国立感染症研究所

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名古屋市における日本語教育機関での風しんの発生状況と対応

(IASR Vol. 41 p157-159: 2020年9月号)

風しんは, 現在, 世界的に排除を目指して対策が進められている感染症の1つであり, 世界的に報告数が減少している。

国内の報告数は, 全数把握疾患となった2008年以降, おおむね年間100-400件の間で推移しており, 特に2015年以降は年間200件以下となっている。しかしながら, 2012年に2,386件, 2013年に14,344件と, 時に大規模な発生がみられるため, 重点的対策が必要な感染症である。

2018年1月, 感染症法施行規則が改正施行され, 改正前は「診断後7日以内に」届出を行うことを医師に求めていたが, 「診断後直ちに」届出を行うことを求めることになった。診断直後の届出により, 全症例で早期の積極的疫学調査を行うことが可能となった。

本市における報告数は, 2015年は2件, 2016年は4件, 2017年は0件と推移していたが, 2018年は関東地方を中心に全国的に流行したこともあり, 報告数は58件であった。その後, 2019年に入ってからの報告数は減り, また, 先天性風しん症候群(CRS)の発生は0件であった。

このような中, 2019年12月18日, 本市の日本語教育機関に通う男性生徒2名が陽性であることが判明した。名古屋市保健所等の調査の結果, 当該患者2名は, 2019年11月に入国した留学生であり, 日本語教育機関在学中の発症であった。

患者2名は別々の国から来たこと, 潜伏期間(14~21日間)を考慮すると, 日本入国後に何らかの感染源への曝露から発症したと考えられる。

当該教育機関は, 職員が10名程度, 生徒は約80~100名おり, 生徒は約1カ月間の実習後, 他の地域へ就労するという実態であった。

当該教育機関の関係者等を中心に, 接触者への健康観察等を実施したところ, 12月20日~25日にかけて, 発熱症状等のある者が4名出現し, 名古屋市衛生研究所がPCR検査をしたところ, 4名中3名が陽性であった。

陽性判明5名の感染については, (1)最初の2名から残り3名が感染した可能性, (2)5名全員が, 別の感染源から感染した可能性, の2つが考えられる。しかしながら, 潜伏期間は14~21日間であり, また, 他者への感染可能期間は発疹出現前1週間と, 各期間に幅があるため, 2つの可能性のどちらかに特定することは困難であった。

そこで, 両視点から, 名古屋市保健所等は当該教育機関と連携し, 感染源を特定するための調査および感染拡大防止のための調査を引き続き実施した。

当該教育機関について, 生徒は日本に入国後すぐ入寮, 翌日から登校する。下校後や休校日における外出先は近隣のみ, 近隣以外の外出を禁止する校内規則となっている。

したがって感染源として, 教育機関外部からの曝露の可能性は低いと考えることができた。しかしながら, 教育機関の生徒・教員等の調査において, 最初の患者2名よりも前の時点での体調不良者や発熱・発疹等の発症者を確認するまでには至らなかった。

感染拡大防止対策について, 12月25日までの陽性者5名のうち, 職員については自宅待機をさせて出勤停止措置をとり, 生徒については陽性者を寮の同一部屋に集めることで他者と隔離させるとともに出校停止(発疹出現後7日程度)措置をとった。

健康観察の一環として, 生徒には日々の健康状態確認を各自実施させるとともに, 風しん様症状の出現した生徒には, これまでの陽性者を診断した医療機関を受診させることとした。その結果, 2019年12月26日~2020年1月15日までに新たな陽性者6名が確認された。

12月25日までの陽性者5名のうち, 生徒は男性のみであったが, 新たな陽性者6名の中には女性生徒も存在していた。そのため, 他者との隔離措置については, これまでの男性寮だけではなく女性寮にも同様の対策を取る必要が生じた。

集団感染初期の時点で, 名古屋市保健所からは教育機関に対して, 生徒・職員および職員家族のワクチン接種歴・既往歴・妊娠有無の調査を協力依頼し, 教育機関側からは妊娠者はいないという情報を提供されていたため, 新たな陽性者の中に女性が確認された際も, 以降のCRSの発生を考慮する必要は無かった。

教育機関における新たな課題は, 1月20日以降に新規生徒を受け入れる予定があり, 隔離棟を追加するなどの対策を講じる予定であったが, 時期を延期することで, 隔離棟の追加は実施しなかった。

生徒は, 約1カ月間の実習後に他地域への就労という経過を辿るが, 生徒が陽性になった場合は, 発疹の消失から一定期間経過後に他地域へ就労させるようにし, 感染性を有しない状態を確認してから就労するよう, 教育機関に対策を取ってもらった。

このような感染拡大防止対策について, 言語の問題もあり健康観察主体は教育機関に依頼したが, 行政・教育機関・医療機関が連携を取って健康観察を行うことで, 当該集団感染は11名の患者発生に抑えることができ, 2020年1月16日以降, 新規患者発生は無かった。

今回の経験から, 当該教育機関では今後, 通常業務における留学生の入国時確認項目に, ワクチン接種歴・既往歴を追加することとした。確認方法は, 本人への聞き取りに加え, 留学生渡航業務を担う組合に対し, ワクチン接種歴・既往歴の確認を依頼することとした。しかし, 一部の組合では, ワクチン接種歴・既往歴の確認に関して理解を得られず, 教育機関は, 理解を得られない組合を通じての留学生受け入れは今後停止することも検討している。

まとめ

本事例は, 患者が留学生で日本語が堪能でなかったこと, 患者の主な行動が教育機関および学生寮であったことから, 教育機関の協力が重要であった。健康観察の主体は教育機関であったが, 行政・教育機関・医療機関が連携を取り, 感染者数を最小限に抑えることができた。

調査の際, 諸外国では偽ワクチンが出回っており, 自分は偽ワクチンを接種されたと主張する生徒もいたが, 今後, そのような生徒およびワクチン未接種の生徒に対する抗体検査・ワクチン接種が必要と考える。しかしながら, 教育機関での滞在が短い生徒の費用負担について, 主体をどこにするかといった課題が残されている。

 
 
名古屋市衛生研究所           
 柴田伸一郎 佐野一雄         
名古屋市保健所             
 近藤良祐 内田利光 辻 俊司 浅井清文
名古屋市中村保健センター        
 内山健太朗 畑 徳之 神谷美歩

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