロナウイルスにより亡くなられた方が既に報告されている県で、超過死亡がゼロとなっているのはなぜですか。
- 8月現在の本分析(2020年5月までのデータ分析)では、超過死亡はすべての死因を含むため、今回観察された超過死亡は新型コロナウイルスを直接の原因とする死亡の総和ではありません。主に以下の内訳等の死亡の総和と解釈できます。(1)新型コロナウイルス感染症が(直接的)原因で亡くなった方、 (2)他の病気で亡くなったと診断されたが、(実際には)新型コロナウイルス感染症が原因で亡くなった方、(3)新型コロナウイルス流行による間接的な影響で、他の病気が原因で亡くなった方(例えば、病院不受診や生活習慣の変化に伴う持病の悪化による死亡)。3点目については、例えば、交通事故死、自殺、インフルエンザ等他の感染症による死亡などが過去の同時期より減少した場合、(1)~(3)のプラスマイナスで超過死亡がゼロとなることがあり得ます。実際にそのようなことが起こっていたかを知るためには、死因を含めた解析で詳しく調べる必要があります。
- なぜ毎日ではなく、週ごとで分析をするのですか。
- 推定に用いる死亡者数が小さい場合には推定の不確実性が非常に大きくなりがちです。日本の毎日の死亡者数は都道府県別にみると、必ずしも大きくはなく、本分析では、安定的な推定結果を得るために、週ごとの死亡者数で超過死亡を推定しました。CDCやEuroMOMOでも、同様に週ごとに超過死亡の推定が行われています。
- なぜ全国の超過死亡を直接推定せず、都道府県ごとの超過死亡を合計しているのですか。
- 例えば表2の全国の超過死亡者数の推定は、都道府県ごとの超過死亡者数の積算として計算されており、FarringtonアルゴリズムやEuroMOMOアルゴリズムを用いて直接推定されたものではありません。これは一部の都道府県では速報データが大幅に不完全である一方で、他の都道府県では超過死亡が存在する、という可能性があることを考慮しているからです。全国の超過死亡を直接推定する場合、まず都道府県ごとの観測死亡者数を週ごとに合計することになりますが、その場合いくつかの都道府県における速報データの不完全さによる負の値(つまり報告の遅れが原因で、ある時点の観測死亡者数が95%片側予測区間(上限)を超えない場合)が、他の都道府県で観測された超過死亡を相殺してしまうことになります。CDCも同様の理由で、米国全体の超過死亡は直接推定せず、州ごとの超過死亡の積算を全国の超過死亡としています。