梅毒は, 複雑な進行形態をとる慢性感染症である。感染から発症までの期間は様々で, 後述する第1期の皮膚粘膜症状(Treponema pallidum: T. pallidumの侵入局所に生じるもの)を呈さずに第2期顕症梅毒の皮膚粘膜症状(全身性に生じるもの)を呈するものや, 第1期と第2期の症状を同時に呈する症例などに遭遇することもある。また, 第1期から中枢神経浸潤, 眼病変を呈する症例(神経梅毒)や, 臨床症状を呈さずに, 潜伏梅毒に移行する例があることも念頭におく必要がある。
典型的な臨床経過は, 顕症期と潜伏期を繰り返しながら進行する。症状がないものの治療が必要な梅毒は, 病期にかかわらず潜伏期梅毒という。治癒状態の梅毒は, 陳旧性梅毒と呼ばれる。さらに母子感染による先天梅毒は別に扱われるが, 近年でも年間20例程度の報告がある。
以下に病期ごとの典型例に関して記載するが, 前述通りバリエーションが多いことを念頭においていただきたい。
感染後平均3週間程度の症状を全く呈さない潜伏期(第1期潜伏: 曝露後10~90日)の後, T. pallidum侵入部位に軟骨様硬度の硬結(初期硬結)を呈する。主に外性器や肛門に生じるが, 口唇や手指に症状を呈することもある。初期硬結の段階で医療機関を受診する症例は少なく, 多くは中心部が潰瘍化した硬性下疳(図1)の状態で受診することが多い。さらに所属リンパ節腫脹, 性器の感染であれば主に鼠径リンパ節の腫脹をきたす。一連の症状は一見派手だが, 強い痛みを訴えることは少ない。初期硬結が下疳に至らず消退することもあるが, 下疳に至っても2~3週間程度で消退し, 2期疹を呈するまで無症状となる(第2期潜伏: 下疳出現後4~10週間)。
感染後3カ月程度経過すると, T. pallidumが血行性に全身に移行し, バラ疹, 丘疹性梅毒, 梅毒性乾癬, 扁平コンジローマ(図2), 色素性梅毒, 梅毒性白斑, 膿疱性梅毒, 梅毒性爪囲炎といった皮疹や, 梅毒性アンギーナ, 乳白斑のような粘膜疹, さらには, まばらに毛が抜ける梅毒性脱毛といった様々な症状を呈する。全身症状としては, 発熱や倦怠感, 頭痛, 関節痛などを呈することもある。手掌, 足底に生じる典型的な梅毒性乾癬やバラ疹(図3)は比較的特異で診断価値が高いが, 梅毒は多彩な臨床症状を呈し, 鑑別に苦慮することも多い。第2期梅毒は感染から1年程度, 潜伏期と発症を繰り返すことがある。
感染から年余を経ると深部の筋, 骨に感染し結節性梅毒やゴム種が出現し, 潰瘍化, 瘢痕治癒して変形を残す。梅毒の感染力は時間経過とともに衰え, 感染性はなくなるとされる。大動脈炎, 大動脈瘤, 脊髄癆, 進行麻痺など多彩な症状を呈する。