ブタの日本脳炎抗体保有状況(地図情報)

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<速報>国内感染が確認された回帰熱の2例

(掲載日 2013/9/3)

 

回帰熱はスピロヘータ科ボレリア属細菌感染による一病態であり、その病原体ボレリアはヒメダニやシラミによって媒介される。これに加えて、2011年、ロシアでマダニが媒介するBorrelia miyamotoiによる回帰熱が報告され1,2)、また2013年には米国の疫学調査により、ライム病流行地では本ボレリア感染による回帰熱症例が存在することが報告された3,4)

この回帰熱の病原体であるB. miyamotoiは、北海道で1995年に発見されたボレリアで、Ixodes属ダニによって伝播される5)。北海道やロシアではIxodes persulcatus(シュルツェマダニ)によって保菌されている。米国や欧州ではI. ricinusI. scapularisI. pacificusから本菌のDNAが検出されている。また、シュルツェマダニはライム病ボレリアも伝播することが知られている。

一方で本ボレリアは培養が困難なため、これまでに適切な実験室診断法が確立されていなかったこと、またB. miyamotoiを媒介するマダニはライム病ボレリアも保菌している場合もあり、このボレリアとの重複感染がしばしば起こるため、臨床診断が極めて難しいことから、その実態はほとんど把握されていなかった。

国立感染症研究所では、過去にライム病が疑われた患者血清約800検体を用いた後ろ向き疫学調査を実施し、このうち発症後の有熱期に採血された2検体からB. miyamotoi DNAを検出した。またこのうちの1検体ではB. miyamotoi HT31株由来の組換えGlpQ抗原を用いたB.miyamotoi特異的な抗体検査により、回復期ペア血清で抗体上昇が確認された。これら2検体は北海道在住の患者より採取されたものであり、いずれもライム病血清診断でも抗体陽性と判定されている。これら2症例は国内でのマダニ刺咬により感染したものと考えられている。いずれの症例もミノサイクリンもしくはセフトリアキソン投与により回復している。

シュルツェマダニの主な生息地域は北海道であり、その活動期は春~秋である。また本マダニは、長野県など本州中部の高山帯(標高約1,200m以上)等でも生息が確認されている。本マダニ刺咬後に起こる原因不明の発熱性疾患等を呈した患者では、ライム病に加えて本疾患を鑑別対象として加えることが必要1,3,6,7)である。

 

参考文献
1) Platonov AE, et al., Humans infected with relapsing fever spirochete Borrelia miyamotoi, Russia, Emerg Infect Dis. 2011.17(10):1816-1823.
2) IASR. 2011. 32(12): 370-371.
3) Krause PJ, et al., Human Borrelia miyamotoi infection in the United States. N Engl J Med. 2013. 368(3):291-293.
4)  IASR. 2013.34(3):70-71.
5) Fukunaga M, et al., Genetic and phenotypic analysis of Borrelia miyamotoi sp. nov., isolated from the ixodid tick Ixodes persulcatus, the vector for Lyme disease in Japan. Int J Syst Bacteriol. 1995. 45(4):804-810.
6) Gugliotta JL, et al., Meningoencephalitis from Borrelia miyamotoi in an immunocompromised patient. N Engl J Med. 2013. 368(3):240-245.
7) Chowdri HR, et al., Borrelia miyamotoi infection presenting as human granulocytic anaplasmosis: A case report. Ann Intern Med. 2013. 159(1):21-27.

<回帰熱の検査について>
回帰熱の検査は国立感染症研究所・細菌第一部で実施可能です。検査検体は、マダニ刺咬後に発熱、頭痛、倦怠感等を示した患者の、1)発熱期の全血もしくは血清、2)髄膜炎を呈した場合には髄液です。また抗体検査を依頼される場合には、回復期血清による確認が重要です。これら検査をご依頼される場合には、最寄りの保健所などへお問い合わせください。

<回帰熱に関する問合せ先>
国立感染症研究所・細菌第一部 川端寛樹
電話番号:03-5285-1111内線2224
電子メール:kbata(アットマーク)niid.go.jp

※PDF版よりピックアップして掲載しています。
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<速報>無菌性髄膜炎患者からのエコーウイルス30型の検出状況(2013年)―滋賀県

(掲載日 2013/8/30)

 

2013年5~6月に無菌性髄膜炎患者(疑い含む)16名の検査をしたところ、12名からエコーウイルス30型(以下E30)が検出された。その12名由来の検体は、2カ所の病原体定点医療機関で採取されたものであった。E30が検出された患者の性別は男性6名、女性4名で、2名は不明であった。年齢分布は4歳が4名と最も多く、次いで5歳と6歳が各2名、8歳が1名であったが、残り3名は不明であった。記載のあった11名の主な症状は、発熱(11名)、頭痛(4名)、嘔吐(3名)および上気道炎(3名)であった。発熱は37.4℃~39.4℃で、平均は38.7℃であった。

エンテロウイルスの検査は、PCR法による遺伝子検出と培養細胞によるウイルス分離/同定を実施した。遺伝子検査には、EVP2/OL-68-1およびEVP4/OL-68-1のプライマーを用いてRT-semi nested PCR後、バンドが得られたものについてダイレクトシークエンスを行いGenBank中の登録株と系統解析を行った。クラスターを形成した株のうち代表株につきCODEHOP-snPCR法によるVP1シークエンス、および分離株すべてについて中和試験により血清型を決定した。なおウイルス分離には、RD-18S、Vero-E6およびHEp-2の各細胞を用いている。その他ウイルスの遺伝子検査についても、症状に応じて実施した。

E30が検出された症例一覧を表1に示す。E30は、遺伝子検査により12名由来の検体から検出され、材料別では髄液11件中11件および咽頭ぬぐい液3件中3件から検出された。

また、ウイルス分離は検体量不足のため2名については実施できなかったが、9名から分離株を得、材料別では髄液9件中8件および咽頭ぬぐい液3件中3件から分離された。

E30が検出された12名中3名では、髄液からアデノウイルス(以下AD)も同時に検出されている。

VP1領域275bpの系統解析の結果、滋賀分離株-20130140CはBastianii株(標準株)と約80%一致しており、2008~2010年に検出された国内分離株とは約7%異なっていた()。

2013年3~7月に採取された無菌性髄膜炎患者(疑い含む)からのウイルス検出状況を表2に示す。3月にコクサッキーウイルスB群3型(以下CB3)およびエコーウイルス18型(以下E18)が検出されている。

滋賀県感染症発生動向調査における無菌性髄膜炎の定点当たりの患者数は、2013年第16週に0.14人/定点を示し、第22週は0.28人/定点であった。

管轄保健所でこれら無菌性髄膜炎患者(疑い含む)の調査を行ったところ、疫学的な関連性は認められなかった。

E30は、滋賀県では1990~1991年、1997~1998年および2003年に多く分離されている。現在も検体搬入が続いており、前回の流行から感受性個体が蓄積しているため、今後のE30の動向について注視していきたい。

 

 

滋賀県衛生科学センター  児玉弘美 小菅裕也 山田香織 鈴木智之 小嶋美穂子 石川和彦 井上剛彦  
滋賀県長浜保健所 谷口秀美  
国立感染症研究所 吉田 弘

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<速報>流行シーズン途中で臨床症状の変化が認められた長野県中部(松本市)における手足口病について   
 ―過去の臨床症状と比較した2013年の流行状況―

(掲載日 2013/8/30 一部修正 2013/10/9)

 

はじめに:手足口病は、国内ではヒトエンテロウイルスA群に属するコクサッキーウイルスA群16型(CA16)、エンテロウイルス71型(EV71)、コクサッキーウイルスA群10型(CA10)などが毎年の流行における主たる病原体として知られている。

近年、長野県中部では、2006年にEV71、2011年にコクサッキーウイルスA群6型(CA6)による手足口病の流行を経験した。今季においても、本県中部では手足口病が流行した。今季の臨床像と検出ウイルスについて報告する。

過去に流行したEV71 、CA6 の特徴:2006年、本県中部ではEV71による手足口病の流行を経験した。当院において観察された患者の特徴は次の通りである。1)平均年齢が他のウイルスによる手足口病と比較して高いと考えられること、2)約70%が最高体温37.5℃未満であったこと(必ずしも高熱を有する場合ばかりではない)、3)口腔粘膜疹は頬部および舌など口腔前方に1~2mm大程度であったこと、4)皮疹は手掌手背・足底足背、膝と肘、臀部を中心とする紅斑性小水疱であったこと、であった。

2011年には、ヘルパンギーナの主病因ウイルスのひとつであったCA6が、突然手足口病の流行ウイルスとして国内に登場したことは記憶に新しい。当院においても、受診した手足口病患者のうち43例からCA6、CA10、CA16が検出され、その割合は31:10:2であった。主因ウイルスであったCA6では、最初から四肢を中心とした皮疹で受診する患者以外に、発熱とヘルパンギーナ様の口腔粘膜疹(口蓋垂や口蓋弓)が先行した後、皮疹を認める例が全患者の約40%であった。また、発症年齢は2歳以下が多く、経過中の最高体温が37.8℃以上と高く、発疹は半数近くが従来の手足口病の分布範囲を超え、体幹、口唇周囲など広範囲に出現した。中には大きな水疱を認めたため水痘との鑑別に苦慮した例や、治癒後3~4週を経て、爪甲の層状変化や脱落を認めた例も散見された1,2))。これらはいずれも2008年のEV71を主因とする手足口病の臨床像と異なるものである。

今シーズンの流行状況と検出ウイルス:長野県中部地区(松本市)における2013年の手足口病の流行は、第25週(6/17~)から始まり第29週(7/15~)~第30週(7/22~)にピークを迎えた。第31週(7/29~)現在、当院のみにおいても、のべ200名近くが受診した(図1)。期間中、患者から無作為に抽出し、採取した26検体についてウイルスの検出を行ったところ、ウイルスはシーズン当初、EV71が検出されたが、7月中旬以降EV71に加えCA16やCA6も検出され混合流行となっていた。

臨床症状の違いを感じた第28週以前と以降:手足口病におけるEV71優位のCA16との混合流行と考えられる第28週以前と、さらにCA6が混在したと考えられる第29週以降で、患者の年齢や発熱(最高体温)、発疹等の臨床症状の違いがうかがわれた。すなわち、受診者の年齢は、第28週以前では、3~5歳が多くみられたが、それ以降は1~2歳も増加した(図2)。

また、発熱分布は、第28週以前は、患者の70%近くは37.5℃未満であったのに対し、それ以降では37.5℃未満は50%程度に減少した。逆に39.5℃以上の高熱例が10%程度に増加した(図3)。

このように、診療の現場でシーズン途中に疫学的および臨床症状の違いがうかがわれたのは、過去に経験したEV71、CA6が主病因ウイルスであった手足口病の特徴をふまえると、EV71主流の流行からCA6との混合流行に移行したためと推察された。

まとめ:今期前半を終えて、手足口病に関連するところとして、6月初旬にはEV71による無菌性髄膜炎例、7月初旬には、CA6による爪脱落例を伴う手足口病を経験した(いずれも原因ウイルスを特定できた)。また、今期流行内における反復感染例(二度かかり例)も散見された。さらにデータが蓄積されていけば、症候群としての手足口病における起因ウイルスごとの症状について、有意差を持った違いを明らかにすることができる可能性がある。エンテロウイルス属の持つ多様性に一層の関心を払いつつ、今期後半も臨床ウイルス学的なデータの蓄積を継続していきたい。

 

参考文献
1)松岡高史, 他, 小児科臨床 66: 1735-1741, 2013
2)内山友里恵, 中沢春幸, 長野県環境保全研究所研究報告 8: 77-82, 2012

 

松岡小児科医院 松岡高史  
長野県環境保全研究所感染症部 内山友里恵

鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応

平成25年8月30日現在
国立感染症研究所

 

背景

 以下のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、事態の展開があれば、リスクアセスメントを更新していく予定である。

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan