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風疹とは

(2013年05月07日改訂) 風疹(rubella)は、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症である。症状は不顕性感染から、重篤な合併症併発まで幅広く、臨床症状のみで風疹と...

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先天性風疹症候群とは

 免疫のない女性が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児に感染して、出生児に先天性風疹症候群 (CRS)と総称される障がいを引き起こすことがある。

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風疹・先天性風疹症候群 2024年2月現在

(IASR Vol. 45 p51-52: 2024年4月号)
 

風疹は風疹ウイルスによる急性感染症であり, 発熱, 発疹, リンパ節腫脹を主徴とする。風疹に対する免疫が不十分な妊婦が風疹ウイルスに感染すると, 胎盤を通じて胎児にウイルスが感染し, 死産や流産, および心疾患, 難聴, 白内障等の様々な症状を示す先天性風疹症候群(CRS)の児が出生する可能性がある。風疹およびCRSに対する特異的な治療法はないが, 風しん含有ワクチンを用いての予防が可能である。2014年に厚生労働省(厚労省)は「風しんに関する特定感染症予防指針」を策定し, 早期にCRSの発生をなくすとともに, 2020年度までに風疹排除を達成することを目標にした施策の方向性を定めた。さらに厚労省は2018年に「風しんに関する追加的対策骨子」を策定し, 過去に風疹の定期予防接種を受ける機会がなく, 特に抗体保有率が低い世代(1962年4月2日~1979年4月1日生まれ)の男性を対象として, 2019年度から抗体検査を前提とした定期予防接種(第5期)を実施することとした。本定期予防接種は2024年度末まで実施される。

感染症発生動向調査: 風疹は感染症法に基づく5類感染症の全数把握対象疾患である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-02.html)。近年では2012~2013年ならびに2018~2019年に, 各年2,000例以上の風疹症例が届出された(図1)。2020年以降は患者届出数の少ない状況となっており, 特に2021~2023年は年間12-15例にとどまっている。流行時の2018~2019年には20歳以上が患者の約95%を占め, 特に40代を中心とする男性症例の届出が多かった(図2)。2012~2023年における風疹患者の予防接種歴では, 「接種歴不明」が33-75%と多数を占めていた(図3)。予防接種歴が明らかな風疹患者では, 特に全国流行が発生した2012~2013年ならびに2018~2019年において, 「接種歴なし」(全体の21-30%)の割合が多く, 「接種1回あり」(全体の5-8%)および「接種2回あり」(全体の1-2%)の割合は少なかった。非流行期の2014~2017年および2020~2023年においては, 上記のような患者の性別年齢分布ならびに予防接種歴別割合の特徴は明確ではない。

CRSも感染症法に基づく5類感染症の全数把握対象疾患である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html)。風疹流行にともなってCRS患者届出数が増加し, 2012~2014年には45例, 2019~2021年には6例の届出があったが, 2021年第3週以降は届出がない(図1)。

風疹の検査: 2018年以降, 原則として全例の風疹症例に血清学的検査と遺伝子学的検査の実施が求められるようになった。病型別届出割合をみると, 2018年以降は検査診断例による届出割合が増加し, 83-95%で推移している(図4)。地方衛生研究所(地衛研)等では風疹ウイルス遺伝子検出による検査が行われている。厚労省は, 感染症法に基づく行政検査を実施する公的検査機関に対し, 外部精度評価の機会を提供し, 調査結果の評価・還元を通じて精度保証の取り組みを促進し, 検査の信頼性を確保することを目的とした外部精度管理事業を実施している。2023年度の本事業では, 地衛研等を対象に麻疹および風疹のウイルス遺伝子検出による検査に関する外部精度管理が実施された(本号3ページ)。

予防接種率調査と感染症流行予測調査: 2006年度から1歳児(第1期)ならびに小学校就学前1年間の児(第2期)に対し, 風疹の定期予防接種が実施されており, 2008年度からは毎年, 全国の都道府県・市区町村の協力により, 接種率の調査が実施されている(本号4ページ)。2022年度の風しんワクチンの全国の定期接種率は第1期で95.4%であり, 調査開始以来最低であった前年度の接種率より改善がみられたが, 第2期の接種率は92.4%と2年連続で低下していた。第5期については, 国民健康保険中央会の実績をもとに, 2019年度から実施状況の把握が行われている。対象男性のうち, 2023年11月までに抗体検査を受けた人は対象人口の30.7%, 予防接種を受けた人は対象人口の6.6%であった。

2022年度の感染症流行予測調査における風疹感受性調査は, 16都道県で4,144名(男性2,458名, 女性1,686名)を対象にして実施された(図5)。風疹HI抗体価1: 8以上の抗体保有率は, 女性では2歳~60代, 男性では2歳~30代においておおむね90%以上であった(本号7ページ)。第5期定期予防接種対象の男性の抗体保有率は, 2013~2020年度の調査において継続して80%前後で推移していたが, 2021~2022年度の調査では86-88%と増加が認められている。

海外の状況: 世界保健機関(WHO)の各地域では麻疹および風疹の排除目標が掲げられ, 各国で予防接種ならびにサーベイランスの強化などの対策が進められている。そのような取り組みにより, 2015年にはWHOアメリカ地域での風疹の排除が宣言されたのをはじめとして, 2023年8月時点でWHO加盟国のうち64%の国において風疹排除が認定されるに至っている。その一方で, 集団免疫率が不十分な国や地域があること, 年長児や成人における感受性者の蓄積, 計画を実行するためのリソース不足, 不完全なサーベイランス, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにともなう広範な乳幼児期ワクチンの接種率低下, 等の問題が指摘されている。サーベイランスが脆弱な低・中所得国において, 予防接種プログラムを評価するには血清疫学的研究が有用である(本号9ページ)。

今後の課題: 2021年以降, 国内では風疹患者の非常に少ない状況が継続している。今後, 排除認定を受けるためには, 海外から風疹が持ち込まれた場合でも国内で再流行させないことが重要であり, 予防接種やサーベイランス等の継続的な維持・強化が求められる。現在, 成人男性に多く存在する風疹感受性者を減少させるため, 第5期定期予防接種が実施されており, 2025年3月の第5期定期予防接種の終了に向け, 抗体検査および予防接種のさらなる推進が望まれる。抗体検査の受検は対象者本人の知識と周囲からの受検勧奨に強く関連していることが示されており, 啓発活動が受検率向上に繋がる可能性がある(本号11ページ)。また, 近年, 第1期, 第2期の風しんワクチン接種率の低下が認められており, 乳幼児の予防接種率改善のため, 自治体やかかりつけ医等を介した保護者への情報提供等の啓発が必要であろう。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan