日時:令和4年6月30日-7月11日
Zoom開催
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Significant role of host sialylated glycans in the infection and spread of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2

Saso W, Yamasaki M, Nakakita S, Fukushi S, Tsuchimoto K, Watanabe N, Nongluk S, Kanie O, Muramatsu M, Takahashi Y, Matano T, Takeda M, Suzuki Y, Watashi K

PLoS Pathog 18(6): e1010590 (2022)
doi: 10.1371/journal.ppat.1010590

約20年前に流行したSARSコロナウイルス(SARS-CoV)と比較して、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の世界での感染者は桁違いに多く、その強い伝播力のメカニズム解明が求められる。本研究では、SARS-CoV-2は宿主細胞のシアロ糖鎖を利用して効率的な感染と伝播を可能とすることを示した。SARS-CoV-2スパイクS1サブユニットはα2-6結合型シアロ糖鎖に直接結合し、これによって宿主受容体ACE2と効率よく相互作用した。一方でシアル酸のSARS-CoV感染への影響はほとんど見られなかった。α2-6結合型シアル酸含有化合物はSARS-CoV-2感染を特異的に強く阻害することが明らかとなった。本研究成果は、SARS-CoV-2の効率良い伝播を説明する新たな分子機構を提唱するものである。

Structural insights into the HBV receptor and bile acid transporter NTCP

Park H, Iwamoto M, Yun JH, Uchikubo-Kamo T, Son D, Jin Z, Yoshida H, Ohki M, Ishimoto N, Mizutani K, Oshima M, Muramatsu M, Wakita T, Shirouzu M, Liu K, Uemura T, Nomura N, Iwata S, Watashi K, Jeremy R. H. Tame, Nishizawa T, Lee W, Sam-Yong Park

Nature
doi:https://doi.org/10.1038/s41586-022-04857-0

B型およびD型肝炎ウイルス(HBV、HDV)は肝細胞表面の、胆汁酸輸送体NTCP/SLC10A1に吸着することで感染を開始するが、その立体構造については長らく不明であった。本研究ではクライオ電子顕微鏡単粒子解析によりNTCPの立体構造を解明し、そのウイルス感染における各アミノ酸の役割を明らかにした。NTCPは、これまでに知られる近縁の胆汁酸輸送体とは異なり、9本の膜貫通αヘリックスからなり、各領域の位置や向きが変化することで胆汁酸とナトリウムを輸送することが示唆された。またウイルスとの結合には、第一膜貫通ヘリックスに存在する、27, 31, 35番のロイシンが重要であることが明らかになった。これらの結果は今後、HBV/HDVの感染機構の理解だけでなく、構造情報を基にした合理的薬剤設計を可能とする革新的な情報である。

Fungal Secondary Metabolite Exophillic Acid Selectively Inhibits the Entry of Hepatitis B and D Viruses

Kobayashi C, Watanabe Y, Oshima M, Hirose T, Yamasaki M, Iwamoto M, Iwatsuki M, Asami Y, Kuramochi K, Wakae K, Aizaki H, Muramatsu M, Sureau C, Sunazuka T, Watashi K

Viruses 14(4): 764 (2022)
doi:https://doi.org/10.3390/v14040764

B型およびD型肝炎ウイルス(HBV/HDV)は世界にそれぞれ2億9000万人、1500万人に慢性感染する公衆衛生上重大な病原体であるが、完治可能な治療薬は存在しない。本研究では北里大学との共同研究で、真菌由来天然化合物をスクリーニングし、Exophillic acidが抗HBV/HDV活性を持つことを見出した。この化合物はHBVおよびHDVが細胞に吸着する際に用いる侵入受容体ナトリウムタウロコール酸共輸送体(NTCP/SLC10A1)と直接結合して、ウイルスとNTCPの吸着を阻害することが明らかとなった。またExophillic acidは既存薬ラミブジンおよびエンテカビルに耐性のHBVにも感染阻害効果を持つことが分かった。以上より、この化合物は新しいHBVおよびHDVの治療薬開発に有用であると期待される。

Ligand recognition by the lipid transfer domain of human OSBP is important for enterovirus replication

Jun Kobayashi, Minetaro Arita, Shota Sakai, Hirotatsu Kojima, Miki Senda, Toshiya Senda, Kentaro Hanada and Ryuichi Kato

ACS Infectious Diseases, In Press
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsinfecdis.2c00108

エンテロウイルスの複製には、宿主細胞のタンパク質PI4KBとOSBPが必要とされます。今回、国立感染症研究所ウイルス第二部第二室と高エネルギー加速器研究機構構造生物学研究センターとの共同研究により、ヒトOSBPの脂質輸送に関与する領域のX線結晶構造解析による立体構造の決定に成功しました。さらにOSBP阻害剤T-00127-HEV2との相互作用に必要とされるアミノ酸残基を同定し、OSBPの新規活性解析法の開発に成功しました。これまでにT-00127-HEV2を含めて幾つかのOSBP阻害剤が報告されていますが、今回得られたOSBPタンパク質の構造を基にして、効果的な活性を示す抗ウイルス薬の開発が進むことが期待されます。

imm 2022 02
Vaccination-infection interval determines cross-neutralization potency to SARS-CoV-2 Omicron after breakthrough infection by other variants

Sho Miyamoto†, Takeshi Arashiro†, Yu Adachi†, Saya Moriyama†, Hitomi Kinoshita†, Takayuki Kanno, Shinji Saito, Harutaka Katano, Shun Iida, Akira Ainai, Ryutaro Kotaki, Souichi Yamada, Yudai Kuroda, Tsukasa Yamamoto, Keita Ishijima, Eun-Sil Park, Yusuke Inoue, Yoshihiro Kaku, Minoru Tobiume, Naoko Iwata-Yoshikawa, Nozomi Shiwa-Sudo, Kenzo Tokunaga, Seiya Ozono, Takuya Hemmi, Akira Ueno, Noriko Kishida, Shinji Watanabe, Kiyoko Nojima, Yohei Seki, Takuo Mizukami, Hideki Hasegawa, Hideki Ebihara, Ken Maeda, Shuetsu Fukushi, Yoshimasa Takahashi, Tadaki Suzuki (†These authors contributed equally)

Med, Volume 3, Issue 4, 2022

2回mRNAワクチンを接種した後にアルファ系統またはデルタ系統のウイルス感染(ブレークスルー感染)を経験した人は、2回ワクチン接種を受けたが感染しなかった人に比べて、オミクロン系統に対する高い血清中和抗体価を持つことを明らかにしました。ワクチン接種から感染に至るまでの日数が長いほど、オミクロン系統を含む変異ウイルスに対する血清中和抗体価が高く誘導されていました。このような変異ウイルスに対する中和抗体の誘導要因の同定は、各地域のワクチン接種や感染流行の状況を踏まえた集団免疫の評価に寄与するだけでなく、3回目のワクチン接種がオミクロン系統の中和抗体産生を誘導する機構の理解を進めると期待されます。

本研究では、オミクロン系統とは異なる抗原のワクチン接種とウイルス感染によるブレークスルー感染にも関わらず、オミクロン系統に対する高い中和抗体価が誘導されること、ワクチン接種から感染までの日数が回復期の従来株、アルファ系統、ベータ系統、デルタ系統、オミクロン系統(BA.1とBA.1.1)に対する血清中和抗体価と正の相関を示すことを明らかにしました。これはワクチン接種後から感染に至るまでの日数が進むほど抗体を産生する記憶B細胞の成熟が進み(Kotaki et al. Science Immunology. 2022)、感染によって記憶B細胞が反応し、中和抗体産生が誘導されることを支持しています。

※本研究はブレークスルー感染の免疫応答から、集団免疫や免疫誘導の理解のために実施されたものであり、ブレークスルー感染を3回目ワクチン接種の代替とすることを支持するものではありません。ブレークスルー感染にも、ウイルス感染による発症及び重症化、他者への感染のリスクが伴います。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan