(掲載日 2013/8/26)
2013年6月に岐阜市内の飲食店が調製した弁当を原因食品とする食中毒疑い事例が発生し、疫学調査および病因物質検査を実施した。その結果、A群溶血性レンサ球菌による集団食中毒であると判明したのでその概要を報告する。
事例概要:2013(平成25)年6月28日に岐阜県関市内の病院で開催された医療関係者の勉強会に参加し、提供された弁当を喫食した複数の参加者が体調不良を訴えたため、同病院内で簡易検査を実施したところ、溶血性レンサ球菌が検出された旨、同病院から岐阜県関保健所に連絡があった。弁当を調製したのは岐阜市内の飲食店であったため、7月1日、岐阜県関保健所から岐阜市保健所に通報があり、調査を開始した。
調査の結果、6月26~30日に当該飲食店が調製した弁当を喫食したり、当該飲食店で食事をした8グループ190名のうち143名が有症者だった(発症率75.3%)。主な症状は、のどの痛み、発熱(平均38.5℃)、倦怠感で、潜伏時間は、4.5~74時間(平均28.7時間)だった。有症者および調理従事者の咽頭ぬぐい検査を実施したところ、検査を行った4グループの有症者24名中16名、調理従事者5名中1名からA群溶血性レンサ球菌が検出された。岐阜市保健所は、7月2日、当該飲食店が提供した弁当を原因とする食中毒と判断し、当該飲食店を5日間(平成25年7月2日~7月6日)の営業停止処分とした。
検査結果:有症者の咽頭ぬぐい液10検体、調理従事者の咽頭ぬぐい液5検体、調理従事者の手指のふきとり1検体、調理場のふきとり4検体、食品残品8検体を対象に、A群溶血性レンサ球菌について検査を実施した。検体を血液寒天培地に直接塗抹し37℃、5%CO2下にて、24~48時間培養した。血液寒天培地上でβ溶血環を示したコロニーについて、グラム染色、カタラーゼ試験を実施し、BHI brothでの液体培養所見を確認した。さらにアピストレップ20(biomerieux)にて、菌種の同定を行った。その結果、調理従事者5検体中1検体、有症者の咽頭ぬぐい液10検体中6検体からStreptococcus pyogenesが検出された。調理場および手指のふき取り5検体、食品残品8検体からS. pyogenesは検出されなかった。
岐阜市分離株7株(うち調理従事者由来1株、有症者由来6株)および岐阜県分離株10株(すべて有症者由来株)について群の決定、T型別、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析を行った。連鎖球菌キットストレプトLA「生研」(デンカ生研)で群分けを行ったところ、すべてA群であった。T型は、T型別用免疫血清(デンカ生研)を使用して型別し、すべてTB3264型であった。PFGEによる解析の結果、制限酵素Sma I およびSfi I によるPFGEパターン(図1)がそれぞれ一致し、同一由来株であることが考えられた。
考察:今回、有症者が複数の医療関係者であったため、溶血性レンサ球菌の簡易検査が速やかに行われ、溶血性レンサ球菌による集団食中毒と判明したが、通常消化器系以外の症状の場合は食中毒であることは見過ごされる可能性がある。本事例は原因菌が最初に判明していたため、速やかに調査および検査を実施することができた。
調理従事者から分離されたS. pyogenes と有症者から分離されたS. pyogenes はT型別、PFGEの解析結果により同一と考えられる。食中毒防止のため、調理従事者の健康管理および食品の衛生的な取り扱いが重要である。
最後に検査法について助言していただきました岐阜県保健環境研究所の関係各位に深謝します。
岐阜市衛生試験所
土屋美智代 中山亜由美 日比奈央実 松原祐子 田中保知
岐阜市保健所食品衛生課
各務政志 西部尚史 加納康光
(掲載日 2013/8/26)
2013年5月に愛媛県内の飲食店においてノロウイルス(NoV)GIIによる食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。
5月27日、医療機関から「下痢、嘔吐、発熱等を呈する患者5名を診察した」と八幡浜保健所に連絡があった。同保健所で感染症および食中毒の両面から調査したところ、管内のビジネスホテル内飲食店で会食した7グループ132人のうち5グループ63人、同飲食店が調理した弁当を喫食した1グループ46人のうち25人および同ホテル宿泊客44人のうち22人が、25日から下痢、嘔吐、発熱等の食中毒様症状を呈し、うち58人が医療機関を受診し、1人が入院した。潜伏時間は17.5~118時間で、36~48時間をピークとする患者発生パターンを示した。当所に搬入された、患者糞便19件、調理従事者等糞便21件について、リアルタイムPCR法によるNoVの遺伝子検出を実施した結果、患者糞便16件(84.2%)、調理従事者等糞便8件(38.1%)からNoV GIIが検出された。
今回の事例では、患者に共通する食事は当該飲食店が提供した食事のみであること、患者および調理従事者の糞便からNoVが検出され、患者の症状、潜伏時間等の疫学調査結果と同ウイルスによる食中毒の特徴が一致することから、本事例を同飲食店が提供した食事を介して発生したNoVによる食中毒と断定した。
NoVが検出された患者および調理従事者等の検体について、カプシドN/S領域を増幅するプライマーを用いてPCR増幅後、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、系統樹解析を実施した。その結果、実施した検体はすべてNoV GII/4に型別され、塩基配列は100%一致していた(図1)。さらに、ポリメラーゼ(Pol) 領域からカプシドN/S領域およびカプシドP1/P2領域を増幅し遺伝子解析を行った結果(図2、図3)、用いた株は、すべて既知のGII/4変異株とは異なる新しいクラスターに分類され、Pol領域(699bp)、カプシドP1/P2領域(624bp)とも100%一致し、Sydney/NSW0514/2012/AU(JX459908)とPol領域で98.9%、カプシドN/S領域で100%、カプシドP1/P2領域で98.1%の高い相同性を示した。また、これらの株は、Pol領域ではOsaka1/2007/JP 2007aに最も近縁(相同性94.3%)であり、カプシド領域ではApeldoorn317/2007/NL 2008aに最も近縁(相同性N/S領域97.2%、P1/P2領域94.2%)であったことから、Pol領域とカプシド領域の間で遺伝子組換えを起こしたウイルスであると考えられた。2012年10月以降に県内で検出されたGII/4の新しい変異株と本事例から検出されたGII/4株は極めて近縁(相同性98.4~100%)であった。
今回、消化器症状がみられない調理従事者からノロウイルスが検出されたことから、不顕性感染者の存在にも留意が必要であることを改めて認識した。
愛媛県立衛生環境研究所
青木里美 菅 美樹 山下育孝 服部昌志 大倉敏裕 四宮博人
八幡浜保健所
徳永貢一郎 福田裕子 河瀬 曜 垣内恭子 望月昌三 堀内道生 武方誠二
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ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2013年速報第6報-(2013年8月23日現在) |
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日本脳炎は,日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1)。ヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。 1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2),3),ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。当時,Konnoらは調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4)。現在では,日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致しておらず,近年における日本脳炎患者報告数は毎年数名程度である。しかし,ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていることが考えられる。 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定することで,日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており,日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色,それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色,調査したブタの80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。 本速報は日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また,それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては,予防接種を受けていない者,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。 本年度の日本脳炎定期予防接種は,第1期(3回)については標準的な接種年齢である3~4歳および第1期接種が完了していない小学1~4年生(年度内に7~10歳:2003~2006年度生まれ),第2期(1回)については高校3年生相当年齢(年度内に18歳:1995年度生まれ)に積極的勧奨が行われているが,それ以外でも日本脳炎ウイルスの活動が活発な地域に居住し,接種回数が不十分な者は日本脳炎ワクチンの接種が望まれる。なお,日本脳炎の予防接種に関する情報については以下のサイトから閲覧可能である。 【 国立感染症研究所HP / 厚生労働省HP 】 |
抗体保有状況 (地図情報) 抗体保有状況 (月別推移) |
HI抗体 | 2-ME 感受性 抗体 |
都道府県 | 採血 月日 |
HI抗体 陽性率 ※1 |
2-ME感受性 抗体陽性率 ※2 |
コメント |
◎ 5/27 |
◎ 6/24 |
沖縄県 | 8/12 | 15% (3/20) |
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HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40未満であった。 |
◎ 8/5 |
◎ 8/5 |
鹿児島県 | 8/5 | 35% (7/20) |
100% (4/4) |
HI抗体陽性例のうち4頭は抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 7/8 |
◎ 7/8 |
宮崎県 | 8/19 | 0% (0/11) |
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◎ 8/12 |
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大分県 | 8/12 | 30% (3/10) |
0% (0/3) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 8/6 |
◎ 8/6 |
熊本県 | 8/13 | 30% (6/20) |
100% (6/6) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 7/2 |
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長崎県 | 7/23 | 100% (10/10) |
0% (0/1) |
HI抗体陽性例のうち1頭は抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 8/7 |
◎ 8/7 |
佐賀県 | 8/21 | 60% (6/10) |
67% (4/6) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち4頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 7/23 |
◎ 7/23 |
福岡県 | 8/20 | 70% (7/10) |
100% (7/7) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 6/25 |
◎ 6/25 |
高知県 | 8/6 | 100% (10/10) |
0% (0/10) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 7/9 |
◎ 7/23 |
愛媛県 | 8/12 | 80% (8/10) |
75% (6/8) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち6頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
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広島県 | 8/7 | 0% (0/10) |
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◎ 8/20 |
◎ 8/20 |
兵庫県 | 8/20 | 10% (1/10) |
100% (1/1) |
HI抗体陽性例は抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 8/5 |
◎ 8/5 |
三重県 | 8/12 | 10% (1/10) |
100% (1/1) |
HI抗体陽性例は抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
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愛知県 | 7/22 | 0% (0/10) |
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石川県 | 8/7 | 0% (0/10) |
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◎ 7/16 |
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富山県 | 8/12 -13 |
0% (0/20) |
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新潟県 | 8/19 | 0% (0/10) |
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千葉県 | 8/12 | 0% (0/10) |
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◎ 7/30 |
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群馬県 | 8/7 | 0% (0/12) |
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栃木県 | 8/5 | 0% (0/14) |
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茨城県 | 8/12 | 0% (0/10) |
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宮城県 | 8/6 | 0% (0/22) |
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調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域 | ||||||
調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が50%を超え,かつ2-ME感受性抗体が検出された地域 | ||||||
調査期間中に調査したブタから2-ME感受性抗体が検出された地域 | ||||||
◎ | 調査期間中に調査したブタからHI抗体あるいは2-ME感受性抗体が検出されたことを示し、日付は今シーズンで初めて検出された採血月日を示す | |||||
※1 HI抗体は抗体価1:10以上を陽性と判定した。 ※2 2-ME感受性抗体は抗体価1:40以上(北海道・東北地方は1:10以上)の検体について検査を行い,2-ME処理を行った血清の抗体価が未処理の血清と比較して,3管(8倍)以上低かった場合を陽性,2管(4倍)低かった場合を疑陽性,不変または1管(2倍)低かった場合を陰性と判定した。なお,2-ME未処理の抗体価が1:40(北海道・東北地方は1:10あるいは1:20も含む)で,2-ME処理後に1:10未満となった場合も陽性と判定した。 |
1. | Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169. |
2. | 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103. |
3. | 新井 智,多屋馨子,岡部信彦,高崎智彦,倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22. |
4. | Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300. |
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国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部 |
(IASR Vol. 34 p. 236: 2013年8月号)
2012、2013年に風疹が成人間で流行し1)、風疹ワクチンの需要が高まり、当面ワクチンが不足する心配も出てきた。限られた量のワクチンを有効に使うためには、優先すべき接種対象者を明確にするデータが必要である。そのために国の感染症流行予測調査事業の風疹血清疫学調査2)があるが、国民の免疫状況を調べるための健康人血清を多数収集することは難しいという問題があった。
伴らは以前、全国の産婦人科から一臨床検査会社に依頼された風疹赤血球凝集抑制(HI)抗体価測定の結果を集計し、20・30代女性の年齢別抗体保有率の年次推移(1999~2007年)を調べて報告した3)。この検査会社が疫学研究のために扱える情報は、抗体測定結果のほか血清被採取者の性別・年齢および検査依頼施設の診療科別・都道府県別のみに限られるが、検体は広く全国から集まり、かつその数が多いという特徴がある。今回は、効果的なワクチン接種の参考になればと考え、2013年1~6月に検査依頼のあった20~39歳女性の血清(産婦人科から84,428検体および他診療科から53,212検体、合計 137,640検体)の風疹HI抗体価測定結果を集計解析した。
図1に年齢別抗体保有率(抗体価≧8)のグラフを示す。20代の保有率は30代より低く、かつ23歳(1989年後半~1990年前半生まれ)を谷底とするV字型をしていた。20~22歳(1990年後半以降生まれ)で保有率が上昇する理由は、この年齢群が高校3年生相当の年齢時に麻疹風疹ワクチンの「第4期接種」(2008年度から5年間の時限措置)を受けているためと考えられる。
風疹発生動向調査によれば、2013年1~6月の風疹患者発生は東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県の首都圏と大阪府・兵庫県とに多かった。男女別年齢別にみると、男性患者は全患者のうちの77%を占め、30代に多かったが、女性患者は23%を占め、そのピークは23、24歳(1988年後半~1990年前半生まれ)にあった4)。この女性のピーク年齢は図1グラフの谷底の年齢に対応していた。次に2012年の風疹発生動向をみると、女性患者は2013年より1歳若い22、23歳に多かった5)。そこで2012年の抗体検査結果から抗体保有率曲線を描くと図1と同様の形であったが、V字谷底の年齢は患者発生と同様に1歳若い22歳であった(図は示さず)。すなわち、第4期接種が無かった1989年~1990年前半生まれの女性で抗体保有率が最低で、かつ患者が多かったことが確かめられた。なお、国の風疹血清疫学調査では30代男性で保有率が低いことが示されており、これはその年齢群での患者発生の多さと対応しているが、1990年生まれ女性での保有率の低さは示されていない2)。
本研究の弱点としては、血清検体が健康人の風疹免疫の有無を調べるためのものか、あるいは急性感染の診断のためのものかが不明である。しかし(1)後者の目的には主として酵素免疫法(EIA)によるIgM 抗体検出が使われており、また、(2)HI抗体測定数は患者発生数をはるかに凌駕しているので、HI抗体測定検体の大部分は免疫状態を調べるためのものと考えられる。また集まる検体に地域的偏りもあるが、ワクチン接種の普及によって小児での風疹の自然流行が減ってきた現在、住民の抗体保有状況はその地域でのワクチン接種状況に左右されるようになってきた。しかしワクチンは全国同一のやり方で接種されるので、抗体保有状況の地域差は小さくなってきていると考えられる。
最後に、当面の先天性風疹症候群発生の予防について考えてみたい。東京都感染症情報センターによれば、風疹患者(男女)の4割は職場で、2割は家族・同居人から感染したと推定される6)。これらのことを考慮に入れて、ワクチン接種が優先される女性対象者は、(1)妊娠を希望し、(2)風疹に無免疫で(1989年~1990年前半生まれに多い)、かつ(3)大都市で居住・通勤する人、と言えるだろう。男性対象者としては、妊娠希望の無免疫の女性と同居する無免疫の男性であろう。
参考文献
1) IASR 34: 87-89, 2013
2) http://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/Seroprevalence/r2012serum.pdf
3) 伴 文彦,他,感染症誌 83: 386-391, 2009
4) https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/diseases/rubella/rubella2013/rube13-25.pdf
5) http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/2012pdf/rube12-52.pdf
6) http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/rubella/situation/2013w20/
大妻女子大学 井上 栄
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