アデノウイルス感染症と肝炎について

2022年4月25日

国立感染症研究所

感染症危機管理研究センター

感染症疫学センター

PDF

アデノウイルスについて1

 アデノウイルス科マストアデノウイルス属に属するヒトアデノウイルスhuman mastadenovirus)は, エンベロープを持たない2本鎖DNAウイルスであり, 物理化学的に比較的安定である。AG種の7種に分類され、現在100を超える型が存在している。51型までは血清型、52型以降は全塩基配列をもとにした遺伝型として報告されている。小児を中心に流行を認め、急性上気道炎や肺炎といった呼吸器感染症、流行性角結膜炎といった眼感染症、感染性胃腸炎といった消化器感染症が代表的だが、出血性膀胱炎などの泌尿器感染症や、稀に脳炎や肝炎を引き起こすこともある(表)。主要な感染経路は接触感染と飛沫感染であり、基本的な感染対策である手洗いやマスク着用が重要である。消毒用エタノールは80%以上の濃度が有効とされている。健常児では無治療でも自然軽快に向かうが、免疫不全患者では致命的な経過となる。

 

                     表

Adeno 220426 table 

アデノウイルスの一般的な流行1

 感染症法に基づくサーベイランスでは、小児科定点として咽頭結膜熱と感染性胃腸炎(アデノウイルスを原因とする胃腸炎が含まれる)、眼科定点として流行性角結膜炎が、定点把握疾患として毎週報告されている。咽頭結膜熱と流行性角結膜炎は夏にピークを認めるが、近年は冬にもピークを認め、通年性に検出される。

 20082020年に地衛研で検出され病原体サーベイランスに報告されたアデノウイルスは、咽頭結膜熱では3型、2型、1型、4型、5型の順、流行性角結膜炎ではD種のうち54型、37型、568型、53型の順に多く、感染性胃腸炎患者ではF種(40および41型)が多く、2019年までは40/41型*、41型の報告が大半を占め、2020年以降はいずれの型の報告も少なかった(図1)。

 

Adeno 220426 figure 

図1 アデノウイルス(Ad)F種の年別推移
*40/41型は2つの型を区別できないELISAキットによる検出と推測される

 

現在のアデノウイルスの流行状況

 アデノウイルスを起因病原体とする近年の感染症流行状況として、咽頭結膜熱と流行性角結膜炎については2020年以降現在まで例年を下回るレベルで推移している。感染性胃腸炎については2020年11週以降例年を下回るレベルで推移していたが、2021年45週以降は例年と同レベルで推移している。病原体サーベイランスにおいて、アデノウイルス 41型は例年多く報告されていたが、2020年以降は例年より報告は少ない(図1)。2022年も現在までに5例の報告があるが黄疸・肝機能障害の記載がある症例は認めなかった。またアデノウイルスが検出され臨床症状に肝機能障害が記載されている症例(2017年~2022年4月で35例)は大半が小児で2020年以降報告数は減少しており、2022年に入ってから報告はない。これらの症例にアデノウイルス40/41, 41型の報告は認められなかった。アデノウイルスの流行状況を反映していると思われる報告に異常な傾向は見られていない。

 

アデノウイルスによる肝炎について

全身性ウイルス感染症の一部として肝炎を起こすウイルスとしてEpstein-Barr virus, cytomegalovirus, Varicella zoster virus, アデノウイルス, Herpes simplex virusが挙げられている3。移植などの免疫不全患者で多く報告され致死的であるが4,5,6健常児での報告もいくつか認められ7,8、多臓器不全で最終的に死亡した症例も報告されている9。アデノウイルスによる播種性感染症10やReye症候群11で肝不全が認められることもある。化学療法中に肝生検でアデノウイルスが同定された壊死性肝炎も報告されている12。成人においても既往のない患者での報告がある13。頻度については明らかになっていないが、1901人の呼吸器検体を検査してアデノウイルス陽性と判明した143名(7.5%)のうち1名に劇症肝炎を認め、cidofovir投与で軽快している14。18歳未満の肝不全症例のウイルス解析を行った報告では860例中199例でアデノウイルスの検索が行われ、8例(4%)が陽性であった15。免疫抑制患者のアデノウイルスによる劇症肝炎89件のreviewでは、発熱が最も見られた初期症状で、治療として肝再移植が12例行われ6例が生存、cidofovir投与が4例で行われ2例が生存、生存例は全体で24/89(27%)であった16。1965年にアリゾナ州で孤発性の感染性肝炎が複数認められた際に、アデノウイルス 5型が検出された報告がある17

 

 

アデノウイルス肝炎の現状のまとめ

現時点(2022年4月25日時点)でアデノウイルスのサーベイランスシステムからは異常な傾向は認められない。肝炎全体の中でのアデノウイルスの位置付けは、肝炎をもともと起こしうる病原体であるが、その大半は免疫不全患者で健常児では稀である。ただし肝炎の原因ウイルスとして必ずしも探索されていないため、その実際の頻度は不明である。

 

関連項目

  複数国で報告されている小児の急性肝炎について

 

 

参考文献

1. IASR Vol 42 p67-69: 2021 https://www.niid.go.jp/niid/ja/adeno-pfc-m/adeno-pfc-iasrtpc/10290-494t.html
2. 日本眼科学会 アデノウイルス結膜炎院内感染対策ガイドライン
3. Williams R, et al. Acute liver failure: established and putative hepatitis viruses and therapeutic implications. J Gastroenterol Hepatol. 2000;15 Suppl:G17-25.
4. IASR Vol 42 p70: 2021 https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2538-related-articles/related-articles-494/10291-494r01.html
5. Lynch JP 3rd et al. Adenovirus: Epidemiology, Global Spread of Novel Serotypes, and Advances in Treatment and Prevention. Semin Respir Crit Care Med. 2016;37(4):586-602.
6. Yoshiyuki Onda et al. Detection of adenovirus hepatitis and acute liver failure in allogeneic hematopoietic stem cell transplant patients. Transpl Infect Dis. 2021;23(2):e13496.
7. Amr Matoq et al. Acute Hepatitis and Pancytopenia in Healthy Infant with Adenovirus. Case Rep Pediatr. 2016; 2016: 8648190
8. Calvin E. Hwang et al. Adenovirus Infection and Rhabdomyolysis as a Cause of Acute Liver Failure in a Healthy Collegiate Football Athlete: A Case Report and Proposed Return to Play Protocol for  Rhabdomyolysis. Cureus. 2021;13(4):e14510.
9. Ferda ÖZBAY HOŞNUT et al. Adenovirus infection as possible cause of acute liver failure in a healthy child: A case report. Turk J Gastroenterol 2008; 19: 281-238.
10. Flor M et al. Disseminated Adenovirus Disease in Immunocompromised and Immunocompetent Children. Clin Infect Dis. 1998;27(5):1194-200.
11. K M Edwards et al. Reye's syndrome associated with adenovirus infections in infants. Am J Dis Child. 1985;139(4):343-6.
12. McKillop SJ et al. Adenovirus necrotizing hepatitis complicating atypical teratoid rhabdoid tumor. Pediatr Int. 2015;57(5):974-7.
13. Khalifa A et al. Adenovirus Hepatitis in Immunocompetent Adults. J Investig Med High Impact Case Rep. 2022;10:23247096221079192.
14. Rocholl C et al. Adenoviral Infections in Children: The Impact of Rapid Diagnosis. Pediatrics. 2004;113(1 Pt 1):e51-6.
15. Schwarz KB et al. Analysis of viral testing in nonacetaminophen pediatric acute liver failure. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014 Nov;59(5):616-23.
16. Ronan BA et al. Fulminant hepatitis due to human adenovirus. Infection. 2014;42(1):105-11.
17. Hartwell WV et al. Adenovirus in blood clots from cases of infectious hepatitis. Science.1966;152(3727):1390

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan