国立感染症研究所

Structural insights into the HBV receptor and bile acid transporter NTCP

Park H, Iwamoto M, Yun JH, Uchikubo-Kamo T, Son D, Jin Z, Yoshida H, Ohki M, Ishimoto N, Mizutani K, Oshima M, Muramatsu M, Wakita T, Shirouzu M, Liu K, Uemura T, Nomura N, Iwata S, Watashi K, Jeremy R. H. Tame, Nishizawa T, Lee W, Sam-Yong Park

Nature
doi:https://doi.org/10.1038/s41586-022-04857-0

B型およびD型肝炎ウイルス(HBV、HDV)は肝細胞表面の、胆汁酸輸送体NTCP/SLC10A1に吸着することで感染を開始するが、その立体構造については長らく不明であった。本研究ではクライオ電子顕微鏡単粒子解析によりNTCPの立体構造を解明し、そのウイルス感染における各アミノ酸の役割を明らかにした。NTCPは、これまでに知られる近縁の胆汁酸輸送体とは異なり、9本の膜貫通αヘリックスからなり、各領域の位置や向きが変化することで胆汁酸とナトリウムを輸送することが示唆された。またウイルスとの結合には、第一膜貫通ヘリックスに存在する、27, 31, 35番のロイシンが重要であることが明らかになった。これらの結果は今後、HBV/HDVの感染機構の理解だけでなく、構造情報を基にした合理的薬剤設計を可能とする革新的な情報である。

Fungal Secondary Metabolite Exophillic Acid Selectively Inhibits the Entry of Hepatitis B and D Viruses

Kobayashi C, Watanabe Y, Oshima M, Hirose T, Yamasaki M, Iwamoto M, Iwatsuki M, Asami Y, Kuramochi K, Wakae K, Aizaki H, Muramatsu M, Sureau C, Sunazuka T, Watashi K

Viruses 14(4): 764 (2022)
doi:https://doi.org/10.3390/v14040764

B型およびD型肝炎ウイルス(HBV/HDV)は世界にそれぞれ2億9000万人、1500万人に慢性感染する公衆衛生上重大な病原体であるが、完治可能な治療薬は存在しない。本研究では北里大学との共同研究で、真菌由来天然化合物をスクリーニングし、Exophillic acidが抗HBV/HDV活性を持つことを見出した。この化合物はHBVおよびHDVが細胞に吸着する際に用いる侵入受容体ナトリウムタウロコール酸共輸送体(NTCP/SLC10A1)と直接結合して、ウイルスとNTCPの吸着を阻害することが明らかとなった。またExophillic acidは既存薬ラミブジンおよびエンテカビルに耐性のHBVにも感染阻害効果を持つことが分かった。以上より、この化合物は新しいHBVおよびHDVの治療薬開発に有用であると期待される。

Ligand recognition by the lipid transfer domain of human OSBP is important for enterovirus replication

Jun Kobayashi, Minetaro Arita, Shota Sakai, Hirotatsu Kojima, Miki Senda, Toshiya Senda, Kentaro Hanada and Ryuichi Kato

ACS Infectious Diseases, In Press
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsinfecdis.2c00108

エンテロウイルスの複製には、宿主細胞のタンパク質PI4KBとOSBPが必要とされます。今回、国立感染症研究所ウイルス第二部第二室と高エネルギー加速器研究機構構造生物学研究センターとの共同研究により、ヒトOSBPの脂質輸送に関与する領域のX線結晶構造解析による立体構造の決定に成功しました。さらにOSBP阻害剤T-00127-HEV2との相互作用に必要とされるアミノ酸残基を同定し、OSBPの新規活性解析法の開発に成功しました。これまでにT-00127-HEV2を含めて幾つかのOSBP阻害剤が報告されていますが、今回得られたOSBPタンパク質の構造を基にして、効果的な活性を示す抗ウイルス薬の開発が進むことが期待されます。

imm 2022 02
Vaccination-infection interval determines cross-neutralization potency to SARS-CoV-2 Omicron after breakthrough infection by other variants

Sho Miyamoto†, Takeshi Arashiro†, Yu Adachi†, Saya Moriyama†, Hitomi Kinoshita†, Takayuki Kanno, Shinji Saito, Harutaka Katano, Shun Iida, Akira Ainai, Ryutaro Kotaki, Souichi Yamada, Yudai Kuroda, Tsukasa Yamamoto, Keita Ishijima, Eun-Sil Park, Yusuke Inoue, Yoshihiro Kaku, Minoru Tobiume, Naoko Iwata-Yoshikawa, Nozomi Shiwa-Sudo, Kenzo Tokunaga, Seiya Ozono, Takuya Hemmi, Akira Ueno, Noriko Kishida, Shinji Watanabe, Kiyoko Nojima, Yohei Seki, Takuo Mizukami, Hideki Hasegawa, Hideki Ebihara, Ken Maeda, Shuetsu Fukushi, Yoshimasa Takahashi, Tadaki Suzuki (†These authors contributed equally)

Med, Volume 3, Issue 4, 2022

2回mRNAワクチンを接種した後にアルファ系統またはデルタ系統のウイルス感染(ブレークスルー感染)を経験した人は、2回ワクチン接種を受けたが感染しなかった人に比べて、オミクロン系統に対する高い血清中和抗体価を持つことを明らかにしました。ワクチン接種から感染に至るまでの日数が長いほど、オミクロン系統を含む変異ウイルスに対する血清中和抗体価が高く誘導されていました。このような変異ウイルスに対する中和抗体の誘導要因の同定は、各地域のワクチン接種や感染流行の状況を踏まえた集団免疫の評価に寄与するだけでなく、3回目のワクチン接種がオミクロン系統の中和抗体産生を誘導する機構の理解を進めると期待されます。

本研究では、オミクロン系統とは異なる抗原のワクチン接種とウイルス感染によるブレークスルー感染にも関わらず、オミクロン系統に対する高い中和抗体価が誘導されること、ワクチン接種から感染までの日数が回復期の従来株、アルファ系統、ベータ系統、デルタ系統、オミクロン系統(BA.1とBA.1.1)に対する血清中和抗体価と正の相関を示すことを明らかにしました。これはワクチン接種後から感染に至るまでの日数が進むほど抗体を産生する記憶B細胞の成熟が進み(Kotaki et al. Science Immunology. 2022)、感染によって記憶B細胞が反応し、中和抗体産生が誘導されることを支持しています。

※本研究はブレークスルー感染の免疫応答から、集団免疫や免疫誘導の理解のために実施されたものであり、ブレークスルー感染を3回目ワクチン接種の代替とすることを支持するものではありません。ブレークスルー感染にも、ウイルス感染による発症及び重症化、他者への感染のリスクが伴います。

Env-independent protection of intrarectal SIV challenge by vaccine induction of Gag/Vif-specific CD8+ T cells but not CD4+ T cells

Ishii H, Terahara K, Nomura T, Okazaki M, Yamamoto H, Shu T, Sakawaki H, Miura T, Watkins DI, Matano T.

 Mol. Ther. 30: 2048-2057, 2022

ワクチン抗原至適化はHIVワクチン開発において重要であり、HIVの優先的な感染標的であるHIV特異的CD4陽性T細胞の誘導を抑制することは有望な戦略の一つである。本研究では、SIV Gag・Vifを標的とする特異的CD4陽性T細胞を誘導せずに特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導する新規抗原(TC11)を発現するワクチンについて、動物モデルにおけるSIV経直腸感染防御効果を解析した。低用量SIV経直腸反復チャレンジ実験の結果、ワクチン接種群では12頭中8頭で感染が防御され、ワクチン非接種群と比べて有意な感染防御効果を示した。本研究成果は、多様性の高い表面抗原Envを用いないHIVワクチンで初めて粘膜感染防御効果を示したものであり、本抗原設計を活用したHIVワクチン開発の進展が期待される。

Distinct immune cell dynamics correlate with the immunogenicity and reactogenicity of SARS-CoV-2 mRNA vaccine

Takano T, Morikawa K, Adachi Y, Kabasawa K, Sax N, Moriyama S, Sun L, Isogawa M, Nishiyama A, Onodera T, Terahara K, Tonouchi K, Nishimura M, Tomii K, Yamashita K, Matsumura T, Shinkai M, Takahashi Y

Cell Reports Medicine. 2022 Apr 21. doi: 10.1016/j.xcrm.2022.100631.
https://www.cell.com/cell-reports-medicine/fulltext/S2666-3791(22)00156-2

SARS-CoV-2 mRNAワクチンの2回接種は、強力なSARS-CoV-2中和抗体を誘導する一方で、副反応が比較的高頻度に発生する。

本研究では、92人のワクチン接種者に高次元の免疫プロファイリングを適用し、中和抗体価、副反応の重症度、またはその両方と相関する6つのワクチン誘導性免疫ダイナミクスを特定した。ナチュラルキラー(NK)細胞/単球サブセット(CD16+ NK細胞、CD56high NK細胞、Non-classical monocyte)、樹状細胞(DC)サブセット(DC3、CD11c- AS-DC)、NKT様細胞の初期ダイナミクスは、それぞれ中和抗体価、副反応の重症度、あるいはその両方に対して相関を示した。中和抗体価や副反応と相関した細胞は、共通してIFN-γ誘導性ケモカインの上昇と関連していた。一方で、ケモカイン受容体であるCCR2とCXCR3は、中和抗体価と相関した細胞ではワクチン誘導的に発現増強されたが、副反応と相関した細胞では恒常的に発現していたことから、それぞれ異なる様式で発現調節されていることが示された。本免疫データは、免疫原性を高めつつ副反応を低減させるためのワクチン戦略の構築に寄与することが期待される。

本研究はAMEDの支援を受けて実施されました。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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