複数国で報告されている小児の急性肝炎について
(第6報)
2023年8月21日
国立感染症研究所
感染症危機管理研究センター
実地疫学研究センター
感染症疫学センター
概要
- 2022年4月以降、欧米で月齢1ヶ月から16歳までの小児の重症急性肝炎症例の集積が報告され、その後各国で類似症例の報告の集積や原因究明の調査が行われてきた。国内では2022年4月27日の厚生労働省による小児の原因不明肝炎の調査に関する協力依頼の発出以降、2021年10月1日以降に診断された原因不明の肝炎を呈する入院例を対象に調査を行ってきた。
- 2021年10月1日から2023年6月15日の間に、国内では暫定症例定義を満たす可能性例の報告が186例あったが、発生状況及び疫学的所見に、経時的変化と特徴的な所見は確認されなかった。また、ウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)の小児の症例数の報告の増加、アデノウイルスに起因する感染症が流行している兆候はみられない。このことから、国立感染症研究所では「国内における小児の原因不明の急性肝炎」の集計は、本稿以降の更新を予定していない。
- 英国から初めての発生報告があった2022年4月5日から7月8日までの間に、世界で1,000例以上の報告があったが、報告のあった各国で症例が著しく増加している兆候はなく、患者の周囲への感染を介して、急速に感染者が増加するような状況ではないと考えられた。欧州疾病予防管理センター(ECDC)は2022年12月に月次報告を終了したほか、世界保健機関(WHO)、英国も2022年7月以降状況の更新は行っていない。
- 英国では、小児の急性肝炎の増加、アデノウイルス40/41型の検出が一部で指摘された一方、米国では小児の急性肝炎、便検体からのアデノウイルス40/41型の検出が増加している徴候はない。
- 原因としてアデノウイルスやアデノウイルス随伴ウイルスの関与を示唆する報告はあるものの、複合的な要因、感染症以外の原因も含めて引き続き調査が進められている。諸外国で症例の把握や原因探索が行われてきたが、症例の増加や明確な原因が特定されるに至っていない。引き続き、海外でも研究調査が行われているが、国内においては、これまでの知見を参考にしつつ、原因不明と思われる肝炎の国内発生症例を対象として原因解明を目指す臨床観察研究を進めていく必要がある。
第5報からの更新点
- 「国内における小児の原因不明の急性肝炎について」と統合
- 国内外での発生状況の更新
目次
- 国外の状況について
- 国内の状況について
・国内における小児の原因不明の急性肝炎報告例の概要
・国内における小児の原因不明の急性肝炎報告例の事例報告集計
・関連する感染症発生動向調査の状況の概要 - 用語解説
国外の状況について
- 2022年7月8日時点で、世界で少なくとも1,010例の症例と46例の肝移植症例が報告された。
2022年4月15日に世界保健機関(WHO)より小児の急性重症肝炎患者の増加が報告されたのち、2022年7月8日までに世界から日本を含むアジア、欧州、アメリカの35の国と地域からWHOに1,010例の報告があった(WHO, 2022)。最初に報告された英国からは2022年7月19日時点で270例の報告があるほか(UKHSA, 2022a)、英国以外の欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)の計22カ国から2022年11月24日時点で572例の可能性例の報告があった(ECDC, 2022)。
また、2022年7月8日時点で、世界から46例の肝移植例の報告があり(WHO, 2022)、このうち英国で15例の肝移植症例が報告された。死亡例については2022年7月8日時点で世界から22例の報告がある(WHO, 2022)。また、米国からは2022年8月17日時点で22例の肝移植症例と13例の死亡例の報告があり、死因については調査中であった(CDC, 2022)。
その後いずれの報告も上記以降、2023年7月18日時点で更新されておらず、特段の懸念となる情報は現時点では報告されておらず、欧州疾病予防管理センター(ECDC)では原因不明の小児肝炎の報告数が少ないことを踏まえて、2022年12月に、Communicable Disease Threats Reportでの月次報告を終了した。
なお、米国は症例数の報告のみ継続しており、2023年7月5日時点で10歳未満の症例395例の報告があった(CDC, 2023)。
- 英国、米国からの報告でアデノウイルス、アデノウイルス随伴ウイルス2との関連が示唆されているが、原因については各国で引き続き幅広く調査中である。
英国で最も多く検出された病原体はアデノウイルス、次いでSARS-CoV-2であった。英国では可能性例も含めた274例中258例に対してアデノウイルスの検査が実施され、170例(67.7%)が陽性であった。アデノウイルスがこれらの症例で最も検出頻度の高いウイルスであることから、肝炎との関連が疑われている(UKHSA, 2022b)。また、SARS-CoV-2の検査は196例で実施され、34例(17.3%)から検出されているが(UKHSA, 2022c)、イングランドの症例ではデータの得られた162例中16例(9.7%)と英国全体と比較して低い割合となっている(UKHSA, 2022b,c)。
米国では224例でアデノウイルスの検査が実施され、100例(45%)でアデノウイルスが陽性であり、うちアデノウイルスの型の判定が実施された13例からは、41型が6例、C1型が1例から検出された。また、調査対象となったうちの36例の肝臓組織の病理学的検査では25例で急性肝炎の所見が見られたが、ウイルス封入体やウイルス粒子は確認されなかった(Cates J. et al., 2022)。アデノウイルスに関連して、異常な免疫反応が起きた、通常より大きな流行が起きたことにより稀な合併症が多く見られるようになった、他の感染症の既感染もしくは重複感染による異常な免疫反応が起きた、など複数の可能性が指摘された(UKHSA, 2022d)。英国での分析では、限られた検体ではあるものの、メタゲノム解析によりアデノウイルス随伴ウイルス2(AAV2)との関連が示唆された(UKHSA, 2022b,c,d)。その後、2022年に把握された事例の中から、3報の症例対照研究が英国及び米国から報告され、いずれも症例群において、アデノウイルスなど他のウイルスの共感染のもとでのAAV2の存在との関連が示唆された(Ho et al., 2023, Morfopoulou et al., 2023, Servellita et al., 2023)。これらの報告では症例群でのAAV2の存在のほか、HHV6BやEBVなどの存在も症例群で有意に高いことを確認しているが、組織検体等の分析からは、これらの共感染のウイルスが直接的に疾患を引き起こしたのではなく、AAV2の増殖に寄与した可能性が示唆された。これまで、AAV2が疾患の原因と直接結びつくとは考えられてはいない。これら3報の中でも、免疫反応が影響した可能性が示唆されており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う学校等の閉鎖などにより、小児がさまざまな病原体に曝露する機会が減少したことに伴い、本来であれば影響のない感染でも大きな反応を惹起してしまう可能性を指摘している。これらの報告でAAV2の存在は指摘されたものの、比較的高率に検出されていたアデノウイルスや他のウイルス同様、AAV2が今回の原因不明の肝炎の原因との結論に至っているわけではないことに留意すべきである。
その他、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質がスーパー抗原としてT細胞の過剰な免疫反応を惹起した可能性も指摘されている(Brodin et al., 2022)など、今回の肝炎の原因究明に関しては、引き続き知見の収集が必要であり、各国でウイルス以外も含めた可能性について、調べられていくものと考えられる。なお、英国においては2022年7月以降、新規症例数の減少も受けて、研究の枠組みにより探索を続けることが示されている(UKHSA, 2022b)。また、AAV2の寄与の検証については適切に計画された調査が必要とも指摘されている(Tacke, 2023)。
- 英国では、小児の肝炎やアデノウイルス40/41型感染症が多く報告された一方、米国ではいずれの増加も見られていない。
英国では2021年と比較して、2022年は1-4歳で小児の肝炎の増加が報告されており、またCOVID-19流行以前と比較して、1-4歳の小児の糞便からのアデノウイルスの検出が増えていたとの報告がある(UKHSA, 2022b,c,d)。一方、小児の肝炎の発生状況及びアデノウイルス40/41型の糞便からの検出割合について、米国内の救急外来の受診データ、臓器移植ネットワークなどのデータを、2021年10月から2022年3月までと、COVID-19流行以前で比較した報告では、原因不明の肝炎または肝移植に関連する小児の救急外来受診に変化は見られず、また0-4歳、5-9歳のいずれの年齢群でも、アデノウイルス40/41型の検出割合の上昇は見られなかった (Kambhampati et al., 2022)。ただし、いずれの報告もCOVID-19流行による受診行動への影響を考慮していないこと、使用されている受診や検査のデータが各国の全ての地域を網羅していないことなどから、これらの文献をもって各国の小児の肝炎やアデノウイルス感染症の流行を同じ条件で比較することはできない。
国内の状況について
国内における小児の原因不明の急性肝炎報告例の概要
厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義は以下の通りである。(令和4年4月27日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「欧州及び米国における小児の原因不明の急性肝炎の発生について(協力依頼)」、5月13日一部改訂)
2021年10月1日以降に診断された原因不明の肝炎を呈する入院例のうち、以下の①、②、③のいずれかを満たすもの:
①確定例 | 現時点ではなし |
②可能性例 |
アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミナ |
③疫学的 関連例 |
②の濃厚接触者である任意の年齢の急性肝炎を呈する者のうち、A型 ~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者 |
2022年4月27日の厚生労働省よる小児の原因不明肝炎の調査に関する協力依頼の発出以降、2023年6月15日までに暫定症例定義②を満たす小児の原因不明の急性肝炎の可能性例が186例報告された(表1)。この186例について、2023年7月19日までに、肝移植を要した症例が3例、死亡例が2例報告された。肝移植を要した症例及び死亡例の割合は、欧米諸国からの報告と比較し低かった。また、前報までの報告と同様、症例の発症時期、居住地域、検出された病原体について、特定の傾向は確認されなかった。
アデノウイルス検査結果について情報の得られた179例のうち、20例(11%)からアデノウイルスが検出され、このうち、欧米諸国で多く報告された41型が検出された症例は3例であった。アデノウイルス及びアデノウイルス41型が検出された症例の割合は、欧米諸国からの報告と比較し低かった。
表. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の発生状況(2023年6月15日10時時点)
可能性例数 |
うちSARS-CoV-2 PCR検査陽性数 |
うちアデノウイルス PCR検査陽性数 |
186 |
11 |
20 |
継続した調査により国内の小児の原因不明肝炎の発生状況及び疫学的所見に、経時的変化と特徴的な所見が確認されなかったことから、国立感染症研究所では「国内における小児の原因不明の急性肝炎」の集計は、本稿以降の更新を予定していない。
背景、急性肝不全の診断基準などについては「国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報) 2022年6月23日時点」を参照のこと。
国内における小児の原因不明の急性肝炎報告例の事例報告集計
厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義を満たす可能性例は、2023年6月15日(第24週)までに、国内で186例報告された。原因となる病原体、発症の時期について特定の傾向は認められなかった。また、症例は全国から報告され、地域的な偏りはみられなかった。
2021年第39週(ただし、10月1日~3日)から2023年第24週(ただし、6月12日~15日)までの、疫学週ごとの発症者数の推移を示す(図1)。
情報が得られた症例において、発症から入院までの期間、入院期間の中央値[四分位範囲]は、それぞれ4日[2-8日]、中央値[四分位範囲]は10日[7-16日]であった(表2)。
86例のうち、102例(55%)は男性、84例(45%)は女性で、年齢中央値[四分位範囲]は4歳9か月[1歳5か月-9歳3か月]であった。情報が得られた症例のうち(以下、分母は各情報が得られた症例数を表す)、基礎疾患を有する者の割合は23%(43例/185例)であった(表2、表3)。
少なくとも1回以上の新型コロナワクチン接種歴がある者の割合は17%(29例/170例)、肝炎発症の前に明らかに新型コロナウイルス感染症の既往歴があった者の割合は16%(29例/176例)であった(表2)。
最もよく見られた症状は発熱、消化器症状であり、前報までの報告と同様であった。肝機能の指標となるAST、ALT、総ビリルビン、PT-INRの中央値についても、前報までの報告と同様の傾向であった(表2)。
全血、血清、便、呼吸器由来検体を主な対象とした病原体検査の結果では、6%(11例/180例)からSARS-CoV-2が検出された(表4)。また、アデノウイルスの検査結果が判明した症例のうち、11%(20例/179例)からアデノウイルスが検出された(表4)。欧米で重症急性肝炎との関連について注目されたアデノウイルス41型は3例から検出された。報告症例から検出された病原体について明らかな偏りを認めなかった。
ICU/HCU入室例は17%(20例/118例)であり、急性肝不全の診断基準を満たす者は、PT-INRに関する情報の得られた121例のうち22例(18%)であり(図1、表2)、これまでの傾向と同様であった。急性肝不全の診断基準を満たす者22例のうち、肝移植を要した症例は3例であり、第3報報告時点からの増加はなかった。急性肝不全の診断を満たす者22例のうち、死亡例が1例報告された。また、肝機能障害以外の死因による死亡例が1例報告された。転帰は2023年7月19日集計時点の情報である。
ただし、直近の発症者については集計時点で報告されていない可能性があること、また、本調査開始となる事務連絡発出以前の発症者は、医療機関が遡って確認する必要があり十分に報告されていない場合があると推定されることから、過小評価である可能性がある。
図1.暫定症例定義に該当する国内の症例の発生状況(n=180*1、2023年6月15日10時時点、発症日別、2021年39週~2023年24週)
*1 発症日不明の6名を除いている
*2発症日不明の1名を除いている
*3発症日事務連絡発出以前の遡り調査や、直近数週の報告については解釈に注意(本文参照)
表2. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の基本情報(n=186、 2023年6月15日10時時点)
*1 重複あり
*2 腹痛、下痢、嘔吐・嘔気のいずれかを呈する者
*3 AST、ALT、総ビリルビン、PT-INRは報告時点までの最大値
*4 AST、ALT、総ビリルビン、PT-INR は、それぞれ情報が得られた183例、183例、140例、121例の情報に基づく
*5 転帰のみ7月19日時点の情報である
*6 肝機能障害以外の死因により死亡例を含む
表3. 基礎疾患の分類(n=43、2023年6月15日10時時点)
*1 重複あり
表4. 検出した微生物の基本情報*1
*1 重複あり
*2 20例のうち14例がPCR法での検出、1例がウイルス培養での検出、4例が迅速抗原検査での検出であり、1例は検査方法不明である
*3 12例のうち9例は院内検査でアデノウイルスを検出したが、地方衛生研究所での検査が陰性であったため、型判定が不能であった
*4 地方衛生研究所での検査で検出した微生物
関連する感染症発生動向調査の状況の概要
- 「ウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)」の小児の症例数の報告が増えている兆候は見られていない(2023年7月10日時点)。
感染症法に基づくサーベイランス対象疾患としてのウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)(全数把握対象の5類感染症)では、小児の報告は稀である。2017年~2020年、2021年~2023年第27週まで、いずれの期間も0~4歳、5~9歳、10~14歳はそれぞれ当疾患報告数の約1%であった(2023年7月10日時点)。
なお、2017年~2019年と比べて、2020年~2022年の報告数は減少、2023年(第27週時点)は2017年~2019年の同時期と比較し同程度の報告数である。
2017年以降、一貫して病型はB型の報告が最も多く、B型・C型肝炎が当疾患の約7割以上を占めている(D型肝炎の報告は0例)。それら以外のウイルス性肝炎の症例報告数はわずかに増加したが、大半が成人からであり、その起因ウイルスの大半はサイトメガロウイルスとEBウイルスである。16歳以下の小児で、アデノウイルスが数例検出されているが、2021年以降に報告数・割合ともに大きな増加は認めてられていない。
- アデノウイルスに起因する症候群が流行している兆候は見られない。
アデノウイルスに起因する症候群には、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、感染性胃腸炎などがある。しかし、感染症発生動向調査から、アデノウイルスの流行状況を反映すると考えられる上記の症候群の発生動向に、例年と比べて異常は見られておらず、2020年以降、2017-2019年とほぼ同程度の定点当たり報告数、またはそれより低いレベルで推移している(国立感染症研究所, 2023a)。
- 病原体検出情報システム(病原体サーベイランス)における報告状況から、アデノウイルスが大きく流行している兆候は見られていない※(2023年7月10日時点)。
地方衛生研究所等は、1~5類感染症(全数把握対象)や5類感染症(定点把握対象)の患者等から検出された病原体情報を、病原体検出情報システムに登録している。また、患者定点医療機関のうち、都道府県が選定した病原体定点医療機関では、対象疾患毎に定められた頻度と検体数で、地方衛生研究所に検体を提出している。
地方衛生研究所等が病原体サーベイランスに報告した病原体の検出情報(感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報)によれば、2022年以降、アデノウイルスの報告数が増加している、あるいは高いレベルでの推移は観測されていない。
- 病原体検出情報システム(病原体サーベイランス)へのアデノウイルスの型別の登録数では、1型、2型が多く、41型の割合は2022年に上昇した※(2023年7月10日時点)。
2017年1月から2023年6月に検体を採取され、病原体サーベイランスシステムに登録されたアデノウイルスの登録数(2023年7月10日時点)は、2020年以降、2019年以前と比較すると少ない数で推移している。型別では、1型、2型の検出が多く、2021年以降、3型の検出数・検出割合(各年のアデノウイルス検出総数に占める3型の割合)は減少した。一方、41型の検出割合は2022年以降に上昇した。型別検出の分布と推移は、病原体定点医療機関に限定した集計においても同様であった。アデノウイルス41型、および40/41型と登録された症例の診断名は、感染性胃腸炎が約9割を占めた。
※病原体サーベイランスにおいては、検出から報告までの日数に規定がないため、報告が遅れる可能性があり、特に直近の情報については、解釈に注意が必要である。
用語解説
アデノウイルス:
アデノウイルス科マストアデノウイルス属に属するヒトアデノウイルス(Human mastadenovirus)は、エンベロープを持たない2本鎖DNAウイルスであり、 物理化学的に比較的安定している。現在A-Gの7種に分類され、100を超える型が存在している。アデノウイルスは、急性上気道炎などの呼吸器疾患や、流行性角結膜炎 (epidemic keratoconjunctivitis, EKC)などの眼疾患、咽頭炎や結膜炎を併発する咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever, PCF)、感染性胃腸炎などの消化器疾患を起こす。また、出血性膀胱炎、尿道炎などの泌尿器疾患、さらに肝炎なども起こす。アデノウイルスの種によって流行状況や炎症反応が異なる(Nakamura et.al, 2018)。
詳細は特集記事(IASR 42(4), 2021【特集】アデノウイルス感染症2008~2020年)を参照。
アデノ随伴ウイルス:
パルボウイルス科ディペンドウイルス属に属するアデノウイルス随伴ウイルス(adenovirus associated virus: AAV)は、エンベロープを持たない1本鎖DNAウイルスであり、物理化学的に比較的安定している。これまでに13の血清型が知られている。アデノウイルス随伴ウイルスは、アデノウイルスの精製過程で混在していたことで発見され、アデノウイルスなど他のウイルスの共感染により増殖されると考えられてきたが、持続感染をして一定のストレス下において増殖能があることが判明している。ヒトにおいてAAVの抗体保有率は高いものの、これまでにヒトへの病原性は知られていない。(Berns & Giraud, 1996)。
参考文献
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- 国立感染症研究所. IASR https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr.html.2023b.
謝辞
当該事例の調査報告、及び日頃より感染症発生動向調査にご参加、ご協力をいただいている全国の医療機関、保健所、自治体本庁、そして地方衛生研究所の関係各位に心より感謝申し上げます。
添付資料
関連項目
更新履歴
第6報 2023/8/21時点
第5報 2023/4/20時点
第4報 2022/7/04時点
第3報 2022/5/27時点
第2報 2022/5/10時点 注)第1報からタイトル変更
「複数国で報告されている小児の急性肝炎について」
第1報 2022/4/25時点
「欧米での小児重症急性肝炎の発生について」