(掲載日 2013/11/7)
今シーズンの本格的なインフルエンザ流行を前に、和歌山県内の小学校でB型インフルエンザによる集団発生が確認された。地域の状況を含め、その概要を報告する。
2013年10月7日(月)、田辺保健所に管内の定点医療機関から、地域の小学校(全校児童 約250名)に通う児童の中に簡易キット検査でB型インフルエンザ陽性の患者が複数例確認されているとの連絡が入った。さらに、前日までの1週間(第40週)に同保健所管内の定点医療機関で、県内では3カ月以上みられていなかったインフルエンザ患者が3例確認されていることが分かった。上記小学校ではインフルエンザ様疾患により全校で10名が欠席しており、翌8日(火)にはさらに増加して2年生と4年生の各1クラスずつで3日間の学級閉鎖措置がとられた。なお、同じ校区内の中学校でも同時期にインフルエンザ様疾患による欠席者が確認されている。翌週になると小学校の欠席者数も減少し、同じ地区内の幼稚園にも欠席者が確認されたものの、小・中学校を含め、いずれも概ね散発的に推移した(図1)。その間、感染症発生動向調査では田辺保健所管内の定点医療機関から、第40~42週にかけて累積18例のインフルエンザ発生報告があった。患者はいずれも15歳未満の小児で、6~9歳の児童が3分の2を占めた(図2)。
医療機関において、10月5日~7日にかけて発症した児童、計5名(表1)から鼻汁を採取し、MDCK細胞に接種してウイルス分離を試みたところ、4検体で細胞変性効果が確認された。これらについて、2012年に国立感染症研究所より配布された2012/13シーズンインフルエンザウイルス同定キットを用い、0.75%モルモット赤血球で赤血球凝集抑制(HI)試験による同定試験を行った。得られた4株はすべてB/Wisconsin/1/2010(山形系統)の抗血清(ホモ価160)に対してのみ凝集抑制が認められ、いずれもHI価は160だった。また、ウイルスが分離されなかった症例についても、検体からRNAを抽出し、Real-time RT-PCR法によりB型インフルエンザウイルス遺伝子を検出した。
感染症発生動向調査では、第40週~42週にかけて周辺の保健所管内でインフルエンザ患者発生の報告は無く、また第43週には田辺保健所管内を含めた県内の全定点医療機関で発生の報告が無い。現時点ではインフルエンザの非流行期における局地的な小流行と考えられる。山形系統のウイルスは、AH3亜型が主流であった2012/13シーズンにも県内で流行期を通じて散発的に検出されており、今後もその流行形態を注視したい。
謝辞:感染症発生動向調査にご協力をいただいている各定点医療機関、および本報告に際し情報提供をいただきました田辺市各関係機関の皆様に深謝いたします。
和歌山県環境衛生研究センター 寺杣文男 下野尚悦 田中敬子
田辺保健所 小川晃弘 杉本美佐
医療法人こうま会 うえはら小児科 上原俊宏
平成25年11月5日現在
国立感染症研究所
以下のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、事態の展開があれば、リスクアセスメントを更新していく予定である。
続きを読む: 鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応 (2013年11月5日現在)
2013年11月5日
国立感染症研究所
以下のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、新たな情報により内容を更新していかなければならない。事態の展開にあわせてリスクアセスメントを更新していく予定である。なお、症例情報は、基本的には世界保健機関(WHO)からの公式情報を使用してまとめた。
2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が分離されたとの報告があって以来、中東地域に居住ないし渡航歴・接触歴のある者において、このウイルスによる重症呼吸器疾患の症例が継続的に報告され、限定的なヒト-ヒト感染も確認されている。
9月25日までの133例の症例情報によると、感染経路の情報のある129例のうち33例(26%)は院内感染の可能性があり、医療従事者の感染は全体で23例(17%)であった。2013年3~5月と6~9月の期間における致命率はそれぞれ63%(25/40)、33%(25/77)と低下傾向にある。また、18例(14%)の無症候あるいは軽症例が報告されている[6]。
感染源となる可能性がある動物に関する検討
ヒトからの分離ウイルスについての検討
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(掲載日 2013/11/1)
はじめに: 2013年は全国的に風疹の流行がみられ、2013年8月現在で風疹患者の報告数が13,937件となっている1)。和歌山市では、全国的な風疹患者の増加に伴い積極的に遺伝子検査を実施した。2013年第1週~第35週までに市内各地から検体が搬入され、医療機関30施設の患者から風疹ウイルスが検出されたことにより、和歌山市内の風疹の流行状況が詳細に把握できたので報告する。
検査方法:麻疹・風疹疑い患者26人、風疹疑い患者110人の計136人について、咽頭ぬぐい液134検体、血液43検体、尿2検体の合計179検体が搬入された。遺伝子検査は、風疹検出マニュアル第2版2)に準じて、NS領域のNested PCRを実施した。ウイルス分離は、遺伝子検査陽性患者の咽頭ぬぐい液または血液をVero E6細胞に接種し、35℃で1週間程度培養した。さらに、分離株を用いてE1領域のNested PCRを実施し、ダイレクトシークエンス法により739bpの塩基配列を決定し、NJ法により系統樹解析を行った。
検査結果:患者136人中83人から風疹ウイルスの遺伝子が検出された。検体別検出数は、咽頭ぬぐい液82検体、血液26検体であり、尿からは検出されなかった。また、咽頭ぬぐい液と血液の両方を採取した患者35人中31人から風疹ウイルス遺伝子が検出されたが、そのうち両検体から検出されたのは25人、咽頭ぬぐい液からのみ検出されたのは6人であった。尿を採取した患者2人は、同時に咽頭ぬぐい液も採取したが、両検体とも風疹ウイルス遺伝子は検出されなかった。ウイルス分離については、遺伝子検査陽性患者83人すべてから風疹ウイルスが分離された。風疹ウイルスの週別検出状況は、第8週、第11週、第12週、第15週に1人から検出され、第16週から増加し、第21週には17人とピークとなった。以降、ウイルスの検出数は減少し、第32週からは検出されなくなった(図1)。年齢別では、20~29歳までが28人と最も多く、次に30~39歳までが23人と多かった(図2)。男女別では、83人中57人(69%)が男性、26人(31%)が女性であり、男性からの検出数が女性の約2倍であった。分離株の系統樹解析の結果、分離株83株中80株が2B型、3株が1E型であった(図3)。
考 察: 2013年7月現在の全国の風疹ウイルス検出・分離状況3)は、2013年第1週から検出され始め、ピークは第21週で、その後は減少している。男女別と年齢別では、男性が女性より多く、男性では30~39歳、女性では20~29歳で最も多く検出されている。これら全国の流行分布と和歌山市の流行分布はほぼ一致していることが分かった。また、市内の30代と40代において、男性からの検出数が圧倒的に多いのは、同年代の女性と比較すると抗体保有率が低くなっている感染症流行予測調査(風疹HI抗体保有状況)4)のデータを反映していると考えられる。遺伝子検査では、咽頭ぬぐい液と血液の2検体を採取している遺伝子検査陽性患者31人中6人の血液から風疹ウイルス遺伝子が検出できず、検査材料としては、咽頭ぬぐい液の方が血液より有効であると思われた。系統樹解析の結果、市内流行の主流であった2B型は、80株中79株がRVs/Aichi.JPN/18.13/2と近縁の株で、もう1株はRVi/Chiba.JPN/48.12に近縁の株であり、2つのサブクラスターを形成した。第11週、第20週、第28週に散発的に発生した1E型3株は、RVs/Aichi.JPN/18.13/1と近縁の株であった。ワクチン接種歴がある5人から風疹ウイルスが検出されたが、これら5人の分離株の遺伝子型は2B型を示した。
おわりに:和歌山市内の第1週~第35週までの風疹の流行状況は、積極的な検査の実施と市内全域にわたる多くの医療機関から検体が搬入されたことにより詳細に把握することができた。
2004年と2012年の風疹患者の増加後、通常より多くの先天性風疹症候群(CRS)患者が確認されており、2013年8月現在では、既に2012年を上回るCRS患者数が報告されている5)。今回の流行では、特に20代と30代の世代に風疹患者が多いことから、CRS患者の増加が危惧されている。和歌山市においては、まだCRS患者の報告はないが、引き続き風疹検査を積極的に実施し、風疹患者およびCRS患者の発生状況について注視していきたい。
参考文献
1) IDWR 速報グラフ 累計報告数2013年第35週(2013年9月4日現在)
http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/2131-rubella-doko.html (Accessed 2013/9/24)
2) 病原体検出マニュアル 風疹 第二版
3) IASR 風疹ウイルス分離・検出速報(2013年7月4日現在)
http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-rubella.html (Accessed 2013/9/24)
4) IASR 34: 105-107, 2013
5) IDWR 先天性風しん症候群(CRS)の報告(2013年9月18日現在)
http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/3975-rubella-crs-20130918.html
和歌山市衛生研究所
江川秀信 金澤祐子 太田裕元 廣岡真理子 西山貴士 森野吉晴
和歌山市保健所総務企画課健康危機管理班
丹生哲哉 藤井広子 岩田ゆかり
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国立感染症研究所感染症情報センター 病原微生物検出情報事務局 |