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所長就任のご挨拶

国立感染症研究所長
倉根一郎

平成27年4月1日国立感染症研究所所長を拝命しました。私は、過去5年間副所長として渡邉前所長を補佐する立場で運営に携わってきました。これまでの経験を生かし、所長として国民の皆様の健康のために誠心誠意尽くす所存です。

昨年のデング熱国内流行、西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行等でも明らかなように、世界のある地域で発生した感染症は瞬く間に国境を越えて広がっていきます。国立感染症研究所の役割は、国の研究機関として、日本にとって、さらには世界にとって脅威となる感染症の発生を迅速に探知・解析し、拡大を阻止するための科学的知見を行政、国内外の専門家、国民に提供することにより、国民の皆様の健康に貢献することにあります。

感染症に対する国の施策のためには、その基盤となるデータを常に収集・解析し、さらに検査のための技術を維持・改良しておく必要があります。国立感染症研究所はサーベイランス業務として、国内で発生する感染症の患者に関する情報、感染症を起こす病原体の情報を受け取り、集計・解析し、国及び各都道府県に還元していますが、これらの情報は行政施策のための基盤として用いられています。また、情報は月報、週報やホームページ等を通じ広く国民の皆様にも提供されています。さらに、レファレンス業務として、我が国の感染症の病原体検査のための方法の開発や、検査のための試薬の準備を行い、さらに地方衛生研究所等に技術移転するとともに、検査困難な検体を受け取り検査し、結果をお返ししています。このようなサーベイランス業務、レファレンス業務においては、地方衛生研究所との連携が必須であり、全国の地方衛生研究所とのネットワークの中でイコールパートナーとして親密な連携のもとに活動しています。

感染症の克服のためにはワクチンが必須の武器であることは論を待ちません。国立感染症研究所は、生物学的製剤(ワクチンおよび血液製剤)の国家検定を通じて、国民の皆様に有効で安全なワクチン、血液製剤を供給する役割を果たしています。国内で製造された製剤であれ、海外から輸入された製剤であれ、国立感染症研究所における国家検定に合格したもののみが国民の皆様に使用されます。近年、ワクチンの種類の増加や、定期接種に供されるワクチンの増加にともない品質管理業務量の増加は著しいものがありますが、国民の健康に直結する業務として、日々取り組んでいます。

国立感染症研究所の特徴として上記の業務を行っている職員のほとんどが学位(博士号)を有し研究者としても国内のみならず世界に通じるレベルでの研究を行っていることがあげられます。これは、感染症サーベイランス、レファレンスおよび生物製剤品質管理はいずれも科学的研究基盤の上に成り立つものであるとの考えによるものであり、これらのいわゆる通常業務が高いレベルに維持されている所以でもあります。

感染症に国境はないことから、国立感染症研究所の業務は世界保健機関(WHO)、特にWHO西太平洋事務局(WPRO)との強い連携の下に行われています。また、中国、韓国、台湾、ベトナム、インド、インドネシア、モンゴル等、特にアジア各国・地域の国立研究機関とは協定を結んでおり、日々の情報交換や、相互の国における発表会を通して、日本の感染症対策の基盤となる情報が得られる体制ができています。

感染研が直面している喫緊の課題として村山庁舎における高度安全実験施設(レベル4施設)の稼働があります。1981年に建設された本施設は、本来の目的であるレベル4施設としての稼働は行われておらずレベル3施設としての稼働にとどまってきました。我が国の感染症対策における本施設の重要性を地域の皆様にも十分理解していただき、レベル4としての稼働に結び付けるべく努力してまいります。

これまで渡邉前所長が推し進めてきた、生物学的製剤国家検定法の改革、地方衛生研究所との協力体制の強化、アジア各国の研究所との連携、連携大学院などを通じた若手研究者の育成、アウトリーチ活動の強化、については今後も継続して発展させていきます。昨今の経済状況等から国立感染症研究所を取り巻く状況は決して穏やかなものではありませんが、所員は国立感染症研究所が“国民のための研究所、国さらに世界に必要とされる研究所”として、より高いレベルでその役割を果たすべく、日々奮闘しています。国民の皆様の期待に応えられるよう、一丸となって頑張ります。よろしくお願い致します。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan