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風疹・先天性風疹症候群 2020年7月現在

(IASR Vol. 41 p153-154: 2020年9月号)

風疹は風疹ウイルスによる急性感染症であり, 発熱, 発疹, リンパ節腫脹を主徴とする。妊婦が風疹ウイルスに感染すると, 胎内感染により児に伝播することがあり, 特に妊娠20週頃までの母体の感染においては, 心疾患, 難聴, 白内障等の様々な症状を示す先天性風疹症候群(CRS)の児が出生する可能性がある。風疹ならびにCRSに対する特異的な治療法はないが, 風疹含有ワクチンを用いて予防が可能である。

2018年7月以降, 成人男性を中心に風疹の大規模流行が発生したことを踏まえ, 厚生労働省(厚労省)は2018年12月に「風しんに関する追加的対策(以下, 追加的対策)」を取りまとめ, これまで定期接種を受ける機会が一度もなく, 抗体保有率が他の世代に比べて低い1962年4月2日~1979年4月1日までの間に生まれた男性を対象として, 約3年間, 抗体検査を前提とした定期接種を実施することとした(第5期定期接種)(本号3ページ)。

感染症発生動向調査:風疹は感染症法に基づく全数把握対象の5類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-02.html)。2012~2013年の全国的な流行以降, 2014~2017年は患者届出数が少ない状態が続いていたが, 2018~2019年には再び大都市圏を中心に流行が発生し, 2018年2,941例, 2019年2,306例の届出があった(2020年7月7日現在)(図1)。企業, 繁華街の社交飲食店(本号4ページ), 日本語教育機関(本号5ページ)等における集団発生が報告された。2020年は届出数が減少し, 第27週までに97例の報告となっている。2018~2019年においては, 届出患者全体の約95%が成人であり, また約80%が男性であった(図2)。2018~2019年に届出の最も多かった年齢群は, 男性40~44歳, 女性25~29歳であった。患者届出数の多かった2013年, 2018~2019年の風疹患者の予防接種歴を検討すると, 「接種歴なし」が21-30%, 「接種歴不明」が64-69%と全体に占める割合が非常に高く, 一方「接種1回あり」が5-8%, 「接種2回あり」が1-2%と非常に低くなっていることから, 患者発生は主に予防接種歴のない人を中心に起きていることが示唆された(図3)。風疹に対する免疫を獲得するには予防接種を受けることが有効であり, 2回接種を受けることでより確実となる。

CRSも感染症法に基づく全数把握対象の5類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html)。2012~2014年には風疹流行に伴って45例のCRS患者の届出があった(図1)。その後, 2015~2018年には届出がなかったが, 風疹流行に伴って2019年に4例, 2020年に1例の届出があった(2020年7月7日現在)(本号7ページ)。

風疹の検査状況:2017年12月に「風しんに関する特定感染症予防指針」が一部改正され, 2018年1月1日以降, 医師は風疹と臨床診断した時点でまず届出を行うとともに, IgM抗体検査等の血清抗体価の測定の実施と, 地方衛生研究所(地衛研)でのウイルス遺伝子検査実施のための検体の提出が求められるようになった。改正前の2013~2017年には検査診断例の割合は全症例の63~78%であったが, 改正後の2018~2019年には約95%へと向上した(図4)。風疹症例全例に対する遺伝子検査が求められるようになったことに加え, 風疹の流行が発生したことに伴い, 2018~2019年の地衛研等における風疹検査数は2016~2017年と比較して大幅に増加した実態が示された(本号8ページ)。

感染症法に基づき感染症の検体または病原体の検査を行う地衛研等の施設は, 検査の信頼性を確保する取り組みの1つとして, 国などが行う外部精度管理調査への定期的な参加が求められる。2018年度ならびに2019年度の厚労省外部精度管理事業では, 麻疹および風疹ウイルスの核酸検査の精度調査が実施され, 結果の評価, 還元が行われた(本号9ページ)。

感染症流行予測調査:2019年度, 全国17都道府県において, 5,404名(男性2,724名, 女性2,680名)の抗風疹赤血球凝集抑制(HI)抗体価の測定が行われた(図5)。HI抗体価1:8以上の抗体保有率は30代前半までは男女で差がなく, 2歳以上30代前半まではおおむね90%以上であった。女性では30代後半以降も抗体保有率はおおむね90%以上であったが, 30代後半~50代の男性の抗体保有率は90%を下 回っていた。第5期定期接種の対象である1962~1978年度生まれの男性の抗体保有率は, 10年間継続して80%前後で推移しており, いまだに多くの感受性者が残されている(本号10ページ)。この世代の抗体保有率を85%まで引き上げるという追加的対策の目標は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行などのため2021年7月まで期限が延長された(本号3ページ)。

風疹含有ワクチン接種に関する課題:追加的対策の実施に当たっては, 対象年齢の男性は各自治体から発送されるクーポン券を使用して, まずは抗体検査を受け, 抗体陰性もしくは抗体価が不十分な場合には, ワクチン接種の対象となる。クーポン券が未発行であっても, 市町村に希望すればクーポン券の発行を受けることができる。第5期定期接種対象の男性人口は15,374,162人(2019年4月1日時点)であるが, 2020年5月までに抗体検査を受けた者は1,740,839人(対象男性人口の11.3%), 予防接種を受けた者は366,669人(対象男性人口の2.4%)に留まっている。そのため, 厚労省は, 職域(大企業, 中小企業, 自営業等, 公務員等, その他)ごとに風疹の抗体検査を受診できる環境の整備等の対応を関係各所に依頼するなど, 追加的対策のより一層の推進を図っている。

2007年度以降, 麻疹および風疹の定期予防接種率の全国調査が毎年度実施されている(https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-vac.html)。2018年度の風疹の定期予防接種率は, 第1期で98.5%, 第2期で94.6%であり, いずれも調査開始以降で最も高かった。また, 目標とされる95%以上の接種率を第1期についてはすべての都道府県において, 第2期については22県(47%)で達成することができた。しかしながら, 2019年度はCOVID-19の世界的な流行の影響により, 接種率の低下が予想されている。川崎市での調査によると, COVID-19流行下の2020年3月期の麻疹風疹混合ワクチンの接種本数は, 流行前の2019年3月期の接種本数と比べて, 第1期で約95%, 第2期で約53%まで低下していた(本号12ページ)。世界保健機関(WHO)等の2020年6月の調査によると, 世界的にも多くの国で定期予防接種が中断もしくは中止されており, 今後, 風疹を含むワクチン予防可能疾患の流行が危惧される。COVID-19流行下であっても, 定期予防接種(麻疹風疹混合ワクチン)が通常通り行われるよう国および自治体は環境を整え, 啓発を行っていく必要がある。世界的に風疹およびCRS新規発生の排除が進んできているが, いまだ風疹含有ワクチンが導入されていなかったり, 導入されていても接種率が十分でない国がある(本号13ページ)。COVID-19流行の影響で海外からの渡航が激減している状況であるが, 今後渡航が再開された際, 風疹ウイルスが持ち込まれても国内で流行が拡散しないように備えておくことが重要である。

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