研究課題名
成人の侵襲性細菌感染症サーベイランス構築に関する研究
研究員の構成
研究責任者 大石和徳 (国立感染症研究所感染症疫学センター長)
分担研究者
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氏 名
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所 属
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職 名
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青柳 哲史
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東北大学大学院医学系研究科
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助教
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石岡 大成
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国立感染症研究所感染症疫学センター第五室
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室長
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大日 康史
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国立感染症研究所感染症疫学センター第一室
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主任研究官
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木村 博一
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国立感染症研究所感染症疫学センター第六室
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室長
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金城 雄樹
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国立感染症研究所真菌部
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室長
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柴山 恵吾
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国立感染症研究所細菌第二部
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部長
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高橋 弘毅
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札幌医科大学医学部内科学第三講座
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教授
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武田 博明
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済生会山形済生病院呼吸器内科学
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部長
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田邊 嘉也
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新潟大学医歯学総合病院感染管理部
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准教授
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常 彬
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国立感染症研究所細菌第一部
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主任研究官
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西 順一郎
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鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野
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教授
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藤田 次郎
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琉球大学大学院 感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科)
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教授
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丸山 貴也
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独立行政法人国立病院機構三重病院
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研究員
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笠原 敬
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奈良県立医科大学大学院感染症センター
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講師
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山崎 一美
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長崎医療センター臨床研究センター
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室長
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横山 彰仁
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高知大学医学部・内科学呼吸器内科
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教授
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渡邊 浩
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久留米大学医学部臨床感染医学部門
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教授
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研究の目的と概要
- 肺炎球菌は成人の市中肺炎の主要な原因菌であり、しばしば重症化する。肺炎球菌性肺炎の大半は菌血症を伴わない肺炎であり、侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease: IPD)の頻度は肺炎球菌性肺炎の10%以下と推定される。23価肺炎球菌ワクチン(以下PPV23)はワクチン含有血清型によるIPD発症を予防するとされ、さらにわが国では高齢者におけるPPV23の肺炎球菌性肺炎に対する予防効果も報告されている。平成24年5月に予防接種部会がPPV23を予防接種法対象ワクチンへの追加を示唆したことから、成人におけるIPDサーベイランス体制の構築と人口ベースでのPPV23の有効性評価が求められている。また、平成25年4月よりIPDは感染症法上の5類全数把握疾患となった。
- インフルエンザ菌も成人の市中肺炎の原因菌の一つであり、稀に成人にも侵襲性インフルエンザ菌感染症を引きおこす。しかしながら、わが国における成人の侵襲性インフルエンザ菌感染症の罹患率は不明である。平成25年4月より侵襲性インフルエンザ菌感染症が感染症法上の5類全数把握疾患となった。
- 研究の目的は、1)わが国の人口ベースの成人におけるIPDの罹患率を算出する体制を構築する。2)一部の地域では、わが国の人口あたりの成人の肺炎球菌性肺炎の年間発生数を把握し、肺炎球菌性肺炎の罹患率を算出する。3)分離菌株の血清型決定を行い、IPDや肺炎球菌性肺炎の原因菌の血清型分布を明らかにする。4)わが国の人口ベースの成人における侵襲性インフルエンザ菌感染症の罹患率を算出する体制についても構築する。5)侵襲性インフルエンザ菌感染症患者からの分離菌株の莢膜血清型決定を行い、血清型分布を明らかにする。
- 本研究は、PPV23の有効性評価、感染症法上のサーベイランス体制構築のために必要であり、成人の人口ベースでのIPDや肺炎球菌性肺炎の罹患率を評価する点に特色があり、かつ独創的である。
- H25年度には医療機関からの分離株の、地方衛生研究所(以下、地研)を経由し、国立感染症研究所(以下感染研)へ収集する流れを構築し、多施設共同観察研究として、H25〜H27年度における1道、9県のIPDの罹患率、2県および上五島町(長崎県)の肺炎球菌性肺炎の罹患率を算出し、わが国のIPDおよび肺炎球菌性肺炎の推定患者数を提示する。また、IPDおよび肺炎球菌性肺炎の原因菌の血清型分布等を明らかにする。
- 本研究によって、PPV23の定期接種化による成人への直接的なIPDおよび肺炎球菌性肺炎の予防効果、PCV7定期接種化による成人への間接的なIPDおよび肺炎球菌性肺炎の予防効果が評価されることが期待される。
研究の対象及び実施場所
(1)研究対象:多施設共同観察研究を1道、9県で実施。
A.登録症例:
- 感染症発生動向調査(5類全数把握)でNESIDに登録された成人のIPD症例数、患者情報(匿名)を感染研感染症疫学センターで集計する。
- 登録された症例につき年齢、性別、併存症、ワクチン接種歴(インフルエンザワクチン、PPV23)、症状と重症度、転機、後遺症等を記録し、集計する。
- 感染症発生動向調査(5類全数把握)でNESIDに登録された成人の侵襲性インフルエンザ菌感染症についても症例数、患者情報(匿名)を感染研感染症疫学センターで集計する。
対象となる症例定義は以下の通り:
a. IPD : 血液、髄液などの無菌的検体から肺炎球菌が分離され、臨床的に肺炎(画像診断を含む)、敗血症、髄膜炎と診断された症例。
b.肺炎球菌性肺炎 : 臨床的に肺炎(画像診断を含む)とされ、喀痰グラム染色と喀痰培養(107 cfu/ml以上)、尿、喀痰検体検体で肺炎球菌抗原が陽性となった症例(血液培養陰性)。
c. 侵襲性インフルエンザ菌感染症:血液、髄液などの無菌的検体からインフルエンザ菌が分離され、臨床的に肺炎(画像診断を含む)、敗血症、髄膜炎と診断された症例。
対象年齢は15歳以上とする。
B.分離菌株の収集と検査:
- 感染研感染症疫学センター、各県の保健所の協力のもと、IPD症例の発生した医療機関からIPD患者分離株を収集する。宮城、山形、上五島ではIPDに加え、肺炎球菌性肺炎を対象とする。感染研感染症疫学センター、各県の保健所の協力のもと、侵襲性インフルエンザ菌感染症症例の発生した医療機関から患者分離株を収集する。
分担研究者は各県の病院ネットワークの各病院に対して、あらかじめIPD(あるいは肺炎球菌性肺炎)、侵襲性インフルエンザ菌感染症の原因菌の保存を可能な限り依頼しておく。患者分離株は地研経由、あるいは医療機関から直接、感染研にゆうパックで送付し、血清型およびMLST検査を実施する。
(2)実施場所
感染研感染症疫学センター細菌第一部、細菌第二部、地域保健所、地研、各医療機関(呼吸器内科および総合内科)が研究フィールドとなる。臨床情報および原因菌の解析は、感染研(感染症疫学センターおよび細菌第一部、細菌二部)、地研が研究施設となる。
医療機関で分離された血液、髄液などの無菌的検体あるいは喀痰由来菌株を保健所経由、あるいは医療機関から直接、感染研にゆうパックで送付し、感染研細菌一部で血清型およびMLST検査を実施する。また、地研では肺炎球菌のserotyping multiplex PCR検出を実施する。
研究の方法及び研究期間
(1)研究方法および期間
H25〜H27年度の各県のIPDおよび肺炎球菌性肺炎、侵襲性インフルエンザ菌感染症の罹患率を算出し、その平均値と全国の15歳以上の成人の総数から、わが国のIPDおよび肺炎球菌性肺炎の推定患者数を提示する。また、IPDおよび肺炎球菌性肺炎、侵襲性インフルエンザ菌の原因菌の血清型分布を明らかにする。
H25年度には医療機関からの分離株の、地研を経由し、感染研へ収集する流れを構築し、地研での肺炎球菌 multiplex serotyping PCR検査の講習会を開催、社会に対する研究成果の発信を目的として、研究班のホームページを立ち上げる。各県もしくは地域あたりのIPDおよび肺炎球菌性肺炎、侵襲性インフルエンザ菌の症例数からそれぞれの罹患率を決定し、その妥当性を評価する。また、原因菌の収集と細菌学的解析を開始する。H26〜27年度には症例データ、分離菌収集に問題が懸念された県、地域の支援対策を講じる。
【研究期間と研究計画】
H25年度には1道、9県における病院ネットワークの構築を急ぎ、人口ベースのサーベイランス体制構築を急ぐ。地衛研での菌遺伝子検出検査の講習会を開催する。各県もしくは地域あたりのIPDおよび肺炎球菌性肺炎の罹患率を推定し、その妥当性を評価する。また、原因菌の収集と細菌学的解析を開始する。
H25年度:
各県では医療機関から血液・髄液由来株を地研に送付し、Serotyping multiplex PCR検査が実施できる体制を構築する。肺炎球菌性肺炎を対象とする宮城県、山形県、上五島では、地域の病院ネットワークで患者数を検知し、菌株を分離できる体制を構築する。
1年目のIPDおよび肺炎球菌性肺炎、侵襲性インフルエンザ菌感染症の罹患率、菌の血清型、PspA clade分布の概要を得る。これらの成果に関する研究班ホームページを作成する。
H26年度以降:
全年度の各分担研究の問題点を評価し、改善を進める。感染研における菌株の血清型決定・確認、分子疫学的検討、薬剤耐性の検討、PspA clade分布の検討結果を解析する。IPD症例と肺炎球菌性肺炎、侵襲性インフルエンザ菌感染症の臨床像と原因菌の細菌学的性状の関連性について解析する。
【解析計画】
本研究は人口ベースの多施設間共同観察研究である。各県の年間IPD症例は10-50例、分離菌数も10-50株、肺炎球菌性肺炎症例は年間100-200例、分離菌株50-100株、血液・喀痰検体100-200検体と推定される。侵襲性インフルエンザ菌感染症は年間10例、分離菌株は数株と推定される。本研究では以下の評価を行う:
A. 当該地域の15歳以上の人口あたりの年間発生数から罹患率(人/10万人/年)を推定する。
B. 菌血清型検査等から、ワクチン含有血清型の分布を解析し、PPV23により予防可能な肺炎球菌感染症の程度を評価するとともに、定期接種による血清型分布の変化を検証する。
C. 患者の病型、重症度や転機と血清型・遺伝子型との関係、ワクチン接種歴との関係を解析し、ハイリスクグループを同定する。
(2)共同研究者の役割分担
1.研究代表者 大石和徳:研究統括、ホームページの立ち上げ、管理
2.研究分担者 大日康史:全国データ解析、感染症疫学的検討
3.研究分担者 高橋弘毅:北海道における登録症例情報収集
4.研究分担者 青柳哲史:宮城県における登録症例情報収集
5.研究分担者 武田博明:山形県における登録症例情報収集
6.研究分担者 田邊嘉也: 新潟県における登録症例情報収集
7.研究分担者 丸山貴也:三重県における登録症例情報収集
8.研究分担者 笠原 敬:奈良県における登録症例情報収集
9.研究分担者 横山彰仁:高知県における登録症例情報収集
10.研究分担者 渡邊 浩:福岡県における登録症例情報収集
11.研究分担者 山崎一美:長崎県、上五島町住民コホートにおける登録症例情報収集
12.研究分担者 西 順一郎:鹿児島における登録症例情報収集
13.研究分担者 藤田次郎:沖縄県における登録症例情報収集
14.研究分担者 石岡大成:Serotyping multiplex PCR、地研の連携強化
15.研究分担者 木村博一:二次性肺炎球菌性肺炎に関する検討
16.研究分担者 常 淋:肺炎球菌株の血清型決定・確認、分子疫学的検討
17.研究分担者 金城雄樹:肺炎球菌分離株のPspA cladeの分布
18.研究協力者 牧野友彦:全国データ収集、疫学研究デザイン
倫理的配慮
(1) 研究の意義を明確にし、研究によって生ずる危険性と医学上の成果の総合的判断
本研究は、感染症発生動向調査(NESID)に基づいて得られたIPDおよび侵襲性インフルエンザ菌感染症の匿名化された患者情報から、患者情報を医療機関に保管されている患者の過去の診療録から調査し、また患者からの分離菌株を収集する。過去の入院患者に追加情報を求める場合でも、新たに患者に侵襲を加えるものではない。通常の診療の範囲を通じて得られた患者情報および患者からの分離株をもとに行う観察研究であり、介入は行わない。本研究により、わが国における成人のIPDおよび侵襲性インフルエンザ菌感染症の罹患率が明らかになる。従って、本研究においては、医学上の成果が総合的に勝ると判断される。医療機関研究担当者はHelsinki宣言に法り、患者の尊厳を守り、症例記録票では患者氏名は連結可能匿名化するため、プライバシーは保護される。
(2) 研究対象者(試料等提供者を含む)個人の情報保護とその家族の人権擁護
本研究は既存情報を基にした後ろ向き研究であるため、患者に対して研究参加の同意を求めるものではない。また、患者情報については診療録から匿名化して情報を抽出し、解析および発表において個々の患者が同定されることはないため、患者に対する不利益は無い。
(3) 研究対象者(試料等提供者を含む)への説明の内容と同意の確認方法
本研究は既存の診療情報を用いる研究であるため、インフォームドコンセントの必要性は該当しない。診療録情報の不足について患者へ主治医から問い会わせを行う場合があるが、過去の診療情報を補完するものであり、疫学研究の倫理指針に照らして研究参加の同意は必ずしも必要ない。研究計画については内容を感染研感染症疫学センターのホームページ(http://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html)に公表し、患者から拒否の申し出があった場合にはこれに対応する。
(4) その他参考となるべき事項
各地域の共同研究機関においては倫理審査を行わず、国立感染症研究所において一括して行う。
研究の資金源
平成25年度からの厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業)において指定研究として採択された。