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地方衛生研究所等における風疹ウイルス遺伝子検査実施状況の調査

(IASR Vol. 41 p160-161: 2020年9月号)

厚生労働省は2017年の「風しんに関する特定感染症予防指針(以下, 予防指針)」を改正し, 2018年1月1日から風疹サーベイランスを一層強化することとした。地方衛生研究所(地衛研)で行われる風疹ウイルス遺伝子検査については, 改正前は医師から検体が提出された場合には, 「可能な限り」実施するとされていたが, 改正後は「原則として全例」に対し実施するよう求められるようになった。

新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(日本医療研究開発機構:AMED)「麻疹ならびに風疹の排除およびその維持を科学的にサポートするための実験室診断および国内ネットワークに資する研究」(平成28~30年度)および「麻疹・風疹排除のためのサーベイランス強化に関する研究」(令和元年度)(いずれも研究代表者は森嘉生)では, 地衛研における麻疹および風疹検査の現状ならびに課題を明らかにすることを目的に, 2016年から毎年, 麻疹および風疹検査の実施状況についての調査を実施してきた。本調査においては国の感染症発生動向調査(NESID)システムを用いて収集される基本的な情報に加えて, 検査実施症例数の情報などについても収集しており, その一部は日本におけるサーベイランス体制の状況を示す情報として世界保健機関(WHO)西太平洋地域麻疹風疹排除認定委員会に提出する資料作成にも活用されている。本記事においては, 2016~2019年までの4年間の調査結果をまとめ, 地衛研における風疹検査の状況がどのように変化してきたかを紹介する。

本調査の対象施設は, 麻疹もしくは風疹のウイルス遺伝子検査を実施, もしくは実施を検討している地衛研ならびに保健所とし, 毎年調査を実施した。主な調査内容は, 各施設で1月1日~12月31日までに実施された風疹ウイルス遺伝子検出検査, 風疹ウイルス遺伝子型解析ならびに風疹ウイルス分離の実施症例数および陽性症例数である。各地区ブロックの麻疹・風疹リファレンスセンターを担当している地衛研には各ブロックの施設への調査依頼と回答の取りまとめを行っていただいた。2016年および2017年はともに73施設, 2018年は76施設, 2019年は77施設から回答があった()。2016~2018年はNESIDへ麻疹・風疹に関する登録を行っている全施設が網羅されていたが, 2019年分については2020年7月末時点で回答保留の施設が1施設あるため, 2019年のデータは暫定値として取り扱った。

全施設で風疹ウイルス遺伝子検査が実施された症例の総数は2016年1,268例, 2017年706例であったが, 2018年は6,081例, 2019年は6,839例と, 2018年以降大幅に増加した()。検査陽性率についても2016~2017年の1.7-2.2%から, 2018~2019年の18.8-30.6%へと大幅に増加した。さらに, NESIDに報告された風疹患者報告数に対する風疹ウイルス遺伝子検出陽性数(ワクチン株検出症例をのぞく)の割合についても, 2016~2017年の12.1-19.8%から, 2018~2019年の54.6-62.5%へと上昇しており, 予防指針改正後, より多くの症例がウイルス検出によって確認されるようになったと言える。

PCR検査で風疹ウイルス遺伝子陽性であった症例は, 可能な限り風疹ウイルスの遺伝子型解析を行うことが求められている。そしてPCR検査で陽性であった症例における遺伝子型解析実施症例数の割合は2018年が86.8%, 2019年が96.8%であり, 多くの症例に対し遺伝子型解析が実施されていることが示された。しかしながら, 実施症例において遺伝子型解析が成功した症例の割合は2018年が82.9%, 2019年が80.3%に留まっていた。同時に実施した麻疹の調査によると, 2019年の麻疹ウイルス遺伝子型解析の成功症例の割合は93.4%と高く, それと比較して風疹ウイルスの遺伝子型解析の技術的な難しさがうかがえた()。

2018年以降, 地衛研等において風疹ウイルス検査数ならびにその陽性率が大幅に増加した。これは予防指針改正により全例にウイルス遺伝子検査が求められるようになったことに加え, 2018~2019年に全国的な風疹流行が発生したこと, さらにそれに伴って実際に風疹である症例の検体がより多く検査に供されたため, と考えられた。自治体の地衛研や保健所等の多大な貢献により, 正確かつ詳細な国内の風疹流行状況の把握ができるようになったことは, 今後の風疹排除の確認に向けて大きなブレイクスルーになるものと考えられる。一方で, 全例ウイルス遺伝子検査への移行は, 地衛研等における業務負担を増大したと考えられることから, 同時に実施されることの多い麻疹検査とともに検査アルゴリズムの整理や, より簡便かつ効率的な検査法への改良が求められる。

回答にご協力いただきました地方衛生研究所ならびに保健所等の担当者の皆様, ならびに集計にご協力いただきました各地区ブロックの麻疹・風疹リファレンスセンター地方衛生研究所の担当者に感謝申し上げます。

本研究はAMED課題番号JP18fk0108013ならびにJP19fk0108086の支援を受けて実施しました。

 
 
国立感染症研究所ウイルス第三部
 森 嘉生 竹田 誠

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