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2019年1月~2020年6月に出生した先天性風疹症候群5例

(IASR Vol. 41 p159-160: 2020年9月号)

はじめに

風疹に対する免疫のない妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染した場合に, 出生児が先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)を発症するリスクがある。CRSの3徴候は感音性難聴, 先天性白内障, 先天性心疾患(動脈管開存症, 肺動脈狭窄, 心室中隔欠損, 心房中隔欠損など)であり, これら以外にも多様な症状が知られているが, CRSに対する特異的な治療法はない。そのため, 風疹を含むワクチン接種を徹底することで風疹の感受性者をなくし, 風疹の発生そのものをなくすこと(風疹排除)がCRS発生予防の上で重要である。

本邦において2012~2013年に全国的な風疹の流行があり, その結果, 2012年10月~2014年10月の間に, 感染症発生動向調査に計45例のCRSが届け出られた1)。2014~2017年は風疹患者の報告数は減少したが, 2018年第30週頃より患者届出数が急増し, 2019年には2,306例が届け出られている。2015年以降CRSの届出はなかったが, 2019年1月に届出があり, 2020年6月までに5例のCRSが届け出られている。今回は, この5例について記述する。

CRS児の特徴

CRS児の届出年は, 2019年4例, 2020年1例であった。都道府県別の届出数は東京都2例, 福島県1例, 埼玉県1例, 大阪府1例であった。診断方法(重複あり)は, 風疹特異的IgM抗体の検出によるものが5例(100%), 咽頭, 唾液, 尿, 血液検体等からのPCR法による病原体遺伝子の検出によるものが2例(40%)であった。全症例が0~1か月と生後早期に診断されていた。

性別は男児が4例(80%)であった。病型は, CRS典型例が4例, その他が1例であった。診断時点の症状・所見をに示す。3例で先天性心疾患を認め, そのうち動脈管開存症は2例, 卵円孔開存症は1例であった。また, 難聴, 白内障を認めた症例はそれぞれ2例, 1例であった。CRSの3主徴である心疾患, 白内障, 難聴を診断時にすべて認めた症例はなかった。届出時点で死亡した症例は認めていない。

CRS児の母親の特徴

出産時年齢は中央値26歳(範囲21-36歳)であった(不明の1例を除く)。妊娠中の風疹罹患歴は, あり2例, なし1例であり(不明2例), 罹患歴があった母親が風疹を発症した妊娠週数は9週および10週であった。妊娠前の風疹含有ワクチン接種歴について, 2回の接種歴のあった母親はおらず, 1回の接種歴があった母親が2例, 不明が3例であった。

考察・まとめ

2015~2018年にはCRSの報告はなかったが, 2018年第30週からの風疹の流行により, 2019年1月~2020年6月にかけて5例の届出があった。届出時点で死亡していた症例はなかったが, 3例で心疾患を呈していた。心疾患は軽症であれば自然治癒することもある一方, 重症の場合は手術を要することや死に至ることもある。2012~2014年のCRSの調査において1), CRS死亡例11例の死因は間質性肺炎や風疹ウイルス以外の呼吸器感染症などであったが, そのうち10例では何らかの先天性心疾患を有していた。CRSは, 新生児期には明らかな症候を呈さないこともあり, 中枢神経系異常や難聴, 眼疾患などは遅発型症候として知られている。さらに, 複数の合併症を有することも多く, 難聴のほかに眼疾患や精神発達遅滞などを合併した場合には, 認知・言語発達の遅れが生じるリスクがある。CRS児の合併症は臓器や重症度, 併存の状況などにより多種多様であり, ひとりひとりに必要な療育環境が整えられるよう支援が必要となる。また, 母親が自身を責めてしまうことも多いため, 母親への精神的な支援も重要である。

以前の調査において1), 母親がワクチン接種を2回受けていた症例はなかったが, 今回の5例についても同様の結果であった。CRSの予防のためには, 妊婦に風疹ウイルスを近づけないように夫やパートナー, 家族におけるワクチン接種を徹底するとともに, 確実に女性における妊娠前の2回の風疹含有ワクチンの接種, または十分な抗体価があることを確認することが重要である。

 

参考文献
  1. 2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2428-related-articles/related-articles-457/7906-457r02.html
 
 
国立感染症研究所感染症疫学センター

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