海外の風疹と先天性風疹症候群の状況
(IASR Vol. 41 p165-166: 2020年9月号)
はじめに
2012年世界保健機関(World Health Organization: WHO)の世界保健総会において, 世界ワクチン行動計画2011-2020(Global Vaccine Action Plan 2011-2020, GVAP)1)が採択された。その中で, 2020年までにWHOの6地域のうち少なくとも5地域において風疹ならびに先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)の排除を達成することを目標に掲げている。風疹排除は, 「優れた感染症サーベイランスシステムを備えたある地域/国において, “地域流行風疹ウイルス”*による12カ月間以上継続した伝播が認められず, さらに“地域流行風疹ウイルス”によるCRSの事例が認められない状態」と定義されている2)。
WHOの6地域における風疹およびCRS排除への動向と流行状況
西太平洋地域(Western Pacific Region: WPR)には日本を含む37の国と地域が属し, 2019年末の時点ですべての加盟国において風疹含有ワクチン(rubella-containing vaccines: RCVs)が定期接種として導入され, 風疹対策とCRSの予防が進められてきた3)。直近1年間のWPRの主な加盟国の風疹患者報告数は, 中国12,622例(人口100万人当たり8.89例), 日本710例(同5.6例), フィリピン459例(同4.25例)となっており, 中国および日本では遺伝子型1Eおよび2Bウイルスが主要な流行株となっている4)。
アメリカ地域(Americas Region: AMR)には35カ国が属し, すべての加盟国においてRCVsが予防接種スケジュールに導入されている3)。AMRを統括する米州地域事務局(Pan American Health Organization: PAHO)は, 世界に先駆け風疹ならびに新規CRS発生の排除を目標とし, ワクチン接種を基盤とした活動を推進してきた。しかし, アルゼンチン, ブラジル, チリでは, 成人層を対象とした補足的予防接種において, 当初は女性のみを対象にしたため, 2007年に成人男性を中心とした風疹の大規模流行が発生した。その後, 成人男性を含めた補足的予防接種が行われたことで, 2009年を最後に風疹の地域的な流行は認められていない5,6)。2015年にはAMR全域からの風疹ならびにCRSの排除が認定され, AMRにおいては1971年の天然痘の根絶, 1994年のポリオの根絶に続いての排除認定となった4)。風疹に対する免疫を持たない妊婦は流行期間中, 日本に渡航することを避けるようにとのアラートが米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)から発出されたことは記憶に新しい7)。PAHOの採用した戦略を参考に, The Measles and Rubella Initiative(WHO, UNICEF, 国連財団, 米国赤十字, 米国CDCによる国際パートナーシップ)は, 世界的な風疹排除を推進するためにGlobal Measles and Rubella Strategic Plan: 2012-2020を示している8)。
ヨーロッパ地域では53カ国が属し, すべての加盟国でRCVsが導入されており, 2015年を目標に風疹の排除を目指していたが, 2019年時点で患者数は少ないものの, 11カ国(21%)において継続した風疹の発生が報告されている3,4)。
南東アジア地域では11カ国が属し, すべての加盟国においてRCVsが導入されており, 2023年までに風疹を排除することが目標として掲げられている3)。インドでは, 2020年5月までの直近1年間で1,520例(人口100万人当たり1.11例)の患者が報告されている4)。
東地中海地域, アフリカ地域では, 達成目標年は設定されていないものの, 風疹排除が目標として掲げられている。2019年末時点で東地中海地域では5カ国, アフリカ地域では16カ国においてRCVsが導入されていない3)。
風疹およびCRS排除に向けて
2019年末の時点では, 81カ国において風疹が排除されている3)。いまだワクチンの導入が進んでいない東地中海地域, アフリカ地域では, 風疹が流行していると考えられるが, その実態は不明瞭である。さらに導入国であっても接種率が不十分である国もあり, 海外では風疹が流行しており, 風疹排除にはさらなる取り組みが必要と考えられる。日本においては, これまでの定期接種に加え, 成人男性を対象とした第5期定期接種を導入しているが, 海外の風疹流行の状況を鑑みると, 高いワクチン接種率を達成し維持していくことは国内の風疹, CRS排除達成のために必須である。さらに, 南米での成人男性を含む補足的予防接種の実施による風疹とCRS排除達成のような, 海外の成功事例から学ぶ姿勢も必要である。
*“地域流行風疹ウイルス”とは, ある地域/国において, 国内由来, 海外由来にかかわらず, 12カ月間以上継続して伝播した風疹ウイルスを指す
参考文献
- WHO, Global vaccine action plan, 2011-2020, 2012
- WHO, WER 88: 89-100, 2013
- WHO, WER 96: 306-323, 2020
- WHO, Global MR Update July 2020
- WHO, WER 85: 413-424, 2010
- Pan American Health Organization, Elimination of rubella and congenital rubella syndrome in the Americas
- Centers for Disease Control and Prevention, CDC, Rubella in Japan(2018年12月31日)
- he Measles and Rubella Initiative, Global Measles and Rubella Strategic Plan: 2012-2020