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ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2013年速報第14報-


(2013年10月24日現在)
 日本脳炎は,日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1)。ヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。
 1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2),3),ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。当時,Konnoらは調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4)。現在では,日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致しておらず,近年における日本脳炎患者報告数は毎年数名程度である。しかし,ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていることが考えられる。
 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定することで,日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており,日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色,それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色,調査したブタの80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。
 本速報は日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また,それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては,予防接種を受けていない者,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
 本年度の日本脳炎定期予防接種は,第1期(3回)については標準的な接種年齢である3~4歳および第1期接種が完了していない小学1~4年生(年度内に7~10歳:2003~2006年度生まれ),第2期(1回)については高校3年生相当年齢(年度内に18歳:1995年度生まれ)に積極的勧奨が行われているが,それ以外でも日本脳炎ウイルスの活動が活発な地域に居住し,接種回数が不十分な者は日本脳炎ワクチンの接種が望まれる。なお,日本脳炎の予防接種に関する情報については以下のサイトから閲覧可能である。
国立感染症研究所HP厚生労働省HP

抗体保有状況
(地図情報)
2013-14map


抗体保有状況
(月別推移)
2013-14tab
HI抗体 2-ME
感受性
抗体
都道府県 採血
月日
HI抗体
陽性率
※1
2-ME感受性
抗体陽性率
※2
コメント

5/27

6/24
沖縄県 9/17 10%
(2/20)
50%
(1/2)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち1頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/5

8/5
鹿児島県 9/9 55%
(11/20)
40%
(4/10)
HI抗体陽性例のうち10頭は抗体価1:40以上であり、そのうち4頭から2-ME感受性抗体が検出された。

7/8

7/8
宮崎県 9/9 27%
(3/11)
0%
(0/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/12

8/23
大分県 9/13 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/6

8/6
熊本県 9/10 100%
(20/20)
10%
(2/20)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

7/2
 
 
長崎県 7/23 100%
(10/10)
0%
(0/1)
HI抗体陽性例のうち1頭は抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/7

8/7
佐賀県 9/18 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/23

7/23
福岡県 9/3 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

6/25

6/25
高知県 9/17 80%
(8/10)
0%
(0/8)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/9

7/23
愛媛県 9/17 100%
(10/10)
20%
(2/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

7/4

7/4
徳島県 9/20 100%
(10/10)
22%
(2/9)
HI抗体陽性例のうち9頭は抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/28

8/28
広島県 9/11 70%
(7/10)
71%
(5/7)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち5頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/2
 
 
島根県 9/13 0%
(0/10)
 
 
 

7/3
 
 
鳥取県 8/13 100%
(10/10)
 
 
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40未満であった。

8/20

8/20
兵庫県 9/17 30%
(3/10)
67%
(2/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/19

8/19
滋賀県 9/9 50%
(5/10)
40%
(2/5)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/5

8/5
三重県 9/10 60%
(6/10)
33%
(2/6)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/20

9/2
愛知県 9/17 50%
(5/10)
60%
(3/5)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち3頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/19
 
 
静岡県 9/25 20%
(2/10)
 
 
HI抗体陽性例のうち1頭は抗体価1:40以上であった。

9/18

9/25
石川県 9/25 20%
(2/10)
100%
(2/2)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。

7/16

9/17
富山県 9/24 15%
(3/20)
67%
(2/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。
 
 
 
 
新潟県 9/9 0%
(0/10)
 
 
 

7/30

9/10
神奈川県 9/24 35%
(7/20)
29%
(2/7)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

9/5

9/5
千葉県 9/26 30%
(3/10)
0%
(0/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。
 
 
 
 
埼玉県 9/4 0%
(0/10)
 
 
 

7/30
 
 
群馬県 9/27 0%
(0/12)
 
 
 
 
 
 
 
栃木県 9/24 0%
(0/14)
 
 
 
 
 
 
 
茨城県 9/24 0%
(0/10)
 
 
 

8/27

8/27
福島県 9/24 30%
(3/10)
100%
(3/3)
HI抗体陽性例は抗体価1:10(1頭)、1:20(2頭)であり、いずれも2-ME処理により抗体価1:10未満となった。
 
 
 
 
秋田県 9/26 0%
(0/10)
 
 
 

8/20

8/20
宮城県 9/24 0%
(0/20)
 
 
 
  調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域
  調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が50%を超え,かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
  調査期間中に調査したブタから2-ME感受性抗体が検出された地域
調査期間中に調査したブタからHI抗体あるいは2-ME感受性抗体が検出されたことを示し、日付は今シーズンで初めて検出された採血月日を示す
※1 HI抗体は抗体価1:10以上を陽性と判定した。
※2 2-ME感受性抗体は抗体価1:40以上(北海道・東北地方は1:10以上)の検体について検査を行い,2-ME処理を行った血清の抗体価が未処理の血清と比較して,3管(8倍)以上低かった場合を陽性,2管(4倍)低かった場合を疑陽性,不変または1管(2倍)低かった場合を陰性と判定した。なお,2-ME未処理の抗体価が1:40(北海道・東北地方は1:10あるいは1:20も含む)で,2-ME処理後に1:10未満となった場合も陽性と判定した。
1. Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169.
2. 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103.
3. 新井 智,多屋馨子,岡部信彦,高崎智彦,倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22.
4. Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300.

国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部

ブタの日本脳炎抗体保有状況(地図情報)

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2013-14map
国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報が含まれる。
図1.週別風疹ウイルス分離・検出報告数、2012年第1週~2013年第39週
図2.都道府県別風疹ウイルス分離・検出報告状況、2012年&2013年
図3.風疹ウイルス分離・検出例の性別年齢分布、2012年第1週~2013年第39週

 2013年に入り風疹ウイルスの分離・検出報告数が急増している図1)。事業所、福祉施設、保育所などにおける風疹の集団発生事例(速報参照:島根県)からも報告されている。

 2013年は第1週~第39週までに大阪府276例、千葉県145例、兵庫県98例、和歌山県90例、神奈川県75例、東京都37例、埼玉県28例、島根県25例など32都道府県から943例の風疹ウイルスの分離・検出が報告されている。 遺伝子型別まで実施された357例では、2B型が317例、1E型が38例報告された。 この他に1a型(ワクチンタイプ)2例がMRワクチン接種者から検出されている(図2上)。

 なお、2012年(第1週~第52週)は兵庫県56例、神奈川県34例、大阪府32例、千葉県26例、埼玉県18例、愛知県12例、東京都10例、三重県9例、静岡県7例など24都府県から233例が報告されている。 遺伝子型別まで実施された170例では、2B型が134例、1E型が35例報告された。 この他に1a型1例がMRワクチン接種者から検出されている図2下)

 また、MRワクチン接種後に風疹に罹患し、検査診断により接種前の自然感染が判明した例(速報参照:川崎市)や、麻疹疑い例の検査診断で麻疹ウイルスが検出されず風疹ウイルスが検出された例(IASR 34: 96-97, 97-982013)、急性脳炎患者(1例, 2B型)(IASR 33: 305-308, 2012)や先天性風疹症候群(CRS)患児(IASR 34: 95-96, 2013)からの検出も報告されている。 

 この他に、タイ(2B型1例)、マレーシア(1E型1例)、マレーシア・インドネシア(遺伝子型不明1例)などへの渡航歴のある例も報告されている。

 2012年第1週~2013年第39週の風疹ウイルスの分離・検出例は男性が876例、女性が293例と、男性が多く、特に30代を中心に20~40代男性が多い。女性では15~29歳が多い(図3)。

国立感染症研究所感染症情報センター 病原微生物検出情報事務局

 

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<速報>2013/14シーズン最初に分離されたインフルエンザウイルス―島根県

(掲載日 2013/10/21)

 

当県では、2013年9月17日(第38週)に益田保健所管内一保育園(園児108名)から、10名のインフルエンザの集団発生の報告があった。地域内小流行を含め、患者発生状況およびウイルス検出状況について概要を報告する。 

島根県において、過去5シーズンのインフルエンザ様疾患の学級閉鎖等報告の初発は、A(H1N1)pdm09が大流行した2009/10シーズンを除くと、第47週(2012/13シーズン)から翌年第2週(2010/11シーズン)であるが、2013/14シーズンは第38週に集団発生した。報告のあった県西部の益田保健所管内インフルエンザ定点(定点数5)患者報告数は、第37週(9月9日)から12件、第38週(9月16日)に10件、第39週(9月23日)には17件であり、益田保健所管内でこの時期10~17件(定点当たり2.0~3.4)と地域的な流行となっていた()。また、入院サーベイランスにおいても第38週に3名(80歳、64歳、5歳)、第39週に1名(1歳)、第40週に1名(12歳)、第41週に1名(4歳)のインフルエンザ入院患者報告があった。

この時期に集団発生を探知することは稀であり、今後のインフルエンザの流行を早期発見し、対策を迅速かつ的確に実施するために益田保健所と管内の定点医療機関にインフルエンザ患者検体の提供を依頼し、集団発生のあった保育園の患者1名(5歳)を含む計6名(前述の5歳の他、1歳2名、8歳1名、35歳1名、43歳1名)の患者から咽頭ぬぐい液検体が得られた。

検体からRNAを抽出し、リアルタイムRT-PCR(TaqMan Probe法)によりインフルエンザウイルス遺伝子検査を行い、6検体ともにA(H1N1)pdm09ウイルスが検出された。MDCK細胞によるウイルス分離でも、6検体とも初代培養で細胞変性が認められた。採取したウイルス培養上清に対して0.75%モルモット血球を用いて赤血球凝集(HA)試験を行った。1検体は6HA/25μL、残りの5検体は4HA/25μLのHA価を示した。そこで、国立感染症研究所より2012年に配布された2012/13シーズンインフルエンザ同定キットを用いてHI試験による同定を行ったところ、6株すべてにおいてA/California/7/2009(H1N1)pdm09の抗血清に対するHI価は320(ホモ価640)を示した。A/Victoria/361/2011(H3N2) の抗血清(同5,120)、B/Wisconsin/01/2010 (山形系統) の抗血清(同160)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統) の抗血清(同80)に対するHI価は10未満であった。また、A/H1N1pdm09 H275Y耐性株検出法実験プロトコールに基づき、遺伝子検査で用いたRNAからのH275Y耐性マーカー検出試験を行ったが、6株すべて感受性(H275)株であった。

益田保健所のその後の調査では、集団発生のあった保育園の新規患者は9月18日1名、20日1名、21日1名、24日2名、25日1名であり、合計16名の患者報告があった。9月27日以降、10月16日現在までは保育園での新たな患者発生報告はなかった。また、職員からの患者発生報告はなかった。益田保健所管内インフルエンザ定点患者報告数も第40週(9月30日)は6件、第41週(10月7日)は1件と減少し、散発的な発生となっている。保育園の集団発生が探知の端緒であったが、患者は小児のみでなく広範な年齢層で認められた()。

例年より早期の集団発生であり、県内の他地域ではほとんど患者報告は認められていないが、県薬事衛生課を通じて各保健所等と情報を共有し、今後のインフルエンザウイルスの動向を注視する必要がある。

 

島根県保健環境科学研究所   滝元大和 飯塚節子 穐葉優子 和田美江子   
島根県益田保健所   森永修司 竹田宏樹 坂本あずさ

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このページでは、ジカウイルス感染症関連の記事をまとめています。

 

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